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ディック・カヴェット・ショーのジャニス・ジョプリン [音楽]

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日曜日の夕方、今にも雨の降りそうな雲の空が次第に暮れて、この頃は日が短くなったなあと思いながら車の中でFMを聴いていたらストーンズの〈Paint It, Black〉が流れて来て、でも久しぶりに聴いてみると細かいところを全然忘れているから、ええっ? こんな音が入っていたんだっけ、とまで思ってしまう。シタールがあんなに活躍していたなんていう記憶は全然無いし、最後のほうのリズムがボレロみたいになるところも新しい発見だった。発見というよりは忘れているだけで、5年経ったらまた同じこと書いてそうな気もするが。

家に帰ってきてからあらためて聴いてみると、いままでのストーンズの印象が少し変わってしまったような、なぜなら、意外にと言ったら失礼なんだけど、細かいところがよくできていて、だからヒットしたんだろうと思うんだけれど、でもやっぱり変わってないかな。
それでYouTubeを探すと、ビートルズと同じようにストーンズもエド・サリヴァン・ショーに出ていて、若い頃のミック・ジャガーの動きは、最近のテイラー・スウィフトとのデュオなんかよりずっと軽快だし (あたりまえだけど)、あぁこうして人間は年齢を重ねていくんだということをしみじみと理解するのです。ミックのテイラー・スウィフトに対する扱いはジェフ・ベックのタル・ウィルケンフェルドへの眼差しと似ていて、でもそんな好々爺みたいなのにはなって欲しくない。それでストーンズの場合、今回発見したのですがエド・サリヴァン・ショーよりマイク・ダグラス・ショーのほうが、最初の頃のブルースへのこだわりみたいなのが見えてくるので好きです。

で、こうした音楽番組というのは当時のアメリカではとても多かったのだろうが、その中でディック・カヴェット・ショーにおけるジャニス・ジョプリンを探してみた。
ショーへの出演は、1969年7月18日、1970年6月25日、1970年8月である。1969年と1970年ではジャニスに明らかな変化がある。それは1年経って歌への自信が深まったというプラスの部分と、やがてやって来る死の予兆のような、マイナスの暗い表情があるように思う。それは結果論に過ぎないのかもしれないが、彼女は歌うことによってそれまでの鬱屈した自分を解放したのだけれど、むしろそれによってさらなる別の種類の苦悩を背負い込んでしまったようだ。だが歌はいつの場合も素晴らしい。
この8月のディック・カヴェット・ショーがLast interview of Janisであると説明文にある。公開の場での歌唱としても最後だと思われる。

6月と8月のカヴェット・ショーの間には、6月29日から7月3日に多数のミュージシャンたちと特急列車を借り切ってカナダ・ツアーをした。それが《フェスティバル・エクスプレス》という映画となって残されている。そしてその後、アルバム《Pearl》を製作中の1970年10月4日に彼女は突然亡くなる。享年27歳。おそらくオーバードースであった。

こうして偶然に探してみたりすると、ジャニス・ジョプリンの場合でも私はほとんど何も知らないに等しいことを痛感する。まず基本的な音源を聴いていないのだ。ジャニスとジミ・ヘンドリックスは音楽活動の時期が極端に短く、オフィシャルなアルバムは数枚しかないが、その残した音のアーカイヴの渉猟はかえって大変な気がする。

ジャニスの生涯を描いた《Janis: Little Girl Blue》(2015) というドキュメンタリー映画があるのだそうだが未見である。タイトルの〈Little Girl Blue〉をジャニスはもちろん歌っているが、その〈Little Girl Blue〉って、私の記憶の第一順位は同名アルバムのジョニ・ジェイムスだ (1955)。だがリチャード・ロジャース作のスタンダードなので (1935年作)、多数の歌手がカヴァーしていてもおかしくはない。たとえばニーナ・シモンもそういうなかのひとりだ (1958)。
だがジャニスの〈Little Girl Blue〉は〈Summertime〉の歌唱と同じで、聴いた途端に彼女だとわかる独自の解釈をしている。全てがジャニスのための歌というふうに考えてしまってもおかしくない。

GLIM SPANKYはジャニスの〈Move Over〉をカヴァーしているが、ジャニスのコピーではなく松尾レミ自身の歌い方であることに好感が持てる。松尾レミは今年27歳。もうすぐ28歳になるから、とりあえず年齢ではジャニス・ジョプリンを追い越せる。


Janis Joplin/Pearl
Pearl




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ジャニス:リトル・ガール・ブルー (キングレコード)
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〈THE DICK CAVETT SHOW. July 18, 1969.〉

Janis Joplin/To Love Somebody
https://www.youtube.com/watch?v=yX-OkV_2z8A

Janis Joplin/Try (just a little bit harder)
https://www.youtube.com/watch?v=7gsqBEPSrd0


〈THE DICK CAVETT SHOW. June 25, 1970.〉

MOVE OVER by Janis Joplin
https://www.youtube.com/watch?v=YYWdiG1Bf0c

Janis Joplin - Get it while you can
https://www.youtube.com/watch?v=ju9yFA1S7K8


〈THE DICK CAVETT SHOW. August, 1970.〉

Janis Joplin on The Dick Cavett Show 1970
https://www.youtube.com/watch?v=xGYcWmwvZxQ


GLIM SPANKY/MOVE OVER
https://www.youtube.com/watch?v=KStAxfknmOM

Rolling Stones Mike Dougles Show 1964
https://www.youtube.com/watch?v=W-ycN9EOi8o
演奏曲:
Carol (Chuck Berry)
Tell Me (Mick Jagger/Keith Richard)
Not Fade Away (Buddy Holly)
I Just Want to Make Love to You 恋をしようよ (Willie Dixon)

カヴァー曲の元:
Chuck Berry/Carol
https://www.youtube.com/watch?v=JdFwoDzpAvQ
Buddy Holly/Not Fade Away
https://www.youtube.com/watch?v=AyTtFNGzFsE
Willie Dixon/I Just Want to Make Love to You
https://www.youtube.com/watch?v=oHVkxFOMx2Y

全て最初のスタジオ・アルバム《The Rolling Stones》(1964) に収録。
但し当時はイギリス盤とアメリカ盤があり、収録曲が少し異なる。
〈Not Fade Away〉はアメリカ盤にのみ収録されている。
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コメント 10

にゃごにゃご

ジャニス・ジョプリン、いいです。
20年くらい前に「ジャニス」という映画を観ました。
by にゃごにゃご (2019-10-21 12:19) 

lequiche

>> にゃごにゃご様

ジャニスお好きなんですか。
もう没後50年ということなのですが、
これだけの歌手は出てきませんね。
実は彼女のLittle Girl Blueは初めて聴きました。
あぁ、こういうふうに歌っていいんだ、
と、ちょっとびっくりでしたが納得しました。
by lequiche (2019-10-21 14:07) 

きよたん

壮絶な生き方をした歌手と言う印象があります。
映画にもなったし声のキーが高い人ですね
by きよたん (2019-10-21 17:22) 

末尾ルコ(アルベール)

テイラー・スウィフトよりもタル・ウィケンフェルドへ眼差しを贈りたいものです・・・という個人的嗜好も問題はさて置いて、若き日のミック・ジャガーの動きは凄いですよね。
(これがロックなんだ!)と溜め息が出るし、いつ観てもエキサイティングです。
リンクしてくださっている動画はさほど派手な動きは出ませんが、それでもミック・ジャガーの動きは別格ですね。
まったく間延びしないどころか、目を惹き付けられ続ける。
ロバート・プラントがつい間延びしてしまうことはよく知られていましたが(笑)、ミック・ジャガーはワイルドでかつアウトローでかつ洗練されています。
昨今ブームのフレディ・マーキュリーもインスト部分で間延びしないよう様々な工夫がありましたが、ミックは工夫しているように見えないところも凄いです。

ジャニス・ジョプリンはもちろんかなり聴き、観ておりますが、凄く好きだったことはないんです。
ジミヘンやジム・モリソンには入れ込んでいた時期がありましたが、ジャニスは好きですけれど、熱烈に・・・という感じではなかったです。
ただ、今聴くともっと理解ができそうな、入っていけそうな気もしており、今回よい機会を与えていただきました。
どうなのでしょう、ミック・ジャガーの動きに「洗練」という言葉を使いましたが、かつてのわたしはジャニスのパフォーマンスにそれを感じることができておらず、聴き方・観方が浅かったとも言える気がしています。
ジャニスの人生をあらためて見直しながら、今後聴き方を深めたいなと思います。

GLIM SPANKYのは太鼓の入り方がカッコいいですね。
この曲は日本人が下手に力んで歌うと恥ずかしくなるのですが、ちょっとたどたどしく聴こえるヴォーカルが可愛らしくもロックです。


・・・

チョン・キョンファが71歳というのには少し驚きました。
わたしどうも、ずっと若いままのキョンファンのイメージを持っていたようです。
その理由を自己分析しますに、過去のアルバムばかりしょっちゅう聴いていたことと、近年の動画をほとんどチェックしてなかったことなどが挙げられると思います。
わたしの中でチョン・キョンファのイメージが20~30代で止まっていたというのはある意味驚きであり、反省です。
アルバム何枚も買っていながら、その人の動向をこれだけ追ってなかったという。
自分が興味を持っている対象には、当然ながら対象ごとに興味の濃淡がありますが、わたしの場合興味を持っているはずなのにほっぽり出しっぱなしの場合も多くあり、もっとさらに意識的に興味の対象を掘り下げていかねばとの反省です。
そうした態度を保持している方がずっといろいろ愉しめるはずですからね。

「ロック」という言葉は不思議ですね。
外見的にロックに見せかけていても、ロックとしてはまったく聴こえてこないものもあるし、音楽的にはロックとは遠いのに、「ロック」なテイストを感じるものもある。
「ロックとは精神性である」と言ってしまえばあまりに安易ではありますが、少なくとも「対象とどう対峙するか」とは大きな関りがありそうだと考えています。

> 全曲ブラームスでも持ちこたえられるという自信

セットリストと言いますか、どのような演目を組むかはファンの大きな愉しみですね。
バレエ公演でも全幕物なら一公演一演目で済みますが、ガラ公演だとたいがい「ビギナーにも分かりやすい演目と通向けの演目」がミックスされています。

> ブラームスはピアノの独奏曲というのがもっと曲者

それはぜひとも聴いてみます。
そうした曲を聴いた後にサガンの『ブラームスはお好き』を再読すると違った印象を受けるかもしれません(笑)。
で、次の動画を視聴してみました。

ブラームス: 2つのラプソディ,Op.79 第1番 ロ短調 Brahms, Johannes / 2 Rhapsodien Op.79 h moll Pf.萬谷衣里:Mantani,Eri
https://www.youtube.com/watch?v=VzrMaXRB1Qc

クラシック音楽を聴き込んだ経験希薄なわたしには言葉で説明できませんが、何か「ブラームス」というあまりにメジャーな名前からすれば不思議な曲の展開だなとは感じます。
でもこういう曲も好きです。

> 効率の良い練習方法を考えろ

「時間の創り方」というテーマにも繋がりますね。
どうにもわたしは時間の創り方・使い方が不器用で、今更ながらこの点も大きく改善したいなと考えています。

「内在するスウィング」というお話も実にエキサイティングです。
今後このご指摘も頭に入れてジャズを聴いてみます。
ロックについて言えばわたしはやや偏見的な考えかもしれませんが、ロックは人間に内在しているものだと以前から思ってまして、つまりロックが内在してない人がロックのスタイルでプレイしてもそれはロックとして聴こえず、ロックが内在している人だとスタイルはロックではなくてもロックが聴こえてくるのではと。
あるいは音楽をやってなくてもロックが聴こえてくる人とか(笑)・・・いると思ってます。          RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-10-22 00:56) 

Flatfield

>ええっ? こんな音が入っていたんだっけ
ありますね。 視聴環境が変わったからなのか、脳内にその音を聴くサブルーチンが出来たからなのか?
by Flatfield (2019-10-22 09:42) 

lequiche

>> きよたん様

壮絶ですね。
あっという間に亡くなってしまったということでは
ジミ・ヘンドリックスに似ています。
声はまさにロックスターの声ですが、
50年経っても相変わらず規範とされるということでは
チャーリー・パーカーに似ています。
by lequiche (2019-10-22 21:04) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

この古い動画を観てミック・ジャガーを見直しました。
ブルース云々とか言っている人はたくさんいますが、
彼は断然抜きんでています。
工夫なんかしなくても生まれつきのロックスターなんです。
ブライアンのハーモニカも素晴らしいです。
でもミックはNot Fade Awayの曲紹介で、
awayをアワイと言っていますが、
わざとコックニー風に発音しているのでしょうか。
ちょっとワルぶってるみたいで、なるほどと思いました。
だってミックは比較的いい家柄のはずです。(^^)

ジャニスもジミヘンも垢抜けないことでは同じなんですが、
最近はそれに対して 「いやそうじゃないんだ」
と思えるようになってきました。
彼らのおそろしき才能からすれば、
少しくらい垢抜けなくたって関係ないんです。
ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスを超える人が
その後、出現しているでしょうか?
私はいないと思います。

そしてジャニスもジミヘンも深い孤独感を持っています。
当時の音楽シーンの中では極端に孤立していたはずですが、
それは当時の周囲の人たちには理解できませんでした。
その孤独感の中で、しかも音楽を作っていたというのが
すごいと思うのです。

チョン・キョンファももはや重鎮になってしまいました。
現在のヴァイオリンの潮流からすれば、
やや古い感じがあるかもしれませんが、
これまでの演奏の集積からするとそれは問題ではありません。
ただ会場の聴衆の年齢層は比較的高かったように見えました。
やはりファン層に世代的なものはつきまとうのでしょうね。

そうです。ロックとは精神性です。
そしてやはりロックは若い世代のものであり、
ある程度の年齢になると保守的になり攻撃性が無くなります。
当然、ロックミュージックを標榜しながら
ムードミュージックでしかない音楽も存在します。

すごく極端な言い方をすれば
ブラームスには変な曲があるのではなくて、
ブラームスの曲は皆、変なんです。
でも表面的な 「化粧」 がうまいのでそれがあからさまになりません。
2つのラプソディというのも良い曲ですね。
ロ短調というのが曲者の調性なんです (冗談です ^^;)。

ロックは音楽のジャンルのひとつととることもできますが、
普遍的にあるものととらえればジャンルを問いません。
サイモンとガーファンクルには
I am a rockという曲もありますし (これも冗談ですが ^^;)。
by lequiche (2019-10-22 21:05) 

lequiche

>> Flatfield 様

サブルーチンですね。
いままでそれを認識する回路がなかったのです、きっと。
いわゆるカクテルパーティ効果で、
何らかのきっかけで特定の音が聞こえるようになるんです。
by lequiche (2019-10-22 21:05) 

ぼんぼちぼちぼち

ジャニスジョプリンいいでやすよね〜
ブルージーで迫力あって、、、
ジャニスのドキュメンタリー映画、以前うっかり観そびれてしまったので、またチャンスがくるのを待ってるところでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-10-23 20:32) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

映画《ジャニス:リトル・ガール・ブルー》について
町山智浩が語っている番組の録音があります。
少し長いですけれど、映画視聴の際の参考になると思います。
お時間のあるときにでもどうぞ。

町山智浩 映画「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」たまむすび
https://www.youtube.com/watch?v=dAorbLgPmto

尚、上記動画には歌の部分が入っていないので、
歌が聴きたい場合はこのテキストの中にリンクあり。
町山智浩『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』を語る
https://miyearnzzlabo.com/archives/39120
by lequiche (2019-10-25 04:12) 

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