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CBS盤のマイルス・デイヴィス再発 [音楽]

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Miles Davis/’Round About Midnight

ソニー・ミュージックの 「We Want Jazz」 という再発盤シリーズの第1弾として、マイルス・デイヴィスのCBS盤55点が再発売された。名盤復活とかブルースペックCD2とか音匠レーベル仕様とか、これでもかの惹句だけれど、要するに何度も繰り返される再発売の一環である。

今回の再発の特徴として、ステレオとモノラルの両方の音源収録という仕様が何点かのアルバムで用いられている。同じ内容なのに2種類もいらない、という考え方もあるが、この時代の録音はまだステレオ録音技術が確立されていなかったこともあり、往々にしてモノラル盤のほうが音がよい。それはビートルズの最近のボックスセットがステレオ、モノラル両方で出されていることからも自明である。

CBS盤のマイルスは過去にもいわゆる全集盤として発売されたことがあるが、そのときは買わなかった。こうしたボックスセットはだいたい全部聴かないことが多いからで、それよりも気に入った盤をセレクトして買うほうが賢いような気がする。ただ、今回のバラ売り価格は諸物価の値上がりに連動しているのか、お買い得かどうかは微妙である。
それにそもそも全集といってもそれはCBS盤における全集だというだけであって、レーベルの異なる録音 (たとえばプレスティッジ盤) は当然収録されていないので、複数のレコード会社における録音が存在するミュージシャンの場合、正確な意味での全集を出すことは不可能に近い。

「We Want Jazz」 各ディスクの解説が載せられているパンフレットをCDショップで入手してきた。第1弾はマイルス55点、第2弾はモダン・ジャズ名盤49点だそうである。
パンフレットを見ているうちに思ったのは《ジャック・ジョンソン》がオリジナルのイラスト・デザインでないことで、たぶん裏側とか中に入っている可能性はあるが、差し替えられた後の現行のマイルスのモノクロ写真ジャケットを踏襲しているのがやや残念である。

そしてマイルスのアルバムに関しては、持っていそうで意外になかったりするので、この際、好きな盤を揃えてみたいと思うようになった。さらに思いついたのは、この中でベストを選ぶとしたらどれか、ということで、ベスト10だと多過ぎるので、ベスト5だとしたらどれにするか、という提起である。したがって以下は、単なるお遊びなので真面目にとらないでいただきたい。

55点の中から選んだ5点は次の通りである。カッコ内は録音年である。

 ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4 (1955〜56)
 スケッチ・オブ・スペイン+3 (1959〜60)
 E.S.P. (1965)
 キリマンジャロの娘+1 (1968)
 アット・フィルモア (1970)

ちなみに実際にはこれらのアルバムを持っていたり持っていなかったりしてバラバラなので、これを買うのだということでもないし、推薦盤ということでもない。あくまで私がとりあえず重要と思う5点であるということに過ぎない。
《ラウンド・アバウト・ミッドナイト》はCBSレーベルでの第1弾アルバムであり、この時期のマイルスを知るのには必須の盤である。〈ディア・オールド・ストックホルム〉で、まずミュート・トランペットによるテーマ、そしてベースソロの後に出てくるジョン・コルトレーンの演奏が好きである。このアルバムを最初に聴いたのはもちろんレコードによってだったが、ややくぐもったモノラルのその音だけでなく、その音を聴いていたときの過去の情景やそのときの心象風景までが蘇る。
《スケッチ・オブ・スペイン》はギル・エヴァンスとのコラボ4枚のなかでどれを選ぶかといえばこれ、という選択である。〈アランフェス〉ばかりが有名だが後半の〈サエタ〉〈ソレア〉におけるマイルスの孤独感をたたえた演奏が突出していることはいうまでもない。ボレロのように繰り返されるスネアのリズムも魅力だ。
《E.S.P.》も同様に、ウェイン・ショーターを含むいわゆる黄金クインテットでのセッション録音4枚のうちどれを選ぶかということで、どれでもよいのだが、ジャケット写真が好きなのでこれ、である。
電化後のマイルスで、かつ《イン・ア・サイレント・ウェイ》と《ビッチェズ・ブリュー》前夜のアルバムは、後出し (その時期に録音されたがリリースされなくて、時間が経ってから発売されたアルバムのこと) やコンピを別にすれば《イン・ザ・スカイ》と《キリマンジャロの娘》の2枚しかない。どちらを選ぶかといえばチック・コリアの加入している《キリマンジャロの娘》である。以前にも書いたことだが、トニー・ウィリアムスのドラミングの繊細さと正確さが聴きどころでもある。
《アット・フィルモア》はフィルモア・イーストでのライヴであるが、この《アット・フィルモア》と同時期のフィルモア・ウエストでの《ブラック・ビューティー》を較べると、イーストでのライヴ《アット・フィルモア》はキース・ジャレットが参加しているのでこちらを選ぶ。内容的にもイーストのほうが充実しているように思う。

《カインド・オブ・ブルー》と《ビッチェズ・ブリュー》は有名過ぎるし、複数のメディアで出ているので除外 (したがってこの2点を聴いていない場合は、第一順位となる)。《アガルタ》と《パンゲア》はピート・コージーのプレイがあまり好きではないので除外。後出しやコンピ盤は除外。《プラグド・ニッケル》は完全盤があるので除外。《ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン以降は、まぁいいか、ということで除外した。

プレスティッジ盤には、いわゆるマラソン・セッションと呼ばれる4枚があるが、ギル・エヴァンスとの4枚、ウェイン・ショーターを含むクインテットでのセッション録音4枚など、4という数字にポイントがあるのも印象的だ。


マイルス・デイヴィス/ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4 (特典なし)




マイルス・デイヴィス/スケッチ・オブ・スペイン+3
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
スケッチ・オブ・スペイン+3 (ステレオ&モノラルW収録) (特典なし)




マイルス・デイヴィス/E.S.P.
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
E.S.P. (特典なし)




マイルス・デイヴィス/キリマンジャロの娘+1
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
キリマンジャロの娘+1 (特典なし)




マイルス・デイヴィス/マイルス・デイビス・アット・フィルモア
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
マイルス・デイビス・アット・フィルモア (特典なし)




Miles Davis/Dear Old Stockholm
https://www.youtube.com/watch?v=1C7DyWdky_Y

Miles Davis/Filles de Kilimanjaro (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=z4qdsdtFUMs
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末尾ルコ(アルベール)

いろいろ貴重なものが発売されるので、ファンとしては本当に悩ましいところですね。「キリマンジャロの娘」はあまり聴いたことありません。また聴いてみます。
大貫妙子の「ROMANTIQUE」がクリアイエローヴァイナルという形式で発売されますが、こういうのにはご興味ありますか。
病室てはもっぱら、小さなものノートにものを書くこと、そして文庫本を読むこと。映画と音楽は鑑賞してません。
そしてわたし、スマホ中毒には真っ向から反対ですが、病室においては実に助けられております。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-12-10 13:34) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

マイルス・デイヴィスの場合は人気がありますから
待っていれば次の廉価シリーズがやって来ることがあります。(^^)
廉価盤の活用法は、内容は良いのに人気がないアルバムが出たら
無くならないうちに、すぐに買っておくことなのですが
これがむずかしくて、気がついたら品切れという場合が多いです。

大貫妙子のLPは《Mignonne》が特に人気で、
国内盤だけで再発がもう4回ありました。
その度に異なるカラーのレコードで作成したようです。
最近は黒以外のカラーレコードが流行で
おしゃれなのかもしれませんが、単純に色の違いだけですから、
あまりこだわらなくてもよいと思います。
昔、東芝のエバークリーンという透明赤の盤があり、
音質が良いとのことで確かにそのような感じでしたが、
昨今の盤は単に色がついているかいないか、だけです。
おそらく今のカラー盤は黒盤とかわらない音質だと思いますが、
ピクチャーレコードは音が悪いというのを聞いたことがあります。
それとカラーレコードは表面のほこりやゴミが見えにくい
という難点があります。細かいことですが。
むしろ重量盤という180グラムくらいのレコードがありますが、
重量盤は確かに音が良いので、こちらにこだわるほうが
たしかだと思います。

スマホは小さなPCですし、便利ですよね。
どうぞお身体を大切に、無事に回復されますように願っております。

マイルスのアルバム《キリマンジャロの娘》はこれです。
Miles Davis/Filles de Kilimanjaro (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=z4qdsdtFUMs

アルバムタイトルも各曲のタイトルもすべてフランス語で、
おしゃれな感じを狙っているようです。
曲調も軽く、深刻な演奏はありません。
by lequiche (2023-12-11 02:30)