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アジタートとメスト — シュニトケ《弦楽四重奏曲第2番》 [音楽]

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アルフレート・ガリエヴィチ・シュニトケ Alfred Garyevich Schnittke は多様式主義 (Polystylism) といった言葉で括られるロシアの作曲家であるが、Onno van Rijen のリストによればその作品番号は253を数える。

シュニトケのCDはスウェーデンのBIS Recordsが充実していて、私がその作曲家を理解するときの指標としている弦楽四重奏曲もBIS盤のターレ・カルテット The Tale Quartet の録音である。
BISには最近だとシベリウスのほとんど完璧な全集があるが、私はその前に《The Essencial SIBELIUS》というセットを手に入れてしまっていたので、全集は2巻ほどで挫折してしまった。こだわりを持っているレーベルである。

彼は、国籍としては旧ソヴィエト連邦生まれということになっているが、いわゆるWolga Deutscheというドイツ移民のロシア人であり、後年はドイツに住んでいたのでドイツ人といったほうがよいのかもしれない。
1989年にリゲティの後任としてハンブルグ音楽大学の教授となっているが、その音楽に内包するパッショネイトな部分は、ある意味リゲティに似ている。

ポリスタイリズムとは音楽ジャンルにおけるポスト・モダンを指す言葉らしいが、むしろその時代の全体的なムーヴメントの傾向のひとつの潮流がたまたまそうだったと考えたほうがよいのかもしれない。たとえばソフィア・グバイドゥーリナもポリスタイリズムのひとりと言われたりするが、それは異種の民族楽器の導入とかシンセサイザーの使用などからその多元性についてそう呼ばれただけであり、表層的分類学に過ぎない。たとえば武満徹が日本古来の琵琶などの楽器を使ったところでそれをポリスタイリズムとは形容しないからである。

弦楽四重奏曲第2番 op.148 (1980) と第3番 op.168 (1983) は典型的な現代音楽作品的な構造のようにも見える。ただ誤解を恐れずに言えば、通俗と紙一重のような現代音楽作品とはオリヴィエ・メシアンの《世の終わりのための四重奏曲 Quatuor pour la Fin du Temps》のようなものであり、このシュニトケのクァルテットにはそうした大衆性や衒気は存在しない。

シュニトケには現代音楽作曲家の常として食うのに困り、映画のサントラを盛んに作曲していた時期があった。だがそれらは当時のソ連共産主義体制のもとでは否定的な評価をされ、編曲版として残っているだけでオリジナルは失われているとのことだ (NAXOSの解説より)。
その頃の映画監督のひとりにラリーサ・シェピチコ Larisa Shepitko という人がいて、シュニトケは彼女の映画のサントラ製作にも参加した。1971年の《君と僕 Ty i ya》や1976年の《処刑の丘 Voskhozhdeniye》といった作品である。シェピチコもシュニトケに似て、体制への批判的な視点に対して、当時のソ連当局からは疎まれる存在であった。また幻の映画監督とも言われる人であるが、それは何作かの作品で評価が高まり出した頃、交通事故で亡くなってしまったことによる。
シュニトケの弦楽四重奏曲第2番は、シェピチコを追悼して彼女に捧げられた曲である。

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弦楽四重奏曲第2番は4楽章あり、第1楽章と第4楽章のModeratoに挟まれて、第2楽章はAgitato (激して)、第3楽章がMesto (悲しげに) と指示されている。ごく短い第1楽章から激情的ともいえる第2楽章に突入すると、この4つの弦楽器の絡まりまくる音群はまるでクラシカルなシューゲイザー・サウンドだ。1小節あたりの音数が上から順に32、28、24、20のパターンであることによる少しずつの 「ずれ」 がうねりを作り出している。これは誰をも寄せ付けない悲しみの表情のように見える。そして消え入りそうに、どんな姿も確認できないような溶暗の中の第3楽章。これは決して楽園でない冥府の世界を描いたのかもしれない。

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そして弦楽四重奏曲第3番は3楽章から成り立っているが、この曲も真ん中の楽章がAgitatoである。それはまるで、ちょっと音を外したノイジーなドヴォルザークの弦楽四重奏曲のようでもある。

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主題が変奏されて歪んだ和音となって再現されていくとき、その疾走感とセンチメンタルな記憶が、私にドヴォルザークを連想させるのだ。もっともその色彩はドヴォルザークのように哀愁を帯びていなくて、明るく輝いてもいなくて、もっとプリミティヴな闇に近い。そして突然逝ってしまった映画監督と残された作曲家ということから、テオ・アンゲロプロスとエレニ・カラインドルーの関係性を私は思い出すのである。


The Tale Quartet/alfred schnittke STRING QUARTETS Nos.1ー3 (BIS)
String Quartets 1




シュニトケの肖像はレジナルド・グレイ Reginald Gray の作品。グレイは1930年ダブリン生まれのポートレイト画家で、有名人を描いた作品が多数ある。
尚、シュニトケの楽譜はIMSLPには収録されていないので別の楽譜サイトより借用した。
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