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ビデオガールの意味するもの —『イラストレーション』特集・桂正和 [コミック]

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『イラストレーション』3月号の特集は桂正和だった。
桂正和のページの後には江口寿史も載っている。2人とも美少女マンガ家だけれど、こうやって並べられるとやはり作風は随分異なる。

桂正和のインタヴューで一番面白かったのは、自分で描いている少女をかわいいとは思っていない、実際の少女には負ける、という発言だ。
それとマンガとイラストレーションとは異なると思っていて、イラストレーションのほうがステージが上、というような感覚を持ってしまいがちであるということ。マンガはプロットとか、そのストーリー性を含めた全体像で評価されるのに対し、イラストレーションというのは絵がすべてであって絵画の一種であるということの差である。

桂正和にしても江口寿史にしても、絵が上手い人というのはこの 「イラストレーターになってしまおう」 志向がどうしてもあるような気がする。でも読者としてはそっちに行って欲しくないという気持ちがあるから、マンガ家であまり絵が上手いのも考えものだ。
桂はマンガの描線とは異なる絵を描きたいという願望から《I”s》(アイズ) をコミックスにする際にそのカヴァー絵をすごく写実的な絵にしたのだという。これはリキテックス (アクリル絵具のメーカー名) で描かれているのだそうで、特に《I”s》第1巻の絵は桂正和本人がなかなか気に入らなくて、何種類ものカヴァーが存在する。増刷時に描き直したらしいのだ。
私が《I”s》を読んだのはリアルタイムではないので、近くのコミックス古書店で揃えたのだが、そうであることに気づいたので第1巻だけ4〜5冊持っている。

各作品が紹介されているが《SHADOW LADY》の絵についているコメントは 「当時は気に入って描いていたんだと思います」 という醒めた表現で、つまり最も造形的にはすぐれているけれど中身の稀薄な内容だったからなのかもしれない。
SHADOW LADYはコスプレのターゲットとして人気があったが、SHADOW LADYに限らず二次元の絵は実際のかたちにするには不可能な造形も多くて、それはエッシャーの絵に似ている。

桂と江口の差は、特に江口はそのイラストレーション作品においては、どんどん絵をシンプル化させていって、それは色付けをデジタルによっているためという理由が大きいのかもしれないが、そのクリアで突き放したような作風に特徴があるといえる。
コンプリート・エディションのカヴァー絵のひばりくんは、ずっと大人びてしまっていて、作品の中に登場する少女は、かわいい対象としての異性ではなく、自分がなりたかった (理想のなかの) 少女だと語る江口の心がその最近のクリアーな画質に投影されているように思える。
だが桂の場合は、たとえば当誌に掲載されているボヘミアン的ファッションのカリーナ・ライルの造形設定を見ても、多分にデコラティヴでキッチュな様相が存在している。つまり、よりファッション寄りでフェティッシュな傾向があるということだ。
リキテックスとかデジタル彩色 (Photoshop等) を別として、基本的な色塗りの画材は2人ともコピックを使用しているとのことで、これは尾田栄一郎も同様だったが、スピードを必要とする目的に耐え、かつ使いやすいということがその選択理由らしい。

桂正和にとってのターニング・ポイントはやはり《電影少女》だということだが、もはやメカとして過去のものとなってしまったヴィデオテープレコーダーを媒介とした物語は、ピノキオやアジモフを例に出すまでもなくロボット・ストーリーのヴァリエーションのひとつであり、古きSF的センチメンタリズムに満ちていてもの悲しい。ヴィデオの不安定さ、はかなさ、そして少女であることが暗示してしまうものはGOKURAKUビデオというネーミングにも反映されている。それはギリギリの俗物的領域にいながらそれに犯され得ない聖性であり、桂正和にとっての最も先鋭的な作品だといえるだろう。
それと個人的には、今はもう失われてしまった武蔵境駅北口などのリアルな風景が出てきて、そこにも悲しみのような郷愁の影を感じるのである。

『イラストレーション』今月号は、他にも数年前からの伊勢丹のクリスマスシーズン・アイコンであるクラウス・ハーパニエミの記事もあって (ハーパニエミはポップだけどシュールである)、それぞれの記事のヴォリュームが少ないのが難点ではあるけれど結構楽しめる。

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イラストレーション2013年3月号 (玄光社)
illustration (イラストレーション) 2013年 03月号 [雑誌]




桂正和/電影少女 1 (ジャンプコミックスDIGITAL) [Kindle版] (集英社)
(注:デジタルブックです)
電影少女 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)




江口寿史/ストップ!! ひばりくん! コンプリート・エディション1
(小学館クリエイティブ)
ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション1




電影少女
(OVA作品で、天野あいの声は林原めぐみ)
http://www.youtube.com/watch?v=m5DS8TBzF9k
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toraman

「I's」好きでした。
連載中の「ZETMAN」も面白いですが、またラブコメも読みたいです。
by toraman (2013-02-07 03:47) 

lequiche

>> toraman様

そうですか〜。ラブコメはコミックスの王道ですよね。
マンガ家はメカニックな絵を描くほうが楽しいんでしょうけど、
ストーリーで読ませる作品もいいと思うんですが。
by lequiche (2013-02-07 13:30) 

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