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ソレールのソナタ — アリシア・デ・ラローチャ [音楽]

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あまりにも悲劇的な彼の最期のことを思うと、グラナドスの曲にはその曲が持つ以上のシンパシィを持ってしまうのは感傷的過ぎるのだろうか。
エンリケ・グラナドス Enric Granados 1867〜1916 はスペインの作曲家であるが、ニューヨークで自身の歌劇・ゴイェスカスのコンサートに立ち会った帰路の英仏海峡で、乗っていた客船がドイツ潜水艦の魚雷攻撃を受け、彼は海に落ちた妻を助けようと飛び込んだまま帰らなかった。

スペインの作曲家といえばまず名前のあがるのがアルベニスとそしてグラナドスだが、デ・ラローチャがHispavoxレーベルに録音したスペインの作曲家の作品を集めたEMI盤のセットがある。The Complete EMI Recordingsというタイトルだが、俗にイスパボックスという。
アリシア・デ・ラローチャ Alicia de Larrocha 1923〜2009 はスペイン/バルセロナ生まれで、グラナドスの弟子であるフランク・マーシャルに3歳からピアノを習い、ずっと現役で非常に長いピアノ歴を持つピアニストであった。
付属のパンフレットには1950〜60年頃の録音とあるが、曲目リストにある著作権表示には1962〜67年あたりの年号が書かれている。1962年として40歳だから、その前後の録音と考えてよいだろう。

以前のブログで私は、アルベニスの《イベリア》はデ・ラローチャよりマルカンドレ・アムランで聴いた時のほうがわかりやすかったと書いたことがあるが (→2012年02月14日ブログ)、それはアムランの演奏のほうが曲構造が見えやすいということであって、スペイン的なパッショネイトの強さでは、特にこのまだ若い頃のデ・ラローチャにはとてもかなわない。
この強靭なそれでいて繊細なピアニズムは、特にスペインものの演奏では他のピアニストを全く寄せつけない。まさにスペインの血のなせるわざである。

そしてこのセットで最も目をひくのは、どうしてもアルベニスの《イベリア》とグラナドスの《ゴイェスカス》という有名曲になってしまう。《ゴイェスカス》の5曲目、El amor y la muerte (balada) はまさに 「愛と死」 の変容にあり、冷徹な光のような狂躁の後にやって来るものは静寂であって、最後はLentoとなり、ほとんど死んだようにして曲が終わる。すると6曲目の Epílogo: Serenata del espectro がはじまるが、その8分の3拍子のリズムの空虚さは、あたかも機械仕掛けの傀儡が弾いているかのような印象を受ける。こうした高踏的でありながらデーモニッシュな表現は、ひとりグラナドスに特徴的なものである。
グラナドスの曲はどれもが珠玉の作品であって、セット1枚目に収録されている Seis piezas sobre cantos populares españoles (スペイン民謡による小品集) など、幻想的な Preludio から始まり、Zambra を経て Zapateado でまとめるという王道パターンの組曲になっていて飽きさせない。サンブラは、よくピアノの発表会に選曲される《12のスペイン舞曲集 Doce danzas espaõlas》の アンダルーサ Andaluza と同様なギターの弾奏を模したリズムが響く。

でもアルベニスやグラナドスだけではなくて、CDの1枚目に収録されているソレールのソナタのシンプルさも心に残る。
アントニオ・ソレール Antonio Francisco Javier José Soler Ramos 1729〜1783 はドメニコ・スカルラッティを信奉し、彼に学んだといわれているが直接教えを受けたのかどうかはよくわからない。ソレールはカタルーニャに生まれ、幼少の頃から作曲やオルガン演奏などの音楽を学びながらモンセラート修道院の聖歌隊に加わり、成人後は生涯のほとんどをエル・エスコリアル修道院で聖職者として過ごした。
ドメニコ・スカルラッティはものすごく多数のチェンバロ曲を書いた作曲家で、有名なのは《マリア・マグダレーナ・バルバラ王女のための555曲の練習曲》という555曲ものソナタの曲集である。スカルラッティはバッハと同年 (1685年) 生まれであり、アレッサンドロ・スカルラッティの息子である。
ソレールにもスカルラッティと同様、多数の鍵盤曲があり120曲ものチェンバロ・ソナタがあるが、ソナタといっても近代のソナタではないので、単楽章の小曲である。

このデ・ラローチャのセットにはソレールの8曲のソナタが収録されているが、1曲目の第24番 d-mollのソナタ、6曲目の21番 cis-moll、7曲目の87番 g-mollなど、短調の曲はシンプルな中にほの暗い響きがあり、陰翳に富んでいて美しい。バッハのように複雑でなく素朴だけれどいかにもスペイン風な色合いがあって、それがグラナドスと並んだとき、スペイン音楽のひとつながりの系譜として心の中に響く。


Alicia de Larrocha/The Complete EMI Recordings (EMI classics)
Alicia De Larrocha - The Complete EMI Recordings




Alicia de Larrocha/Soler: Sonata No.24 d-moll
http://www.youtube.com/watch?v=YcteEJFZxwg
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コメント 2

DON

おはようございます
先日はお祝いのコメント
ありがとうございました~(^^ゞ
by DON (2013-10-24 08:33) 

lequiche

>> DON様

こちらこそいつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。(^-^)b
by lequiche (2013-10-24 13:56) 

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