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Things ain’t what they used to be —《うたかたの日々》 [本]

うたかたの日々.jpg

光文社文庫のナボコフの新刊を買おうとしていたら、その平積みのすぐ横にボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』の新訳が出ているのを見つけた。いままで知らなかった。もぉ、何も知らないんだから。
それでナボコフ『絶望』とヴェルヌ『地底旅行』とボリス・ヴィアンを買ってきた。この『うたかたの日々』が出たのはもう2年も前で、第2刷になっている。

光文社文庫のは野崎歓訳で、あとがきにも書かれているが曽根訳、伊東訳に続く第3の翻訳となる。タイトルは伊東訳を踏襲して『うたかたの日々』にしたのだとのこと。映画《ムード・インディゴ》のプロモーションの帯がかかっている。

でも、例えばまえがきの Il y a seulement deux choses から始まる個所、つまり女の子たち (もちろん avec des jolies filles と複数形) との恋とデューク・エリントンの音楽以外は消えてしまえばいい、なぜなら醜いんだから、という有名なくだりのところなど読むと、どうしても不満を感じてしまう。誰の訳を読んでもしっくり来ないのはそれが自分の言語感覚と違うからなのでしかたがないのだけれど。
ひとことだけ言えば ou はつまり or なのでイコールじゃないと思うんですが。

あ、そうだった。光文社文庫の翻訳は何かそれに関して騒ぎがあった過去が存在したことをちょっと思い出す。だから今まで手を出してなかったというのもあって、でも翻訳者によって違いもあるし、ただ翻訳というのは、ひとつひとつの言葉の解釈はもちろん重要なのだけれどそれだけでなくて、全体を通しての印象だと思うので、これから野崎訳を読んでみようと思う。

でもその前に映画かなぁ。すぐ後でDVDが出てしまいそうな予感もするけど。
映画タイトルは L’écume des jours なのに日本版は《ムード・インディゴ》になっている。ムード・インディゴはデューク・エリントンの曲。でも予告編はいきなり《A列車で行こう》で始まる。コランとクロエ、主役の2人のイメージが私の抱いていたのとかなり違っていて、えっ?と瞬間的に思ってしまったのだけれど、これがこの監督 (ミシェル・ゴンドリー) の感覚なんだと思う。色彩感覚とかモノの作り方も何となく今までの伝統的 (旧弊な?) フランス映画とは違っているような気がして面白い。ハリウッド的ともいえるけれど。
また、たまたまなのかもしれないが、フランス版の予告と日本版の予告はやや内容が違っているので、そのシーンの選択の違いも興味深い。
クロエのバッグが日本で爆発的に売れたとき、クロエってブランドネームはこの小説のヒロインからとったんだろうと勝手に思いこんでいたのだが外れてました。《クロエ》という翻案日本映画もあったけれど見ていません。

ボリス・ヴィアンという人は、偽ハードボイルド (『墓に唾をかけろ』) を書いたり、ジャズ・トランペッターでもあったということだけれどそれも胡散臭くて、そのジャズがニセものだったのかもしれないのなら、人生そのものもニセだったのかもしれない。泡とはつまりバブルなのだし。そう思わせようとすべてを舞台装置のように作り込んだのだろうか。そういう意味では確信犯の作風だと言えるのかもしれない。


ボリス・ヴィアン (野崎歓訳)/うたかたの日々 (光文社)
うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)




ボリス・ヴィアン (伊東守男訳)/うたかたの日々 (早川書房)
うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)




ボリス・ヴィアン (曾根元吉訳)/日々の泡 (新潮社)
日々の泡 (新潮文庫)




Duke Ellington/Mood Indigo
http://www.youtube.com/watch?v=GohBkHaHap8

Duke Ellington/Things ain’t what they used to be (昔はよかったね)
http://www.youtube.com/watch?v=5fJu-byjtRY
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びあん

野崎歓さん訳は、『フランス小説の扉』にある、もう15年も前のものには「あるいは同じことだけれど」とありますね。「or」であったわけです。
そして、新訳文庫。熟慮の末か、「つまり」になってました。
野崎さんほどの人の熟慮があったのであればそれはそれでいいのだと素直に思います。
野崎歓さんの訳はそれまであった訳とはまったく違って感じられました。日本臭くない。悲しみがクリアでした。
by びあん (2014-10-21 00:40) 

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