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Edge of Townの夜 — ブルース・スプリングスティーン [音楽]

BruceSpringsteen1973.jpg
Bruce Springsteen (http://www.loose-ends.it/より)

北村信彦のこだわるデトロイトとかデストロイ・オール・モンスターズという言葉は、私にとってまるで呪文のようでそれが何なのか最初はわからなかった。
彼のデザインの拠り所となるのはカウンターカルチャーとしてのアートや音楽であり、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかパティ・スミスの時代に惹かれ、それをずっと自らのコンセプトとして持続させているのはある意味、強情で強引で頑固なこだわりなのかもしれない。

以前、かつて隆盛だった町の廃墟を背景にした写真集ともいえるカタログが唐突にヒステリック・グラマーから送られてきたことがあったが、その頑固な美学にあらためてブランドの息の長さを知らされた。デトロイトはかつて、アメリカ自動車産業のシンボルとなっていた都市である。

北村は次のように語っている。

 元々は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとアンディ・ウォーホル
 の関係や、パティ・スミスとロバート・メイプルソープの関係だとかに
 興味を持ち始めて、その後デトロイト出身のイギー&ザ・ストゥージズ
 やMC5に辿り着いていったんです。最初はカバーバンドだったMC5が、
 65年ぐらいにTHE WHOのステージを観て衝撃を受けて、ラウドでハイ
 エナジーな音に方向転換したり、ジョン・シンクレアと政治活動的なム
 ーブメントを起こしていたことにも興味があったので、だったら一度デ
 トロイトに行ってみたいなと。(traversetokyo.com)

先日発売されたブルース・スプリングスティーンの《Album Collection Vol.1 1973−1984》を少しずつ聴いている。《Born in the U.S.A.》までの初期アルバム7点がセットになっている。日本盤のCDを買ってしまったが、最も骨のある人はきっとLPセットを買うのではないだろうか。
実は1stの《Greeting from Asbury Park, N.J.》など初めて聴いたのだが、スプリングスティーン本人は、まだ自分の意向が充分に反映されず、第二のボブ・ディランにしたいとするレコード会社の思惑もあって、気に入らないアルバムだと述懐しているのだそうだが、これが結構いい。どんなに稚拙だったり不満足なものであっても処女作にはその人の全てがある。
3曲目の〈Mary Queen of Arkansas〉あたりから、ボブ・ディランっぽいのも含めて俄然イキイキとして迫ってくる。

この1stと、2ndの《The Wild, the Innocent, and the E Street Shuffle》あたりは確かにバックの音使いがちょっとチープだったりする曲もあるのだが、そんなものを吹き飛ばしてしまうような圧倒的な歌唱力がすでに存在している。
そして3rdのブレイク作《Born to Run》を経て、1978年の4thアルバム《Darkness on the Edge of Town》の頃、パティ・スミスに提供した〈Because the Night〉がヒットする。
これらのアルバム・タイトルには Asbury Park, N.J. とか E Street とか Edge of Town のように、皆、町をあらわす言葉が入っているのが興味を引く。
北村のデトロイトへのこだわりと同様に、スプリングスティーンにとっては、ニュージャージーという町が重要なイマジネーションの源泉なのだ。町には、どの町にもきっと土地の精霊 (これはミシェル・ビュトールの言葉 Le Génie du lieu だ) がいて、それにインスパイアされるなにかがきっと存在する。

YouTubeで、時代を感じさせるパティ・スミスの動画を見ていた。ステージセットもアンティークなキーボードも、その全ての過去のときを伝える色合いが美しい。その古い動画の後、自動的に切り替わって最近の映像が再生された。ブルース・スプリングスティーン、U2との共演のライヴ映像である。スプリングスティーンもパティ・スミスも、その本質は見事にかわらない。歌の背後にあるのは普通の町だ。近代的でもオシャレでもないごく普通の町。

人がやがて年老いていくのと同様に、かつての町が場合によっては衰退したりスラムと化してゆくのも時の流れで、それもまたペシミスティックなアメリカの夢なのかもしれない。


ブルース・スプリングスティーン/アルバム・コレクションVol.1 (SMJ)
アルバム・コレクションVol.1 1973-1984(BOX)




Patti Smith/Because the Night 1978
https://www.youtube.com/watch?v=0peTfMOdDoo

Patti Smith, Bruce Springsteen, U2/Because the Night
https://www.youtube.com/watch?v=jwf_6Rx8l5c
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DEBDYLAN

『Darkness on the Edge of Town』は大好きなアルバムです。
1曲目の「BADLANDS」は僕の座右の曲。
コレ聴くと元気出るんです。
2ndアルバムも愛聴盤なんですよ。
CD BOX、音がイイみたいですね。
早く買いてぇ~!!

by DEBDYLAN (2014-12-18 22:43) 

lequiche

>> DEBDYLAN 様

Badlandsの評、拝読致しました。
ドラムが頭打ちで、最初はダサいかなぁと思ってしまうんですけど、
でも全体が意外に抑えてあって、このドラムが効果的です。
元気のでる曲っていうのは確かにそうですね。

リマスターされて音がよくなっているらしいですけど、
私にはよくわかりません。(^^;)
でもときどき妙にクリアでどきっとする個所があります。
by lequiche (2014-12-19 12:31) 

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