はやく起きた朝に — ボボ・ステンソン《Very Early》 [音楽]
ボボ・ステンソン (Bobo Stenson 1944−) はスウェーデンのジャズ・ピアニストで、そのアルバムのほとんどがECMからリリースされているが、ステンソンを最初に私が聴いたのはヤン・ガルバレクの《Witchi-Tai-To》のピアニストとしてである ( →2012年11月02日ブログ参照)。
この《Witchi-Tai-To》と同じような音を求めて、ステンソンのリリース・リストを遡って行き当たったのが《Very Early》という1987年に出された作品である。私の持っているのはDRAGONというスウェーデン盤だが、これによると録音は1986年12月2〜3日と表記されているのだけれど追加トラックがあるので、おそらく再発盤であると思う。
ステンソンは、聴いていて快く美しいのだが、でもここ一番というような大ヒットみたいな曲がない。無難といえば無難だが強く押し出す個性がやや乏しいのである。
といって、ではオリジナリティがないのかといえばそうではなく、このアルバムのタイトルチューン〈Very Early〉はビル・エヴァンスの作品だが、エヴァンスのアプローチとは明らかに違う。このイントロは特徴的でありステンソンの個性が際立っていて、ドン・フリードマンのようにエヴァンス・エピゴーネンではないのだ。
でも、では大絶賛のソロかといえばそこまでのパッショネイトが無いのである。
だから逆にサイドメンとしての演奏にキラリと光るものがあったりする。ヤン・ガルバレクの《Witchi-Tai-To》以外のアルバム、《Sart》や《Dansere》もステンソンに期待して買ってみたし、チャールス・ロイドの《Fish Out of Water》とか《Notes from Big Sur》も同様である (チャールス・ロイドも随分枯れてしまったよね)。そしてトマス・スタンコの《Leosia》や《Litania: Music of Krzysztof Komeda》など、まるでECMのハウス・ピアニストのようにステンソンはいろいろなセッションに加わっている。
そこで形成されるのは一種のステンソン的な空気感だ。そんなにしゃしゃり出てはこないけれど、その、ちょっと暗い、ありきたりな表現だが北欧的な表情がどんなソロにも当てはまる。常に憂鬱な衣装を纏っていて、決して燦々とした太陽みたいな音が聞こえてくることはない。
《Very Early》の中で最もセンチメンタルなのはフォーレの〈Pavane〉である。ごく短めで、ステンソン流に消化されていて、しかもべたべたとした感傷ではなくて、冷たく乾いた、さらっとした悲しみを思い出させる。
その次のトラックに収録されている〈Satellite〉はジョン・コルトレーンの作品であるが、インプロヴィゼーションに入ると、ビル・エヴァンスのスウィング感に近くて、ピアノが終わってベースソロになるとまるでエディ・ゴメスが入ってきたような雰囲気だ。
ただ、常にステンソンのソロは暗く、音のひとつひとつにやや粘りがあって、つまり暗いと私が形容してしまうのはエヴァンスのような花が無いからなのだ。無いと言ってしまったら語弊があるかもしれなくて、でもあるとすれば、それは暗くひそやかな花である。
ところが、トマス・スタンコと同じように、ステンソンのその少しそっけないような暗さに嵌ってしまうと、ほんのひとときだけれど、毎日の 「喜びのない生活」 から切り離された空間に漂うことができているようで心地よい。そうした心地よさみたいなものがECMというブランドのトータルな戦略といってしまったらあまりにあからさまだが、こうしたECMサウンドは少しヴィヴィッドなアンビエントなのかもしれなくて、その花のなさ加減が透明な水のように心に沁みるのである。
Bobo Stenson/Very Early (Dragon)
Bobo Stenson/Moon and Sand
https://www.youtube.com/watch?v=BPTS2SSTGrg
一部の地域のかたは赤面してしまう名前でやすね。
…こんなコメントしかできなくて失礼しやした(◎o◎;
by ぼんぼちぼちぼち (2015-03-19 16:36)
同じスエーデン出身のトロンボーン奏者ニルス・ラングレンが好きです。彼のハスキーな歌声も味があっていいです。
by soujirou-3 (2015-03-20 11:19)
>> ぼんぼちぼちぼち様
おおぉ、検索したら出てきました。なるほど。
サザエさんのカツオ君と同じようなものですね。
昔、日本に来た外国人野球選手でMankovitchさんという人も
いたそうです。
カカというサッカー選手もいますが、
カカってフランス語ではウンチのことですし。(^^;)
by lequiche (2015-03-20 14:34)
>> soujirou-3 様
ニルス・ラングレン、早速検索してみました。
なかなかいいですね。トロンボーンの音色に余裕を感じます。
ヤマハの楽器を使っていますね。
バンドメンバーがサッカーチームみたいでカコイイ。(笑)
by lequiche (2015-03-20 14:42)
拙ブログへのコメントありがとうございます。
昔「ボボ・ブラジル」という名のプロレスラーがいて、
九州地方の方々は困惑したそうです(*´∇`*)
by johncomeback (2015-03-21 05:50)
>> johncomeback 様
ぅぅぅ。意外なところがウケてますね〜。(^^;)
ボボ・ブラジルですか。ボビーとかすればよかったんでしょうか?
ドラゴンボールにも出てきますね、ボボ。
あ、あれはミスター・ポポでした。(カスッテル ^^;)
by lequiche (2015-03-21 14:08)
ボボ・ステンソンが今週末に来日すると聞いて、検索してたどり着きました。
記事を読ませて頂き、腑に落ちました。
彼の演奏が、ひっそりと咲く花のように思い、長く聴いていても心地よい。
北欧と日本の通じている部分かもしれません。
おかげで好きな理由が明確になりました。ありがとうございkます。
気に入っている彼の演奏、ピアノソロのインプロです。
Bobo Stenson en la Ciudad de México
https://www.youtube.com/watch?v=A-U2b1EMVhU
by nacca (2015-09-08 21:56)
>> nacca 様
コメントありがとうございます。
来日することは知りませんでした。
naccaさんはライヴに行かれるのでしょうか。
ジャズ系のソロピアノはキース・ジャレットがその嚆矢ですが、
ソロ・パフォーマンスをするピアニストが多くなるにしたがって
ヴァリエーションも拡がってきたように思います。
北欧と日本は距離的には離れているようでも、
何か共通する感性があってそれで魅力を感じるのかもしれないです。
たとえばイメージとして 「雑でない」 部分が似ています。
リンクのYouTubeの演奏はステンソンにしてはやや異質で、
ああ、こういう引き出しも持ってるんだなと思わせます。
ちょっとクラシック・テイストなフレーズがありますが、
できるならナマで是非聴いてみたいです。
by lequiche (2015-09-10 02:13)
ご返信ありがとうございます。
「雑でない」 なるほど!言葉にして頂けると頷けます。
10年近く前に、コペンのジャズフェスやスウェーデンの地方のフェスを見て回って以来、北欧の演奏家たちの紡ぐ音や雰囲気が好きになりました。
明日も、明後日も仕事で、ステンソンの演奏は聴きに行けそうもありません。その後は、韓国だそうです・・・。ちょっと遠い。
また、10月には、同じくスウェーデンのピアニスト、ラーシュ・ヤンソンが来日し、十数年ぶりのピアノソロがあるのですが、その日もいけず。
生音を聴きたい今日この頃です。
by nacca (2015-09-10 23:56)
>> nacca 様
たとえばモニカ・ゼタールンドが日本でウケるのも、
ジャズの世界地図では両国とも、
ややローカルに見られてしまうという共通項が
あるのかもしれません。
現地でのフェスですか。それはすごいですね。
その土地から醸し出される特有の音があると思います。
日本に来てくれるのはありがたいですが、
出張みたいなもので本場の味とは違うような気がしますし。
私もナマ演奏がいいとは思うのですが、
時間が無くてなかなか行くことができないので、
どうしてもCDなどの録音媒体に頼ることになってしまいます。
でも音楽は、やはり基本はナマの演奏ですね。
by lequiche (2015-09-12 02:05)