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ミッフィー展に行く [アート]

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松屋銀座で開催されているミッフィー展に行く。
ミッフィーが誕生してから60周年なのだそうで、つまり還暦だ。それにしちゃ、まだかわいいけれど。5年前の55周年の時も同じ松屋での展覧会があって、その時初めて見て大変感激したので今回も出かけたわけです。

ミッフィーは作者ディック・ブルーナの本国オランダではナインチェ Nijntje というのだけれど、日本では福音館の翻訳ではうさこちゃん、現在ではミッフィーが一般的なのでミッフィーと書くことにする。

最初に描かれたミッフィーはちょっともっさりしていて随分かたちが違う。でも、暖かみがあって、いかにも初期形という感じがしていい。その後のミッフィーは、非常に計算され洗練された描き方に変化し、色も6色しか使わないとか (ブルーナ・カラーと言われる) ある意味禁欲的な部分があるのだけれど、それは決して冷たい方向性ではなくて、むしろ子どもにわかりやすいということを主眼としている。

ミッフィーの顔がほとんどいつも正面を向いているのも、子どもが認識しやすいように、というのが目的だからだ。
顔の表情がほとんどいつも同じようなのも、わざと画一化しているのではなくて、そこに想像力を持たせるということが意図なのだという。唯一、泣くときの涙が表情に変化のおこる一例だが、その涙も一滴だけで、わんわん泣いたり、顔を歪めて泣いたりすることをしないところがミッフィーなのである。何と言ったらいいのか、つまり奥ゆかしいのだ。

展示室はほの暗い。それは原画を照明から守るためであり、ごく初期の絵は仕上がりそのままに彩色がされているが、次第に線画と着色を別にするようなシステムに移行している。色紙による色分けを経て、最終的には色指定になる。
だから原画は白い紙に描かれた黒い線だけであり、その線を境界線とした6色の色分けは印刷指定で行われるのだ。
完成原稿とともに採用されなかった原稿が並列されて展示されている作品があったが、OKなのと没なのとが並んでいてもどこが悪いのかよくわからない。たぶん、ここの違いが気にくわなかったんだろうな、とは思うのだけれど、それほどの微妙な違いである。だが作家本人にとっては満足できない大きな違いだったのだろう。

ブルーナがスタジオでミッフィーを描いているヴィデオが今回も公開されていて、これは前回の55周年のときすでに見ていたので落ち着いて見ることができたが、初めて見ると、この描き方に感動する。画材は表面にほのかなエンボスのある用紙で、そこにあらかじめ下書きの線がアタリとして刻まれていて、その上に平筆でミッフィーの輪郭を黒で描いてゆくのだが、少しずつ少しずつ刻むように線を描く。つまり短い直線が細かく連鎖することにより曲線になるので、いわば手動のデジタルシステムである。描きにくいポジションになったら用紙を回してまた続きを描く。ミッフィーの小さな瞳も何度も筆を入れてその黒い楕円形を定着させる。
こうした描線の描き方は、チャールズ・シュルツの場合もそうだったが、その作家それぞれに独自の方法論があるものなのだ。
ブルーナのスタジオはちらかりかたもカッコよくて、すべてがミッフィーのために計算されているかのようだ。

グッズ売場は案の定、ものすごい混雑だったが、どのようにしてミッフィーが作られているのかわかった後だと、気分がハイになって、つい買い込んでしまうのではないだろうか。
図録を買うと、ミッフィーと一緒に撮影ができるのだが、そんな恥ずかしいこととてもできませんでした。お子様連れの場合は是非! 記者会見みたいなカメラとスマホの放列です。

ブルーナはジョルジュ・シムノン、イアン・フレミング、レスリー・チャータリスなどの本の装丁も手がけているが、どれもが彼の特徴のあるシンプルな線とはっきりとした色彩感覚で美しい。ジャマイカの夜の風とオースチンA30. ドクター・ノオってこういう雰囲気なんだよなぁ。

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シムノンとフレミングのペーパーバック表紙

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〔戦利品〕
右:ミッフィー展60周年図録 (今回の図録。表紙は初期のミッフィー)
その左:クラフトパンチ (ミッフィーのかたちに紙に穴が開く)
    ミッフィーのラムネ缶
中央:ミッフィー展55周年図録 (前回の図録。絵本と同じサイズになっている)
その左2冊:ミッフィーの絵本

誕生60周年記念 「ミッフィー展」
http://www.miffy60-exhibition.jp/
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コメント 6

sig

こんにちは。
ミッフィーの輪郭の描き方、感動的ですね。一気にかくのかと思っていましたが、そういうものではないのですね。削りに削ったラインでしょうから、大事に描かれているんですね。
by sig (2015-05-04 09:51) 

desidesi

10日までか・・・。知らなかった。
別のところに行ってしまいました。
それはそれでとても良かったのですが、
これも観たかったな〜♪ (๑◔‿◔๑)
by desidesi (2015-05-04 10:56) 

lequiche

>> sig 様

きっと試行錯誤の末にこういう描き方になったのだと思います。
簡単に見えてそうじゃないというところがびっくりです。
絵本のストーリーも、長過ぎると子どもが飽きてしまうということで、
そんなに長くしないということなんです。
ブルーナの緻密な考え方が作品にあらわれていると思います。
by lequiche (2015-05-04 12:57) 

lequiche

>> desidesi 様

見たいもの、行きたいところって多いですからね〜。
私も会期が終わりに近いので慌てて行きました。
でもここ最近、興味のある展覧会が多いように思います。
by lequiche (2015-05-04 12:57) 

リュカ

ミッフィーちゃん以外のブルーナさんの作品も好きです^^
でもやっぱりミッフィーちゃんは可愛い!
小さい頃は、「うさこちゃん」で絵本持ってました。
今も手元にあります♪
by リュカ (2015-05-04 23:51) 

lequiche

>> リュカ様

ミッフィーに隠れてあまり目立たないですけど、
他の作品も展示されていました。
ミッフィー絵本は、もうスタンダードになっていると思います。
最初は絵がシンプル過ぎて子どもにうけないんじゃないか、
と心配されていたというんですが、
それはいわゆる大人の浅知恵に過ぎませんでした。
by lequiche (2015-05-05 11:47) 

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