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ティラノザウルス・レックスを聴く [音楽]

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ティラノザウルス・レックス Tyrannosaurus Rex の1stアルバム《My people were fair and had sky in their hair... But now they’re content to wear stars on their brows》(邦題は 「ティラノザウルス・レックス登場!!」 と、ごく簡潔) を聴いている。ティラノザウルス・レックスはT・レックスの前身バンドであるが、ティラノザウルス・レックス名義で4枚のアルバムがある。
ということは知っていたのだが、聴いたのは初めてである。

オリジナルのアルバムのリリースは1968年で12曲が収められていたが、今回発売されたDeluxe Editionでは、未発表テイク等を含めCD2枚に全49曲が収録されている。
メンバーはマーク・ボラン (ギター) とスティーヴ・トゥック (パーカッション) の2人。グラムロックになる以前で、楽器構成としてはフォークソングなのだが、雰囲気は全然フォークソングではない。プロデュースはトニー・ヴィスコンティだが、このとき彼は24歳。ボランは21歳だった。

当時の、いかにもサイケデリックなアルバムデザインとものすごく長いタイトルというのだけは知っていたので、試しに聴いてみようと軽い気持ちでいたのであるが、完全に打ちのめされてしまった。
T・レックスなら以前から知っていたが、こういうのが1stにあるのだとすると、T・レックスに対する見方というかマーク・ボランという人への見方がいままでとは変わってきてしまった。

基本的にギターとパーカッションだけという単純さなのに、この延々と押し寄せてくる揺れるビートからくる酩酊感は何だろうか。ボランの揺れる声の効果も大きい。たとえば〈Dwarfish Trumpet Blues〉の、ブーミーな音がずっと鳴っていてだんだん麻痺してくる気持ちよさみたいなもの。
トニー・ヴィスコンティは私が何か興味を持った音楽に必ずのようにクレジットされている名前だが、これは彼のごく初期のプロディース作品である。

1枚目にはオリジナル12曲に続いて別テイク等が12曲あって、でもどの曲がということではなく、アルバム全体がずっと続いているような、それによってひとつの世界が形作られていて、そのトリップ感は約50年も前の作品なのに全然色褪せていない。私の好みとしては、たぶん、T・レックスになってからよりも、このティラノザウルス・レックスのアルバムのほうが深くハマッてしまいそうになる。
デヴィッド・ボウイのデラム盤の《David Bowie》(1967) がこのアルバムの1年前にリリースされているが、今聴いて面白いとは思うけれどそれはデヴィッド・ボウイが最初はこういう感じだったというロック史的な意味での面白さであって、このボランの1stに較べるとずっと健康的だ (デラムのデヴィッド・ボウイについては →2012年07月16日ブログを参照)。
そう。つまりボランの音は普通じゃないのである。その普通じゃないテイストが、この1stから、もうすでに自らの世界として確立していてそれがずっと続いたのである。

ボウイは、むしろどんどん自分の世界観を変えることによって長くロックシーンに君臨し続けたのだと思う。でもボランはずっと同じなのだ。T・レックスがグラムロックとなったのは結果としてのその時代の流れに乗ったのに過ぎなくて、グラムが落ち目になったら他のアプローチに移るというような器用さはボランにはなかったように思える。
これまでT・レックスは、ちょっと変な雰囲気を持っていて、小節数が半端だったりするグラムロック全盛期の頃のバンドという認識きりなくて、それは間違っていないのだけれど、でもそれだけではなかったということなのだ。
すごく極端なことを言ってしまえば、音楽的に最も完成されているのはこの1stと言ってしまってもいいように思う。少なくとも私の嗜好では。でもそれが結論ではなくて、もう少し聴いてみないとわからない気もする。そのうち飽きちゃったりして。

ちわきまゆみがマーク・ボランと会ったことがあると言っていて、それじゃ年齢が合わないだろ? と思ったのだが、彼女はまだ子どもの頃からマーク・ボランの追っかけだったのだそうだ。うーん、すごい。


Tyrannosaurus Rex/My people were fair and had sky in their hair...
But now they’re content to wear stars on their brows
http://tower.jp/item/3770595/

Tyrannosaurus Rex/Frowning Atahuallpa
https://www.youtube.com/watch?v=AK8AQKuF-Ec
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Speakeasy

ティラノザウルス・レックス時代は、紙ジャケで収集しました。が、デラックス盤には手を付けておりません。いつかきっとデラックス盤も購入するぞ~68年のシングル「Debora」が頭から離れない時期がありました(笑)

by Speakeasy (2015-05-03 03:12) 

よいこ

懐かしく読ませていただきました
T-レックスの前がやっぱりティラノザウルスとは
よほど好きだったんですね
by よいこ (2015-05-03 11:43) 

lequiche

>> Speakeasy 様

紙ジャケもいいですね。
ただ、デラックス盤のほうが曲数が多いですし内容が濃いです。
そのうちスーパーデラックス盤が出るかもしれませんので、
是非そちらを。(^^;)

そうそう。頭のなかで曲がループし始めると、
延々と繰り返しなんてことがありますね。
by lequiche (2015-05-03 16:24) 

lequiche

>> よいこ様

そうですか。ありがとうございます。
なぜ恐竜の名前なんでしょうねぇ〜。
でも最強のバンドになって、あっという間に時代遅れになって、
みたいなところが恐竜の歴史に似ているのかもしれません。(^^)
by lequiche (2015-05-03 16:25) 

末尾ルコ(アルベール)

完璧にロックで完璧にポップ。「古い」と思われてもまた新しくなる、とわたしは感じます。
前のお記事のフランスのシュールレアリスムも、わたしが生まれるよりずっと以前にムーブメントは終わっていたわけですが、今読むと「新鮮」に感じます。

                   RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2015-05-03 17:03) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

おっしゃる通りですね。
ロックなんだけれどポップというのは至言です。
今回のはリマスターされているみたいですが、
音がとてもリアルで、聴いているとサイケデリックのブームが
今あるんじゃないかと錯覚するような気がします。

シュルレアリスムはどんどん解体していって、
ブルトンはメンバーをやたらに除名したり関係を断絶したりします。
それが運動自体を通俗化していったことは確かですが、
自分自身はそこにずっと留まっていたことに信念を感じます。
それにやたらに赤の女王みたいに「首を切っておしまい」なのは、
ロベスピエールの頃からのフランスの伝統ですから。(^^)
by lequiche (2015-05-04 00:07) 

lequiche

>> desidesi 様

ティラノザウルス・レックス名義の4枚のアルバムを
私は全然知りませんでした。(^^;)
バンド名を変えただけで地続きかと思ったらそうでもないんですね。
とりあえず1枚目の印象はかなり違います。
でも確かに声はマーク・ボランなんですね。
この4枚がどのようにT・レックスへと変貌していくのか、
興味がありますね。現在まだ聴いている段階です。

グラム・ロックも、そもそもそんなものは無かったという人もいますし、
評論家も含めて、いろんなことを言う人がいますが、
もはや同時代ではないので、どの意見が正しいのかもわかりません。

あ〜、RCそうなんですか。
知識としては知っているんですが、
実際に本当にフォークといえるのかはよく知らないんです。
不勉強ですみません。
清志郎はもっと歌手としての面から考察されるべきだと思います。
結局、音楽は最終的には自分の耳しか信じられないので、
一般的世評と自分の感覚が異なることはよくありますね〜。
by lequiche (2015-05-07 02:18) 

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