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真実のサンプリング — ピアノのこと [雑記]

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ピアノには消音ピアノという種類があって、某有名メーカー (と一応書いておくことにする) の商品名でいうとサイレントピアノというのだが、普通のアコースティク・ピアノの内部に装置を取り付けてピアノの生音を出さないようにし、その代わりにヘッドフォンで音が聞こえるというしくみである。
ピアノは鍵盤を押すとハンマーという部品が弦を叩いて音が出るのだが、そのハンマーを寸止めにして (音が出ないようにして)、代わりに鍵盤を押したという信号を内蔵の電子音に変えてヘッドフォン端子から出しているのだ。サイレントにするかしないかは簡単に切りかえることができる。

私の家のピアノはこのサイレントピアノなのだが、消音にすると鍵盤のストロークがやや変わるし、出てくる音もちょっとなんかなぁ、という感じなので、もちろん夜だったら利用するけれど、基本的にあまり使いたくはない。
だからヘッドフォンからの音を真剣に聴いたことがなかった。

ところがこの前、なんとなくヘッドフォンからの音を聞いていたら、調律が少し合ってないような気がする。全部のキーではなくて、このへんの音域だけ違和感があるという感じ。
たまたま調律をする時期だったので、調律師さんに電子音は調律できるのかどうか聞いてみた。でも、そんなことできるわけない。音はサンプリングされた音なので最初から決まっている音です、ということ。そりゃそうですよね。
そもそもピアノは平均律なのだから完全に音が合うわけはないとか、そういうムズカシイことではなくて、単純に、ちょっと調律が合ってないなぁということです。

さて、調律が終わってから調律師さんに聞いてみると 「狂ってました」 とのこと。あー、やっぱり。
説明によると、サンプリング音は、グレードの高いグランドピアノなどの音をサンプリングしてそれをサイレント用の音にしているのだそうだが、たぶん1音1音録るらしく、そのときの元の音となるピアノの調律が少しズレていたのではないかとのこと。とは言っても調律の誤差の許容範囲内で、調律なんて高音部を作業してから低音部を作業しているうちにまた高音部はズレてくるものだし、逆に多少ズレているほうがピアノの音が 「わぁあぁ~ん」 と広がった感じになってピアノっぽい、という捉えかたもあるらしい。
つまりこのピアノと同機種のピアノに積まれているサンプリング音は皆同じようにちょっとズレている音だということになる。ウチの機種はもう随分古いので、最近の機種ならサンプリングの方法だって進歩しているし、きっと違う音源が載っているのだと思う。

そんなこと指摘したのは私が初めてらしくて、「耳が良いからわかるんですね」 と言われたのだけれど、このくらい誰にでもわかるはずで、ただ、そんなことあるわけないという先入観があるから気づかないし、気づいても、あまり誰も何も言わないのかもしれない。結論としてサンプリングされている音なんて結構アバウトなんだということです。アバウトなのがナマ楽器テイストということでもあるし。

最初から電子ピアノとして製作されている機種の場合は、PCM音源みたいなのなら、こうしたことは起こらないはずだ。そもそもサイレントピアノは、本来のピアノのハンマーアクションをそのまま転用しているので、音が出ないとはいいつつも、ガシガシと結構うるさい。思い切りフォルテシモで弾くと、ハンマーが寸止めの範囲を越えて振れるため、少し弦が鳴ってしまったりする。家の外にまで音が漏れないだけで、室内ではその近くで安眠はできないだろう。
だから音を出したくないということだけで考えれば、純粋な電子ピアノのほうが有利。ただサイレントピアノの鍵盤のタッチは、やや変わるとはいえアコースティク・ピアノそのものだから、それが唯一の、しかし最も重要な利点である。クラヴィナントカはどんなに高級品でもアコースティク・ピアノにはなれない。

調律されたばかりの生ピアノの音と比較したら、違和感はさらに増加してました。生音とサイレント音とを切り替えて聞くと (どのように表現したらいいのかむずかしいのだが) 各音の間隔が違うような感じがする。けれどそれは瞬間的なもので、すぐに慣れる。
まぁそんな細かいこと言っても楽器の音なんてすぐに狂ってくるものだし、だからといってピアノは自分で調律できないので、自分で調律できる楽器に較べると、やや不利なのかもしれない。

調律師さんは、他の楽器のことにも詳しくて、調律終了後、最近の業界事情などの話でメチャメチャ面白くて異常に盛り上がったが、書くと差し障りがありそうなこともあるので書きません。
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コメント 7

Enrique

固定音律の楽器の人達は,結構違和感があっても「そういうものだ」と思っている(頭の中で合わせている)様です。どうにも出来ませんし。もっとも,自分で合わせる楽器でもこの頃はチューナーで合わせる事が多いので,ピアノ化しているかも知れませんが。
by Enrique (2015-11-12 07:10) 

lequiche

>> Enrique 様

そういうものなんですね〜。(^^;)
ROMとして入っている音が合ってないというのが苦しいです。
アップデイトできればいいんですが、
そういう融通性もないですし。

電子的なチューナーっていうのも正確なのはわかりますが、
なんとなくヤな感じがするのは私が古い人間だからでしょうか。
そのうちオーケストラもチューナーで合わせるようになったりして。(-_-;)
by lequiche (2015-11-12 11:22) 

majyo

昨夜は改めて最後にしっかり読ませて頂こうと思いながら
忘れてしまいましたが

この場合だと、先ずは自分を疑ってしまいます。
もちろん自信が無いからですが
人の耳が勝っている事も当然あるわけなのですね

業界事情で盛り上がったなんて それは知識があるからでしょう
昔、娘も嫁に行き、ピアノだけが残されて毎年調律をしましたが
終了後はお茶して盛り上がりました。一年に一回お会いする方ですから
ただし音楽に関係ない事でした(-_-;)


by majyo (2015-11-13 07:34) 

lequiche

>> majyo 様

話がちょっとズレますが、
日本語の文字 (フォント) は縦横が正方形のなかに作られていますが、
画一的に並べると、きれいに並んでいるように見えないのです。
「寄り引き」 というのがあって、見え方は隣の文字との関係性で変わります。
つまり錯覚といえば錯覚なんですが、人間の視覚には美学があるので、
機械的な方式では人間の美学に対応し切れないのです。
Enriqueさんが書かれているように
最近はギターをチューナーで合わせる人が多いですが、
私はチューナーだけに頼る人には懐疑的です。
というかクォリティが低いんでしょうね。(笑)
人間の感覚はアバウトのように見えて、実は機械より精密です。

いえいえ、知識ではなく単なる噂話みたいなものです。
最近は何でもそうですが、
価格を抑えようとするあまり肝心なものを捨ててしまいます。
価格には常に適正なレヴェルがあるはずなので、
ともかく安ければいいという精神は、
物の価値がわかっていない人間が取り仕切っているからだ、
ということです。

全然関係ない話で盛り上がるのもいいですね。
関係ない話というのは何も残らないように思えますけど、
その何も残らないという、いさぎよさがいいです。
by lequiche (2015-11-14 06:45) 

lequiche

>> desidesi 様

ピアノの構造というのはとても複雑で、
電子ピアノにはアコースティク・ピアノのような機構を
載せるスペースも無く、価格的にも抑えられていますから、
音を出さずに弾きたいと思う人には物足りないんです。
そこでピアノそのものに
電子ピアノの機構も持たせようとしたアイデアです。
普通のピアノにもユニットを組み込めば、
消音ピアノにすることもできます。但し高価ですが。

サイレント・ピック!
それはすごいですね。というより半分詐欺っぽいです。(^^;)
防音の考え方として、音をシャットアウトするには、
2枚の硬い壁の間に空気層を作って音を伝達させない
というのが普通です。
音楽スタジオの作り方は皆そうです。
カーテンで吸音するとか吸音板で吸収するというやりかたは、
音がデッドになるだけでしかも防音の方法としては不完全です。
楽音そのものは劣化させないで、
その音を洩らさないようにするという方法でないと
音楽としては成立しませんよね〜。

でも、叩いても音の出ないぐにゃぐにゃの
サイレント・ドラム・スティックがあったら面白いなぁ、
とも思います。(^^)
by lequiche (2015-11-14 06:46) 

prin4795

絶対音感の持ち主さんですか?
凄い~、しかし大変らしいですね。
日常が~二人ほどいるのですが~
by prin4795 (2015-11-17 16:47) 

lequiche

>> prin4795 様

いえいえ、絶対音感なんて絶対ありません。(^^;)
ただ、普通に聴いていて何となく変だなと思ったので、
それを率直に言ってみただけです。
おそらく気づいている人は多いんじゃないでしょうか。
言わないだけです。
by lequiche (2015-11-18 00:14) 

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