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生のものとヴァーチャルなもの — ニコラ・ジェスキエールのルイ・ヴィトン [ファッション]

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『VOGUE JAPAN』が200号だったので買ってみた。
雑誌には定期的に買ってしまう雑誌と滅多に買わない雑誌があって、『VOGUE』はたまにしか買わないほうに入ってしまう。だってさ、内容が無いよう~、というようなギャグはさておいて、マジメに見ても見事なまでに何もない。何もないというのはもちろん皮肉な比喩で、とりあえず私の生活には関係ないという意味である。この関係なささ加減は『CG』(カーグラフィック) といい勝負である。
でも何もないけれどすごくゴージャスで、高級ブランドの、どれだけ金をかけているのかわからないような広告ページが並んでいて、つまり逆説的に言えば何もないように見える究極のものがもっとも至高のファッションなのだと思う。

表紙モデルはイーディ・キャンベル (Edie Campbell) で、中に彼女のショットを集めた特集ページもあって、そこには 「ロックな空気感」 とか、ありきたりな形容がされているけど、若い頃のパティ・スミスっぽい印象もある。

だが裏表紙のルイ・ヴィトンの広告に目がいって買ってしまったのかもしれない。Lightning SERIES 4と銘打たれている今シーズンのヴィジュアルは、FFXIIIのライトニングことエクレール・ファロン (Éclair Farron) をモデルに起用しているのだ。この異様な美しさをプロデュースしているのがヴィトンのデザイナー、ニコラ・ジェスキエールである。

ルイ・ヴィトンは1854年創業の有名なカバン・メーカーであるが、アパレルを始めたのは比較的近年であり、「ヴィトンって服も作ってるんだ」 というような見方が一般的であった。1997年から開始されたアパレルをデザインしたのはマーク・ジェイコブス (Marc Jacobs, 1963-) で、彼はすでに1986年から自身のブランドを立ち上げ、さらに96年からはbisブランドであるマーク・ジェイコブス・ルックを展開し始めていたなかで、さらにヴィトンのディレクターとなったのである。
ルイ・ヴィトン自体がLVMHとなりグローバル化するなかで、ジェイコブスも確実に地歩を固めていったが、2013年にジェイコブスはヴィトンを辞めることになり、その後任のデザイナーとなったのがジェスキエールなのである。

ニコラ・ジェスキエール (Nicolas Ghesquière, 1971-) は19歳でジャン=ポール・ゴルチエのニット (maille) デザインのアシスタントを得て、それを足掛かりにティエリー・ミュグレーなどを経て、1995年頃からバレンシアガのライセンス製品のデザインをするようになっていた。
バレンシアガは1918年からのスペインを出自とする老舗であり一時は隆盛を極めたが、1968年にクチュールから撤退し、そして1972年に創業者のクリストバル・バレンシアガが亡くなると、ブランド名を貸すことによって成り立っているだけの過去のメゾンのようになってしまっていた。
しかし1997年、ジェスキエールがディレクターに就任すると (その時、彼は26歳)、名門バレンシアガは再生した。それはジェスキエールのアヴァンギャルドで、かつ伝統的なデザインにも通暁する彼の才能によるものであった部分が大きい。
バレンシアガってすっごく昔のブランドだと思っていたのに、最近のアレは何なの? というような唐突な印象を当時受けたことを憶えている。

一番新しいファッションショーの動画がサイトにアップされているが、そのメカニックなステージ造形と、レザーを多用したファッションとが融合しているのか、それとも拮抗しているのかわからないままにジェスキエールの術中にはまっていくような気がする。
彼はそのインスピレーションをSFから、フィリップ・K・ディックやジョージ・ルーカスから受けたと言う。また1970年代のアメリカのTVドラマ L’Âge de cristal (Logan’s Run) のタイトルもあげられている。
幾つにも仕切られた矩形の客席の間のランウェイを無表情なモデルが歩き回る。そのウォークに合わせてディスプレイを光の流れが通り抜けて行く。こうした最近のショーはなぜこうも同じ種類の生っぽいデジタル音楽なのかという不満が残るにせよ。
ライトニングの着ていたレザージャケットはヴィトンのモノグラムと斜めによぎる縞を皮革の上に載せているようで、美しいフォルムとアヴァンギャルドなその遊びがコスプレのような異質な雰囲気を醸し出している。もちろんこのデザインのままで販売されることになっているようだ。

ヴィトンのモノグラムは、かつて日本の伝統的な紋様にインスパイアされて成立したデザインであったが、今、日本のコスプレ文化が逆輸入のようにしてファッションの牙城である一流ブランドのデザインにフィードバックしていくという不思議さが面白い。
イーディ・キャンベルの特集の最後のページで、彼女もライトニングと同じようにこのレザージャケットとバルーンスカートを着ているが、丹念につくられたヴァーチャルのイメージにはさすがにかなわない。

伝統のなかに破調なものを率先してとりいれる手法は以前のシャネルにも見られたが、ジェスキエールの場合は、そうしたテクニック的な改竄でなくもっと根本的な思想の変容のように感じられる。
こうしたカウンターカルチャーからの本歌取りがパリのメゾンの疲弊から来るものなのか、それとも新しいデザイン意識だと捉えるべきなのかはもう少し時間が経ってみないとわからない。でもショーの最後に出て来たジェスキエールは、その佇まいと動きがスポーティに軽やかで、ここに未来があるようにも思える。

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Nicolas Ghesquière


VOGUE JAPAN 2016年4月号 (コンデナスト・ジャパン)
http://7net.omni7.jp/detail/1202240948
[Kindle版]
VOGUE JAPAN (ヴォーグジャパン) 2016年 04月号 [雑誌]




ルイ・ヴィトン16SSショー
http://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/stories/womens-spring-summer-16-show
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ぼんぼちぼちぼち

ヴォーグ200号でやすか!
確かに、定期購読するタイプの雑誌って感じではないでやすね。
あっしはブランドには拘らないほうなんでやすが、ジャンポールゴルチェは、以前バッグに凝ってたころ幾つか持ってやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-03-03 12:24) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

不景気な雰囲気が全くなくてバブルっぽいままなのは、
ホントにそうなのかヤセガマンでそうなのか、
微妙なところです。

ゴルチエはバッグでもハードなデザインのなかに
セクシーさがありますね。
いまや彼はエルメスのデザイナーになってしまいましたが、
もともとはパンクな傾向を持っていたと思います。
by lequiche (2016-03-03 13:51) 

リュカ

定期的に買っている雑誌はどんなのかしら?^^
わたしはね、ナショジオ(笑)
あとは面白そうな時、おとなの週末かなあ。
VOGUEのようなお洒落な雑誌、全然買ってないです。。。
by リュカ (2016-03-03 16:40) 

lequiche

>> リュカ様

ナショジオって知りませんでした。
こういうのあるんですね。
次に書店に行ったとき見てみます。
おとなの週末っていうのは見たことがあるかもしれませんが、
買ったことはないのでこれも興味ありです。

ファッション誌は、昔、high fashionという雑誌があって、
これが面白かったのですが無くなってしまいました。
VOGUEとかマリクレとか、いわゆる総合ファッション誌なので
イマイチな部分があるんですよね〜。
by lequiche (2016-03-04 03:17) 

ponnta1351

この様な記事があるから女性だと思っていたのですよw
昔からある雑誌で知っていますが、お金のかかるファッションには興味ないので。
以前は芸術新潮を購読していました。

by ponnta1351 (2016-03-04 07:44) 

きよたん

雑誌を買わなくなりましたが
外国のファッション雑誌は写真が斬新
モデルも良くて色の組み合わせやアングル等
とても目の保養にもなりますね
by きよたん (2016-03-04 09:01) 

turugi

ルイ・ヴィトンいいですね~
by turugi (2016-03-04 13:02) 

lequiche

>> ponnta1351 様

では次はコスメの話題でも書いてみましょう。(ウソウソ ^^)
ファッションというのは必要でもあるし必要でもないし、
いろいろな見方があると思います。
今、古典的なその手の本を読んでいる最中です。
芸術新潮は王道ですね。
特集が面白そうだったら食指をそそります。
by lequiche (2016-03-04 15:44) 

lequiche

>> きよたん様

おぉ、確かに海外雑誌の特徴として
そういう面はあると思います。
日本の雑誌は印刷に関しては秀逸ですが……でもね。
それはファッションに関しても同様で、
オリジナルと日本でのライセンス生産だと、
縫製等は日本製のほうが良いんですが、
なぜかオリジナルに較べると平面的なんですね〜。
そういうことについてはまた稿を改めて書いてみたいです。
by lequiche (2016-03-04 15:45) 

lequiche

>> turugi 様

はい。いいですね。
といいながら私は持っていませんが。(笑)
ヴィトンは大企業ですから、
これからさらに他のジャンルに展開していくかもしれません。
by lequiche (2016-03-04 15:55) 

Rchoose19

なんかだ私はずっと「ブランド物」とかに興味がなくって・・・
ファッションにも興味がわかない女子力の無い奴なんですよ^^;
色の好みとかはあるんですけどねぇ・・・
女子力、今からじゃ、遅い気もするしなぁ。。。。。。^^;
by Rchoose19 (2016-03-09 07:30) 

lequiche

>> Rchoose19 様

いえいえ、そんなことないです。
というかブランド物=ファッションではないです。
ブランド物のネームタグが付いていても、
単に付いているだけのプアな商品ってありますし、
そういうのがファッションといえるかどうかは微妙です。
むしろその人の生き方が現れてくるのが
真のファッションだと思いますが。
by lequiche (2016-03-09 20:24) 

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