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なつかしい土地の思い出 — バイバ・スクリデ [音楽]

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バイバ・スクリデの所属レーベルがOrfeoになってから、コンチェルトを次々に弾くような状態が続いていて、これを追いかけているのだが、近作のシベリウスとニールセンのカップリングなど魅力的なのだけれど、まだ聴いていない。スクリデを偏愛しているといいながらちょっとサボッてしまっている。

でも初期の録音をまだカヴァーしきれていないので、SONY BMGの頃のチャイコフスキーのコンチェルトのCDを聴いてみた。タイトルは《Souvenir Russe》となっていて、コンチェルト以外に〈なつかしい土地の思い出〉と〈白鳥の湖〉op.20から2曲という全チャイコフスキーの構成になっている。
録音は2007年9月3~4日と表記されているので、スクリデ26歳のときの演奏である。

スクリデを聴くようになったのは、以前にもこのブログに書いたように、ラヴェルのソナタの弾き方があまりに心にフィットしてきたからであるが、しかしその後、ツィガーヌを聴いたらその密度の濃さに少し認識を新たにした。それはラヴェルに対する認識であって、最も職人的な技法を備えている作曲家としてのラヴェルにとって、ツィガーヌはやや特異な曲であるという思いである。
ただそれは、単にラヴェルの曲が密度が濃かったからというだけではなくて、それを増幅するようなスクリデの演奏にもあったのではないか、と今になると思える (スクリデのブラームスについては→2012年08月26日ブログ参照。シューマンは→2015年01月03日ブログ参照)。

このチャイコフスキーのアルバムにおいてもコンチェルトの速度はやや遅めであり、聴き始めはちょっともどかしいような印象があるが、やがてその緻密な音のなかにだんだんと没入していくのが快い。
そして第2楽章、第3楽章とすすむにつれて、その昂揚感がどんどん増していくのがわかる。
CDのパンフレットにも書かれているが、チャイコフスキーのコンチェルトは、彼女がまだ子どもの頃、オイストラフの演奏をTVで観たのがその原点にあるとのことだ。
オーケストラはアンドリス・ネルソンズ指揮/シティ・オブ・バーミンガムというオーケストラだが、このオケは木管がとても美しい。
コパチンスカヤの同曲へのアプローチに較べればスクリデはずっと正統派だ。また、オイストラフの演奏もYouTubeにあったので参照してみたが、表現がさすがに古い。特にヴァイオリンという楽器は、テクニックだけでなく、曲の解釈そのものが確実に進歩しているように感じられる。

そしてタイトルの《Souvenir Russe》は2曲目の《Souvenir d’un lieu cher》(なつかしい土地の思い出) に引っかけられている。
〈なつかしい土地の思い出〉はもともとはヴァイオリンとピアノのための曲で、それをグラズノフがオーケストラ用に編曲したものである。瞑想曲、スケルツォ、メロディという3曲から構成されていて、つまりヴァイオリン・ソナタではなく小品集のようなものである。
1曲目の〈瞑想曲 Méditation〉はコンチェルトの第2楽章にするつもりだったが、それをやめて独立した曲として発表された。2曲目と3曲目は、あとから付け足して作曲された。

このグラズノフ編曲版の演奏がすばらしく良い。ピアノ伴奏版の演奏もYouTubeなどの動画にあるが、このオーケストラ版にはぜんぜんかなわない。瞑想というよりも官能に近くて、ある意味、通俗のきわみかもしれなくて、メロディメーカーの力が最大限に発揮されているようで、だからチャイコフスキーなんだと言われればそれまでであるが。
2曲目の〈スケルツォ Scherzo〉は文字通り、小気味よいスケルツォであって、ここでもヴァイオリンと木管のからみが美しい。
終曲の〈メロディ Mélodie〉はまさに美しいメロディラインなのだけれど、比較的普通の展開であり、でも締めくくりとしてはこのようなかたちになるのだろう。

チャイコフスキーはこの曲をスイスに滞在しているときに書いたという。lieuという言葉から私はすぐにビュトールの〈Le Génie du lieu〉を連想してしまったが、いつもと違う土地にはインスピレーションを湧かせる作用があるのかもしれないと漠然と思う。でもほとんど旅などしない私の考えることだから、全然間違っているかもしれないとも思う。


Baiba Skride/Tchaikovsky〈Souvenir Russe〉(SMJ)
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、なつかしい土地の想い出、白鳥の湖より




チャイコフスキーの動画が見つからないので
スクリデとネルソンズのベルクのトレーラーを
Skride&Nelsons, Berliner Philharmoniker/Berg: Violin Concerto
https://www.youtube.com/watch?v=6qeYxfknggM

ジョシュア・ベルによるméditation
https://www.youtube.com/watch?v=rGA3o5_EuzY
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末尾ルコ(アルベール)

鑑賞させていただきました!他にもいくつかBaiba Skrideの動画を鑑賞してみました。
軽快にベートーベンを奏でる演奏など、lequiche様の文章を拝読した後だと、より深く音楽の魅力が理解できたような気持ちになります。
チャイコフスキーもぜひ聴きたいものです。
チャイコフスキーは通俗のようでいて、しかし聴けば聴くほど奥深く憑りつかれてしまう魔力があると思っています。『白鳥の湖』のように誰でも知っているメロディでも底知れぬ深さを感じるというか・・・。

                  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-05-23 08:03) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

わざわざお聴きくださりありがとうございます。

最近、上がっているスクリデの動画で出色なのは
ニールセンのコンチェルトなのですが、
それは改めて書きたいのでリンクしませんでした。

チャイコフスキーは以前にも書いたかもしれませんが、
子どもの頃は、三大バレエの音楽にハマッていました。
でも小品にも佳曲がありますね。Les saisonsとか。
なつかしい土地の思い出もそうした曲のひとつだと思います。
すごく俗な言い方ですが 「歌心」 があること、
それが音楽の原点のように思います。
by lequiche (2016-05-24 04:05) 

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