SSブログ

イブラギモヴァのメンデルスゾーン [音楽]

ibragimova&herreweghe_160518b.jpg

先日、アリーナ・イブラギモヴァのことを書いたとき、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の録音はハイペリオンから出ているユロフスキ指揮の演奏きり私は知らなかった。ところが動画サイトにも同曲があると知り、YouTubeを探してみるとヘレヴェッヘとのものがあるのを発見。
ハイペリオン盤は2011年09月02日~04日の録音とあるが、ヘレヴェッヘは同年12月11日だからCDを録音したときより後である。
Radio Kamer Filharmonie o.l.v. Philippe Herreweghe
Alina Ibragimova: viool
11 december 2011, Grote Zaal van het Concertgebouw Amsterdam.
と記されていて、vioolというオランダ語表記がカッコいい。
ヘレヴェッヘだから、ということで早速聴いてみたら見事にハマッてしまった。

私にとってのメンデルスゾーンのコンチェルトの標準はハイフェッツの古い録音である。なぜハイフェッツかというと、まだ私が小学生の頃、家にハイフェッツ盤があってそれを繰り返し聴いていたからであって、自らが選択したものではない。でも最初に聴いた音というのは、それが若ければ若いときであるほど、いわゆる 「刷り込み」 になってしまって、別にその演奏が一番良いものでなくても、それを基準に他の演奏と比較してしまうことが多い。

メンデルスゾーンのコンチェルトはベートーヴェンのコンチェルトなどと較べると、聴きやすいというか、ある意味、通俗でわかりやすいという印象がある。それは最初の主題があまりにも有名で、ここをいかにせつせつとロマンティックに歌い上げるようにリスナーに訴えるのかがこの曲の演奏の常道なのだと思う。
でも、ヘレヴェッヘとのイブラギモヴァは、ちょっと何か感じが違う。もちろん十分にそのテーマは弾かれているのだが、比較的速くさらりと流れていって、「ここがキモ的」 なおしつけがましさが無い。
ハイフェッツやグリュミオーの古い動画とか、ヒラリー・ハーンの動画とかと較べてみても、普通はどっしりとしたように構えて弾くみたいなスタイルがあって、特にハーンは見ていても、音も姿勢もおっとりとしているが、イブラギモヴァの身体の揺れはすごく動的で、というか何かヘンで、なんと表現したらいいのかわからないのだが、私の勝手な言い方をしてしまえば 「ロック」 している。

主題が終わって、経過句が3連で下がっていき、それから上がっていくところの8分音符 (28小節と32小節) を強いアクセントで弾くのに、どきっとする。確かにスタカートは付いているのだが、ここをこんなふうに弾く人はあまりいないように思う。このスタカートにやられてしまった。

カデンツァの入り方もそうだ。ソロになる299小節からのスピードが異常に速い。やがてトリルを繰り返して最高音まで上がっていき、フェルマータがあってからa tempoで戻るのだが (323)、そこでももったいぶってだんだんと戻っていくのでなく、いきなり全開してしまう。でもハイペリオン盤では弾き方がちょっと違う。私は意表をつくヘレヴェッヘとの弾き方のほうが好きだ。
イブラギモヴァのこうしためりはりの付け方はスリリングで、いままでの比較的ベタッとしていたハイソ風なメンデルスゾーンとは違った印象を受ける。でも嫌いな人は嫌いなんだろうなぁとも思う。
カデンツァが終わって、再現部の第1主題、第2主題があって、調性がe-mollに戻る暗い部分がいい (414)。ここが第1楽章で私が一番好きな個所である。

イブラギモヴァにはキアロスクーロ・クァルテットによる弦楽四重奏の録音もあって、メンデルスゾーンの2番がすでにリリースされているが、キアロスクーロはまだ未聴である。クァルテットだとどのようにアプローチしているのか、興味は尽きない。

ibragimova&herreweghe_160518.jpg

Alina Ibragimova/Mendelssohn: Violin Concertos (Hyperion)
Violin Concertos




Felix Mendelssohn: Vioolconcert in e-klein, op.64
Radio Kamer Filharmonie o.l.v. Philippe Herreweghe
Alina Ibragimova: viool
11 december 2011, Grote Zaal van het Concertgebouw Amsterdam.
https://www.youtube.com/watch?v=b0EhBqVihEU
nice!(87)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 87

コメント 6

末尾ルコ(アルベール)

このイブラギモヴァにはうっとりしてしまいます。ノースリーヴのタイトな黒いロングドレスに身を包んだ姿でうねるように弾く姿は傑作映画を観ているような緊張感をもたらしてくれます。得も言われぬ表情がまた素晴らしい!
コメントくださったドイツ映画『ルートヴィッヒ』についてですが、エリザベートの出番は少ないです(笑)。もちろんロミー・シュナイダーと比べるべくもなく、そしてヴィスコンティ作とはまったく違う雰囲気でかなりポップ。そんな中にドイツらしさも垣間見えて興味深い映画です。

                   RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-05-18 08:27) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ルコさんが書かれていた動画サイトのメンデルスゾーンって
きっとこれなんじゃないかと思いました。ありがとうございます。
そうそう、まさに 「うねるように」 という形容がぴったりです。
それと左手の指の動きが美しいです。

よく書かれているプロフィールなどを読むと、
メンデルスゾーンは比較的浅い理解しかされていないように思えて、
裕福な家庭に生まれて何一つ不自由はなかったとか、
明るくて翳りのない音楽とか……バカですね。
芸術家の内奥はそんなに単純なものではないと私は思います。

なるほど。ロミー・シュナイダーと較べてはいけませんか。(^^;)
でもポップな感じなのもいいと思います。
ルートヴィヒってどうしてもその特異なキャラが
拡大されて理解されがちですね。
by lequiche (2016-05-19 01:47) 

サンフランシスコ人

「別にその演奏が一番良いものでなくても、それを基準に他の演奏と比較してしまうことが多い.....」

カリフォルニア州ロサンゼルスで、レコード店員が私に同じ事を言いましたが...
by サンフランシスコ人 (2016-05-19 03:07) 

lequiche

>> サンフランシスコ人様

そうですか。
やはり同じように思っている人っているんですね。
by lequiche (2016-05-20 00:26) 

moz

曲のイメージって最初に聴いたもので出来上がるのかなと思います。三つ子の魂?
ぼくもラフマのチェロソナタとかピアノソナタとかはナクソスの廉価版で初めて聴いて、なんだかその後色々と聞いたのですが、この廉価版の方がしっくりくるなと(笑)
メンデルスゾーン、今はまっている作曲家です。ホ短調のヴァイオリンコンチェルト、通俗とか言われてますが、やはりきれいなものはきれいです。ヴィヴァルディの四季がピリオドやロックっぽく演奏されるようになって曲そのもの、ヴィヴァルディその人を再認識してしまいましたが、ご紹介いただいた演奏もそういう感じなのかもしれないな等と思いました。
メンデルスゾーンの四重奏とかいいですね。2番と6番ドツボです。 ^^
by moz (2016-05-20 05:59) 

lequiche

>> moz 様

三つ子の魂! やっぱりそうですよね。(^^)
ナクソスは廉価盤だからダメだろうみたいな先入観がありますが、
決してそんなことないと思います。
有名曲でない場合はナクソスが頼りですし。

メンデルスゾーンのコンチェルトは構造が簡単に見えるから
通俗と言われることがあるんですが、
そうじゃないというのがわかってきました。
音楽はシンプルななかにどれだけ内容があるかです。
それはフォーレのレクイエムなどにも言えます。
オーケストレーション下手!とか言われますが違うと思います。
ヴィヴァルディとかレスピーギとかヨハン・シュトラウスとか、
通俗だから良いんですし、
お酒だってビールがあってワインがあって日本酒があって、
いろいろあるからいいんだと思います。音楽も同じです。

イブラギモヴァは、今、ミーハー人気が高いですが、
Perfumeなんかと同じで実力はあると思います。

メンデスルゾーンのSQの全曲盤は2種類しか持っていませんが、
実は長いこと、つまんない曲だなと思っていました。
でも突然わかるときが来るんですね。音楽ってそういうものです。
by lequiche (2016-05-20 13:40) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0