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チョン・キョンファの無伴奏バッハを聴く [音楽]

Kyun-WhaChung_161004.jpg
Kyung Wha Chung

今、チョン・キョンファのバッハの無伴奏ソナタ&パルティータを聴きながらこれを書いている。
一時引退かと思われていたチョンが再起し、新たにワーナーと専属契約して、その第1弾アルバムである。
チョン・キョンファ《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲》、録音はライナーノーツによれば2016年2月19日−21日、3月24日-26日、4月3日−5日、5月30日−6月1日の合計12日間、場所はイギリスの St George’s Bristol とある (HMVとtower recordsのサイト記載のデータは2〜3月の個所がどちらも同じように間違っている)。

音はややホールトーンのある、といって嫌味なほどではない響きで明るく気持ちが良い。ただ、いきなりこれを書いてしまっていいのかどうかわからないが、え、これってどぉ? というのが第一印象だった。
すごく気持ちがいい響きなのだが、いわゆる巨匠芸的な音に私には思えてしまう。巨匠芸というのが揶揄した言い方なのだとしたら決してそんなことはないのだが、古色蒼然としたバッハではないのだけれど、つまりロマン派的傾向を持ったバッハであって、私が最近思い描いているバッハ像とはやや異なる気がする。
このチョン盤のリリースを期待していたので肩すかしといえばそうなのだけれど、でもよく考えてみれば、これがチョン・キョンファのスタイルなのだと思えばその通りなのだ。

チョン・キョンファのバッハは2014年にリリースされたサントリー・ホールでの1998年東京ライヴというのがあって、その第2夜でパルティータ第2番を弾いている。これもすでに聴いているのだが、その時はライヴという条件のためか、そのパッショネイトな演奏と会場の雰囲気というものに押されてしまって、そんなに違和感はなかったように思う。
さらにさかのぼればずっと若い頃のデッカ盤があって、これは一昨年に出されたコンプリート盤で聴いたのだが、無伴奏はパルティータ第2番と第3番で、1974年の録音である。

きっとバッハに対する私の感じ方が変わったひとつの分岐点はクリスティアン・テツラフにあると思う。テツラフの最もすぐれた演奏はバルトークの無伴奏だと思うが、バッハの無伴奏も2回録音があって、その禁欲的というか、色のない演奏に引き込まれた。
最近のテツラフは、以前に較べると共感できる度合いが少し下がってしまったが、それにかわって私のフェイヴァリットになったのがアリーナ・イブラギモヴァである。テツラフはイブラギモヴァの師匠のひとりなので関連性があるといえばそうだが、イブラギモヴァの持つ独特の暗さは彼女独自のものである。
イブラギモヴァの無伴奏バッハは、そのほの暗さと華やかさのない音が、現在の私にとっての至高のバッハである。

それに対してチョン・キョンファの無伴奏は、すごく華やかでダイナミックで、えっ? というアーティキュレーションありまくり、アゴーギクばりばりという感じだが、聴いているうちにこれが快感に変わっていくところが何ともいえない。例が悪いかもしれないが、G線上のアリアと同一線上にある無伴奏であって、決して難解玄妙なバッハではない。
こういうのが音楽の喜びといえば喜びなので、そのこちらの弱みをうまくついてくるチョンの表現力が優れているのだが、最初に聴いたときは思わず楽譜と照らし合わせてしまった。でも、あらためて思ったのだがバッハの楽譜には音以外のことはほとんど何も書かれていない。だからどう弾いたっていいのである。私が参照したのはアドルフ・ブッシュの校訂版だが、そこに付加されている指示は些末なことに過ぎない。
だから逆に有名なシャコンヌでは、たとえばイブラギモヴァだとすごく神妙で疲れてしまうという感じもあって、もっともその疲れてしまうほどの重さが心地よいのだが、それをチョンが弾くと、全然重くなくて、まさに昔から認識されているシャコンヌ的シャコンヌに聞こえる。

では昔のバッハ演奏は今ではダメで、ピリオド系のバッハがいいのかと問われると、私は相変わらずカール・リヒターのほうが良いと思ってしまうほうなので、必ずしも現在のバッハへのアプローチに賛同しているわけではないから、いわば支離滅裂である。でも音楽なんてどのように聴いたって良いのである。これが良いと思うバッハが真実のバッハなのだ。


Kyung Wha Chung/Bach: Sonatas & Partitas (Warner Classics)
バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全6曲)




Kyung Wha Chung/Bach: Chaconne (Partita No.2)
2014.12.01, Royal Festival Hall, London
https://www.youtube.com/watch?v=DEVLtf6J-g4
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コメント 8

Enrique

同意見です。ピリオド系の演奏は逆にステロタイプに聴こえてしまう事もあります。良いものは良いでよいと思います。
by Enrique (2016-10-04 07:07) 

lequiche

>> Enrique 様

そう言っていただけると心強いです。
最近はピリオドでの演奏技術が上がってきたので、
という面もあるのだとは思いますが。
もし全て演奏時のオリジナル楽器でということだったら
バッハはチェンバロに限るし、
ショパンもプレイエルでということになりますが、
そういうことは不思議に言われないんですよね〜。(^^)
by lequiche (2016-10-04 14:52) 

末尾ルコ(アルベール)

チョン・キョンファは以前からよく聴いております。しかし映像を観たのは久しぶりで、「巨匠」といった貫禄がついておりますね。しかし教会内の演奏は響きも格別で、一度生で味わってみたいものです。   RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-10-05 02:02) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

やっぱりもう巨匠なんでしょうね。
教会で演奏をするというのは、
音楽の原点が教会堂のなかにあるという証左であって、
伝統と歴史の長さを感じます。
私には反響があり過ぎるような気もするのですが。
by lequiche (2016-10-05 18:01) 

hatumi30331

いつもありがとうございます。
いつもキョロキョロ怪しいブリガーです。(笑)

台風の風・・・・凄いね!
今・・・・風だけが吹き荒れてる!^^;
後、数時間かな?
by hatumi30331 (2016-10-05 19:18) 

そらへい

バッハの無伴奏チェロとか、バイオリン、平均律などが好きで若い頃はよく聞いていましたが、最近は少し縁遠くなっています。
気持ち良く聞く場合は良いのですが、聞き込もうとすると緊張を強いられる気がして、なかなか聞けないこのごろです。
バイオリンはシェリングやシゲティなどでした。
新しい清新な演奏にも接してみたいとも思うのですが・・・
by そらへい (2016-10-05 20:49) 

lequiche

>> hatumi30331 様

こちらこそいつも楽しませていただいています。
えええっ、そうなんですか?
東京は全然静かです。
ずっと向こうのほうみたいですね。(^^)b
by lequiche (2016-10-05 21:49) 

lequiche

>> そらへい様

バッハは、平均律やディアベリはちょっと重いかもしれませんけど、
最近、無伴奏ヴァイオリンはかなりポピュラーのように思います。
あまり神格化してもしょうがない、という傾向ですね。
ヴァイオリン演奏の平均的レヴェルが上がったとも言えます。
シェリングの無伴奏は昔からレジェンドでしたね。
チョン・キョンファはシゲティにも師事していますが、
シゲティとは異なるアプローチだと思います。
最近の演奏もときにはいいのではないでしょうか。
お時間のあるときにでも是非!(^^)
by lequiche (2016-10-05 21:59) 

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