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マイルス・スマイルズの形成 ― Miles Davis bootleg vol.5 [音楽]

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昨日発売されたマイルス・デイヴィスの Bootleg Series vol.5《Freedom Jazz Dance》はvol.4までのブートレグとやや趣を変えて、スタジオにおけるセッションの様子 (session reel と表記されている) が記録された内容になっている。
マイルスのCBSにおけるアコースティク・クインテットの黄金期、《E.S.P.》(released 1965)、《Miles Smiles》(1967)、《Sorcerer》(1967)、《Nefertiti》(1968) という4部作の頃である。wikiにはPost-bopという表現になっていて、そういう言い方もあるのか、といまさらながら感心してしまった。
3枚のディスクのうち、1枚目と2枚目の大半は、アルバム《Miles Smiles》の全セッションとそのマスターテイクなので、この Bootleg Series vol.5 (以下 Boot05 と略記) は《Miles Smiles》セッションがメインと考えてもよい。

《Miles Smiles》がリリースされたのは1967年02月16日だが、レコーディングは1966年10月24日と25日で、ちょうど50年前。その全6曲のセッションと完成されたテイクとが並列して収録されている。つまりスタジオ内での会話や練習を含めた様子が、ところどころカットされてはいるがテイクを重ねていくのがわかる部分もあり、非常に生々しい。このテイクはかなりいいなと思っていても、突然マイルスにより演奏が中断されたりする。
アルバム《Miles Smiles》の完成形の曲順は次のようだが、その後にある日付は録音日である。

 1.〈Orbits〉1966.10.24.
 2.〈Circle〉1966.10.24.
 3.〈Footprints〉1966.10.25.
 4.〈Dolores〉1966.10.24.
 5.〈Freedom Jazz Dance〉1966.10.24.
 6.〈Gingerbread Boy〉1966.10.25.

このうち〈Circle〉のみマスターテイクが収録されていない。Boot05 に収録されているtake05のクロージング・テーマとtake06のクロージング・テーマ以外とを合体したものが〈Circle〉のマスターテイクであるとのことだ。

ディスク2とディスク3にまたがって、アルバム《Nefertiti》からの2曲〈Nefertiti〉と〈Fall〉の2曲が収録されている。また、ディスク3のtr03とtr04はアルバム《Water Babies》の〈Water Babies〉であり、この〈Water Babies〉と〈Nefertiti〉は1967年06月07日にレコーディングされている。〈Fall〉の録音は1967年07月19日である (アルバム《Water Babies》は1967~68年の録音のアウトテイク集であり、1976年になってリリースされた。アルバム《Nefertiti》とアルバム《In a Silent Way》のアウトテイクである)。

Boot05のディスク3のtr05~08は拾遺的なトラックである。《Sorcerer》の〈Masqualero〉の別テイク、《Miles in the Sky》の〈Country Son〉のリズムセクションのリハーサル、そして〈Blues In F〉というマイルスのピアノによる解説/指示である。08は Miles Speaks というタイトルであるが、ほんの6秒間の声の録音に過ぎない。

全体を通しての印象は、おそらく面白い部分だけを選択してつなげているのだろうけれど、5人のメンバーのそれぞれのテクニックが非常に高いため、こんなに簡単に曲ができてしまうのか、と思わされてしまうほどにスムーズに組み立てられていく感じがする。
ほとんどがリズム・セクション (ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス) に対する指示であって、マイルスとショーターはそのリズムに乗ってソロを吹くだけであり、彼らのプラクティスは無い。特徴のあるマイルスの声をこれだけ聞くことができるのは珍しいのではないだろうか。〈Freedom Jazz Dance〉のセッション部分はこの Boot05 のタイトルにもなっている通り最も詳しい内容になっていて、完成形の曲時間7:14に対して23:15も収録されている。マイルスがメロディを口ずさみながら、タイミングなどを指示したり、テーマの部分を何度も何度もトライする様子がわかる。

ただ、はっきり言ってしまえば練習風景 (見えないけれど) なので、マニアックなファンを対象としたリリースなのかもしれない。いままでのブートレグ・シリーズのなかで今回のBoot05が一番マニアックだろうと思われる。ビル・エヴァンスのオスロ・リハーサル・テープ (→2016年04月11日ブログ参照) と同様に、面白いと感じるかどうかはそのリスナーによる。
今、過去のブログを読み返してみたら Bootleg vol.4 については書いていなかったが、毎回、発売の楽しみなこのシリーズである。デザインが統一されていないのと、輸入盤は作りがやや雑なのが少し残念だが、内容がすべてを凌駕している。


Miles Davis/Freedom Jazz Dance
The Bootleg Series vol.5 (Columbia/Legacy)
Freedom Jazz Dance: the Bootle




Miles Davis/Freedom Jazz Dance (国内盤)
フリーダム・ジャズ・ダンス ブートレグ・シリーズVol.5(完全生産限定盤)




Water Babies
http://amass.jp/78449/
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コメント 6

末尾ルコ(アルベール)

試聴いたしました。やはりとても心地いいです。マイルスファンだけでなく、ジャズファンなら多くが喜びそうです。良質のドキュメントを観ているような臨場感がありますし、一本芯の通った緊張感も伝わってきます。マイルスの作品はたいがいどれも繰り返して聴いているので、こうした録音は新鮮味があっていいですね。  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-10-22 07:29) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

いままでのBootlegシリーズは、
過去に劣悪な音質で出されていたブートを
オフィシャルで出し直した音源があったようですが、
今回のセッションリールは
おそらく初めて公開されたものだと思います。
そういう意味でも貴重です。
この時期のクインテットは一番強力ですし、
特にトニー・ウィリアムスは素晴らしいです。
by lequiche (2016-10-22 21:11) 

そらへい

マイルスのあのしゃがれた声が聞こえてきそうですね。
Bootlegシリーズ?
パーカーの別テイク集のようなものなのでしょうか。
いずれにしてもマイルスファンには堪らない企画ですね。

by そらへい (2016-10-22 21:58) 

lequiche

>> そらへい様

ブートレグ・シリーズは
ソニー・レガシーで2011年からリリースされているCDで
公式に出されるのとしては全て初めての音源です。
別テイクもありますが、全く未発表のものもあります。
現在、vol.5まで出ています。
https://www.sonymusicshop.jp/m/pageShw.php?site=S&ima=1309&cd=search#q=bootleg%20miles
日記本文末尾のリンクはWater Babiesのセッションリールです。
by lequiche (2016-10-22 23:24) 

hatumi30331

運動会,楽しかったですよ。^^
毎年見てると、成長ぶりも分るしね。^^
今日は、暑い!
夏みたいです。
いつもありがとう〜♪^^
by hatumi30331 (2016-10-26 13:26) 

lequiche

>> hatumi30331 様

あ〜、そうですよね。>成長ぶり
暑かったですけど夜になるとやはり秋ですね。
急減期に涼しくなりました。
さっき、ちょっと雨が降りました。
もうすぐ11月ですから。(^^)
by lequiche (2016-10-27 00:46) 

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