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加藤和彦のこと [音楽]

KazuhikoKato_161218.jpg

加藤和彦のことを私はあまりよく知らない。知らないのだけれど、何かいつも肝心なときにその名前に巡り会う。それは不思議だ。もっとも長い芸歴があるのだから当然なのかもしれない。

週末。せっかく飲み会があったのに疲労してしまって、行くのを断念した。それであてどもなくYouTubeで昔なつかしい曲を渡り歩いたりしていた。きりがないし、よけい疲労するだけなのに。そんなふうにして加藤和彦を聴く。

以前、加藤和彦のヨーロッパ三部作というのが書籍の流通として出ていて、でも買ったのに開封していなかったりする。初めて買ったアルバムはたしか《ヴェネツィア》だったと思うが、今、CDショップのリストを見ると廃盤になっていたりする。
愛聴するというほどの思い込みのあるディスクではなくて、ふと思い出したときに何度も聴いて、また記憶の砂のなかに埋もれてしまうような、でも決して忘れない、そういう印象がある。

何となく鼻持ちならないような、でもとても寂しい風景が通り過ぎたりするような (それが彼の心底にある心象風景なのかもしれないが)、それでいて音楽界のドンだったような、幾つもの顔が浮かんでくるがそれらは皆、加藤和彦なのだ。

たとえば、以前にも書いたが、大貫妙子の《romantique》の〈果てなき慕情〉は加藤でなければ出せなかった情緒であるし、あるいは同じ大貫の《Aventure》の〈ブリーカーストリートの青春〉とか、ちわきまゆみの《Gloria》の〈Be My Angel〉などは、加藤の解釈したブリティッシュなのだと思う。これらの曲のなつかしさのようなテイストは、いつになっても古びない。

でも、よく知らないのでもちろんサディスティック・ミカ・バンドのことは伝説の範囲でしか知らない。先進的でありながら遊びがあって、そのしなやかさとかフラクタルな部分が加藤和彦のバンドとしての魅力だったのかもしれない。
ミカ・バンドの最後はヴォーカルが木村カエラだったが、その最後のバンドからもうすぐ10年が経とうとしている。10年ひとむかしとか、10年目の毬絵とか、すぐに連想するボキャブラリーがあるけれど、あと10年経ったら 「あれから20年!」 になるわけで、その連想を働かせるのだけは避けたい。

YouTubeを見ていると加藤和彦抜きの1997年ミカ・バンドというのがあって、そのほうがリズムもタイトなのだが、少し好々爺然としてしまっている加藤和彦の率いるNHKホールのミカ・バンドはなにごとにも代えがたい。それにこの頃の木村カエラは一番いきいきとしているように感じられる。それもすでに10年ひとむかしなのだ、と言われればそれまでなのだが。
この日のNHKホールの異常なテンションの空気感を私はずっと忘れないだろう。たった一度のミカ・バンドのライヴが最後のミカ・バンドになってしまったのは残念だが、ひとの記憶にそのときが残る限り、それは永遠に生き続ける。


加藤和彦/ベル・エキセントリック (オーマガトキ)
ベル・エキセントリック(紙ジャケット仕様)




タイムマシンにおねがい (NHKホール 2007.3.8.)
https://www.youtube.com/watch?v=fssgiDe7saY
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コメント 20

hatumi30331

懐かしい人の話題。
若い頃、彼の才能に触れて、よく聞いてました。^^
by hatumi30331 (2016-12-18 06:49) 

末尾ルコ(アルベール)

加藤和彦については、その才能は(凄いんだろうなあ)とは理解しつつ、お言葉を借りれば、「鼻持ちならない」イメージが先行していたのがわたしの個人的音楽史です。しかし大貫妙子はずっと好きでして、こうしてお記事を読みながら(なるほど)と感じ、加藤和彦もまたいろいろ聴いてみたくなりました。 前回のお記事でリンクしてくださっているポゴレリチの映像拝見しました。まずヘアスタイルを含めて風貌がまったく違うので(笑)、(ん?)と思いましたが(笑)、聴き進めるにしたがってお書きになっていることがより理解できた気がしました。   RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-12-18 07:29) 

KENT1mg

私に一等最初都会への憧れを感じさせてくれた方です。
カッコいい人です!(^^)
by KENT1mg (2016-12-18 11:55) 

Speakeasy

加藤和彦さん関係のCDは、ザ・フォーク・クルセダーズとサディスティック・ミカ・バンドを持っているだけで、ソロは聴いていません。

以前NHKで放送された『ニッポン戦後 サブカルチャー史』の中で、加藤和彦さんが1970年に出演したCMが流されたのですが、強く時代を感じさせる映像と音楽(勿論、加藤さん作曲)に一発で魅力に引き込まれました。

https://youtu.be/NxNK1OD-TBM

この曲はCD化されていない様で残念ですが、他のソロ曲にも興味が出ましたね。

by Speakeasy (2016-12-18 16:51) 

majyo

加藤和彦というと フォークルしか思い出せない
その後の活躍は知っているけれど
やはり 三人のメロディーが思い出されます
イムジン川、時々吹きますよ
音楽的には加藤さんが一番だったような


by majyo (2016-12-18 19:54) 

lequiche

>> hatumi30331 様

おぉ、そうでしたか。
軽いように思えて、実は重い曲があります。
その暗い情熱みたいなのに惹かれます。
by lequiche (2016-12-18 22:33) 

NO14Ruggerman

ワタシが応援しているポップ系女性シンガー(30代)が
最近「あの素晴らしい愛をもう一度」に聴き惚れたと言って
自身のライブでよく歌を披露してくれています。
この曲を聴くと思春期の頃のほろ苦さとか甘酸っぱさを
想い出して照れ臭くなるのです。
by NO14Ruggerman (2016-12-18 22:33) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

昔、夏休みに毎日のように通っていたプールがあって、
音楽が流れているんですが、夏の終わりになるといつも
竹内まりやの〈September〉と〈不思議なピーチパイ〉が
流れるんです。
ずっと聞かされて刷り込まれてしまいました。(笑)
つまり、まだ自作曲を採ってもらえない頃の竹内まりやの
最初のヒット曲は山下達郎ではなくて加藤和彦だったんです。
後になってピーチパイが加藤和彦の曲だと知り、
なるほどなぁと思いました。
ヒット曲の作り方がわかってるんです。

大貫さんは基本的に自作曲ですが、
坂本龍一と加藤和彦ではアレンジメントに違いがあって、
加藤和彦のは常にノスタルジックな傾向があります。
そのなつかしさのようなものにハマりますね。
竹内まりやの〈マージービートで唄わせて〉は
ブログ本文に書いた加藤のブリティッシュ風な味に似てます。

ポゴレリチは、2012年5月15日のブログにも書きましたが
http://lequiche.blog.so-net.ne.jp/2012-05-15
ショパンの2番のソナタの最終楽章は当時からヘンで
http://www.youtube.com/watch?v=EDU7lYJleb4
普通はこういうふうには弾きません。
外見は当時と今では変わっているし、
弾き方も変わっているように見えるけれど、
音楽性の基本はデビューから同じだと私は思います。
by lequiche (2016-12-18 22:33) 

lequiche

>> KENT1mg 様

なるほど、確かにそうですね。
アーバニティな雰囲気がします。(^^)
by lequiche (2016-12-18 22:34) 

lequiche

>> Speakeasy 様

ソロアルバムが一番鼻持ちならなくて、
だからこそ一番イイと思います。
ただ、そうした音楽性は日本では多分に
砂上の楼閣的なあやうさがありました。
それをきっとわかっていてやっていたんです。

このCMは初めて見ました。
確かに強い時代性がありますね。
トレンドというのは強ければ強いほど、
その時代から離れると違和感がありますが、
それこそがトレンドなんだと思います。
by lequiche (2016-12-18 22:34) 

lequiche

>> majyo 様

フォーク・クルセダースでデビューしたんですね。
あの当時、フォークというのは
かなり政治的な志向を持っていたんだと思います。
でもその後、どんどん変わっていって、
常に一歩先みたいな音楽の取り入れかたをしていて、
ということは今になって分かってきたのですが、
ある意味、わかりにくい部分もありました。
by lequiche (2016-12-18 22:35) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

ポップ系女性シンガー・・・・
そういうの、いいですね。(^^)
〈あの素晴らしい愛…〉は、いまでは音楽の教科書に
載ってるんじゃないかというような曲ですが、
その照れくさいみたいな感情が
音楽としてのピュアな感情なんじゃないかと思います。
by lequiche (2016-12-18 22:40) 

johncomeback

加藤和彦、懐かしいです。
北海道の田舎の学生だった僕は彼に「都会」を感じていました。
出身は京都のようですが「都会」「現代」って感じだったなぁ。
by johncomeback (2016-12-18 23:31) 

lequiche

>> johncomeback 様

そうですか。都会&現代、そうですね〜。
やはり活動歴が長いですから、
懐かしいと思われる世代の範囲も広いんじゃないかと思います。
私はあまりきちんと聴いてこなかったので、
今となっては残念な部分もあります。
by lequiche (2016-12-19 00:02) 

えーちゃん

YouTubeは、たまにしか見なくなった(^^;
今日は音楽ネタなので掲載してみたけど、物によっては直ぐ削除されちゃったりもするよね?
まぁ、著作権の問題があるんだろうけど。
by えーちゃん (2016-12-19 05:17) 

風来鶏

竹内まりやさんが「戻っておいで・私の時間」でデヴューするきっかけは、トノバン(加藤和彦さん)との立ち話からだったようですね(^^;;
by 風来鶏 (2016-12-19 20:39) 

lequiche

>> えーちゃん様

削除されてしまうのはしかたがないですね。
でも、知らない曲を知りたいときなど
便利してます。
シロートのすげー下手なライヴが1番上にあったりして、
それはそれでまた面白いですし。(^^)
竹内まりやの下記動画なども初めて見ました。

September
https://www.youtube.com/watch?v=zzRX348RHT4
不思議なピーチパイ
https://www.youtube.com/watch?v=MYkxyqRshYA
by lequiche (2016-12-20 02:25) 

lequiche

>> 風来鶏様

そうなんですか。知りませんでした。
そういうきっかけって大切ですね。
才能だけでなくチャンスをうまく生かすことが必要ですし
そうすることもひとつの才能なんだと思います。(^^)
初期の頃の竹内まりやは、
上記のえーちゃんさんへのコメにリンクした曲などでは
無理矢理アイドルっぽくさせられていたようで、
フランソワーズ・アルディ的な印象を受けました。
by lequiche (2016-12-20 02:25) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

加藤和彦の名前が見えたので、失礼ながらコメントさせていただきます。

加藤和彦と大滝詠一といえば、70年代が生んだ日本ポップ史上、忘れてはならない人物だと思っています。

それは、日本語でロックなど不可能だと言われていた時代、それを実践したのは大滝詠一さんその楽曲の多くを手掛けていた”はっぴいえんど”というバンドでしたし、それを世界に発信したのは、日本のロックを自国のアイデンティを一杯に創り上げたサディスティック・ミカ・バンドの作品”黒船”だったと考えているからなのです。

そしてその後は、その湯水のように溢れ出る才能を持って日本のポップスを牽引していった。

しかし、晩年作品にはその瑞々しい人々を惹きつける先進性は既になく、それが、あの突然の死をもたらしたのでは思っています。

加藤和彦さんの残した歌、今もって多くの人が語ってくれる、彼とほぼ同世代の私にとっては、大変嬉しく思います。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-01-01 19:33) 

lequiche

>> 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) 様

詳しいコメントありがとうございます。
加藤和彦と大瀧詠一、どちらも重要な人ですね。
私は2人の日本語に対するアプローチの仕方は
全く正反対だったような印象を受けます。
松本隆の詞が日本的情緒を重視していたのに対して、
加藤和彦はむしろ音こそが重要であるような気がします。
それは大瀧の音が古いアメリカン・ポップスに
収斂されていったのに対し、
加藤の場合は非アメリカ的でヨーロッパ志向なイメージであり、
クリアで日本的情緒を排していた部分があると思います。
ただそれは多分に砂上楼閣的な不安定さがあり、
晩年はそうした志向が破綻してきて、
結果としてフォークソング的な 「あの素晴らしい愛…」
みたいなのが最も印象強く残ってしまっている、
ということなのではないか、というふうに捉えています。
ソロアルバムは、人口に膾炙しているわけではないですが、
彼の最もひたむきで暗い情熱みたいなのが感じられます。
by lequiche (2017-01-04 00:46) 

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