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Candy ― ナット・キング・コール [音楽]

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Nat King Cole (wikipediaより)

〈ハーバー・ライツ〉という曲がなぜか気になって検索していた。この前読んだ小西康陽の本の中に、ラジオ関東で〈ポート・ジョッキー〉というケン田島の担当していた音楽番組があって、そのオープニングがビリー・ヴォーンの〈ハーバー・ライツ〉だったとのことだが (p.213)、もちろんその番組を聞いたことはない。だが〈ハーバー・ライツ〉という言葉から醸し出されるその時代の感じはなんとなくわかってしまう。
私にとっての検索の動機は、単純にハーバー・ライツという言葉が存在していて、それは私の幻想の中にあるひとつのきっかけでありトリガーであったのだが、それは説明すると長くなるし、ごく私的な回想なので、そんなことはどうでもいい。というより調べているうちに当初の目的が失われてしまって自分が何を目的として探しているのかがわからなくなる。
Herbour Lights はヴィルヘルム・グロシュ (Wilhelm Grosz, 1894-1939) の作曲したスタンダード・ナンバーであるが、この曲はヴィルヘルム・グロシュという名前ではなく、ヒュー・ウィリアムズ (Hugh Williams) として書かれた曲である。ヒューという名前から連想するのは『星の時計のLiddell』であるが、ビックス・バイダーベックは夭折したコルネット奏者である。そしてウラジーミルは元KGBの大統領ではなくウラジーミル・ナボコフのことである (バイダーベックについてはすでに書いた→2012年08月16日ブログ)。

ヒュー・ウィリアムズの曲には他に〈夕陽に赤い帆〉があって、この曲もかなり知られているスタンダードである。彼はウィーンの音楽家でもともとはクラシックの人であったが、ナチスを避けてアメリカに渡り、ポピュラーソング、映画音楽などに携わった。だが詳しいことは知らない。
〈ハーバー・ライツ〉は1937年にフランセス・ラングフォードのために書かれた曲である。この気怠い雰囲気がたまらない。戦前のアメリカのポピュラーソングの典型であり、音楽が最も輝いていた時期の頃だったのだろうと思う。
ラングフォードのオリジナル録音は、伴奏楽器のためもあるのかハワイアンなテイストもあるし、気怠さが顕著である。それは私が望んでいたハーバー・ライツという語感から来る肌寒さと孤独なイメージとは異なるものだが、何も考えなくてよい愉悦のFM番組の音のようでもあり、過去に浸るのにはこうした曲に限るのかもしれない。

だが〈夕陽に赤い帆〉(Red Sails In The Sunset) を聴こうとしているうちにナット・キング・コールに行き当たった。私はあまり歌ものを聴かないので、彼のアルバムは《After Midnight》しか持っていなかったように思うが (他にもあったかもしれないが忘れてしまっている)、歌だけでなくピアノの明快なスウィング感が伝わってくるアルバムである。
YouTubeにある彼の歌唱による〈アンフォゲタブル〉〈ルート66〉のような、よく知られている曲のどれを聴いても全く破綻がなくて安心して聴くことのできる歌手である。
オリジナルのLP《After Midnight》には入っていなかった曲がCDになってから追加され、トータルの曲数が多くなってしまうというのがこのアルバムにも見られるが、〈キャンディ〉(Candy) があるのに気がついた。

〈キャンディ〉はアレックス・クラマーの書いた曲で1944年に出されたとwikiにある。早速、ナット・キング・コールの〈キャンディ〉を聴いてみたのだが、ジョニー・マーサー、ジョー・スタッフォード、ポール・ウェストン&ザ・パイドパイパーズによる〈キャンディ〉もあって、この違いが面白い。
山中千尋が初めてヴァーヴからリリースした《Outside by the Swing》という2005年のアルバムは、澤野工房のときよりもやや肩に力が入っているなというのが最初の印象だったが、このアルバムの最後に、オマケのように、お遊びのように入れたピアニカによる〈キャンディ〉があって、これがとても心がなごむ。以前、この最後のトラックばかり聴いていたことがあるが、おそらく山中千尋にとっては本望ではない。


Nat King Cole/
The Complete After Midnight Sessions (Poll Winners)
The Complete After Midnight Se




Frances Langford/Harbor Lights
https://www.youtube.com/watch?v=SLeXA0FapcM

Nat King Cole/Red Sails In The Sunset
https://www.youtube.com/watch?v=HLQZZoAkdig

Nat King Cole/Unforgettable
https://www.youtube.com/watch?v=JFyuOEovTOE

Nat King Cole/Route 66
https://www.youtube.com/watch?v=dCYApJtsyd0

Nat King Cole Show Feat JATP/I Want To Be Happy
https://www.youtube.com/watch?v=CUD0QiD00hY


Nat King Cole/Candy
https://www.youtube.com/watch?v=MiUzwUGh--U

Johnny Mercer, Jo Stafford, Paul Weston
& The Pied Pipers/Candy
https://www.youtube.com/watch?v=6j6t2zcdkw0

山中千尋/Candy
https://www.youtube.com/watch?v=6sEf139WeU8
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コメント 10

Boss365

こんにちは。
「キャンディ」の比較面白いですね。ナット・キング・コールの「キャンディ」が今は一番聴きやすく落ち着く感じです。ボーカルなくてもジャズの間の感覚や粒が揃った楽器音は心地よいです!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-07-01 15:39) 

JUNKO

この人の歌大好きでした。「煙が目に染みる」と言ったようなうたありませんでした?半世紀も前の話ですけど
by JUNKO (2019-07-01 15:57) 

末尾ルコ(アルベール)

わたしはですね、ナット・キング・コールよりも娘のナタリー・コールを先に知ったんです。
その理由はただ一つ、東京音楽祭に出演したんですね。
父親についてはまるで知りませんでしたし、ナタリー・コールもテレビへ出たから知ったくらいのものでしたが、何やら大物感は伝わってきました。
でもこの父娘の歌の真価はすぐには分かりませんでした。
東京音楽祭にはその後ケイト・ブッシュの出演もあったのですが、なにせわたしが最も愉しみにしたのがデビー・ブーンという体たらくです(笑)。

Frances Langford/Harbor Lightsは素敵な曲ですね。
この雰囲気には心地よさと同時に、少し悪魔的な感覚を受けます。
歌詞以外の多くが語られている気分になるのです。
このような曲想の歌が効果的に使われている映画などの影響もあります。

ロシア文化に興味を持っていたら、ウラジミールやスヴェトラーナという名前にはすぐ反応してしまいますね。
それとグルジア(ジョージア)だと「~シビリ」とか、ユーゴスラヴィア周辺だと「~ビッチ」とか、文学もそうですが、映画やテニスやバレエを観ているとお馴染みになります。
ロシアはもちろん、旧ソ連圏は文化的にも身体能力的にもポテンシャルが高いです。

「キャンディ」はFrances Langford/Harbor Lightsと比較すると、現在のポップスとの繋がりを感じます。

実はフランク・シナトラ、サミー・デイヴィス・ジュニア、ディーン・マーチンの3人のベスト盤(というほどではないのですが)的CDを持っていて、ちょいちょい聴いております。
特にサミー・デイヴィス・ジュニアの味が好みです。
当時の歌手たちは歌詞の発音がしっかりしていて、より歌詞世界をじっくり味わえる、物語を聴いている感覚になります。


・・・

『黒蜥蜴』は乱歩の原作も三島の戯曲も愛読しておりまして、美輪明宏主演の映画も観ております。
まあでも、美輪明宏は舞台向きですね。
舞台での存在感、台詞の熟練ぶりは圧倒的で、あまりに凄いので、「美輪明宏とその他」という感は否めませんでした。
美輪明宏の出てこない場面は眠くなることも少々でした。
でも観ることができてよかったです。
美輪明宏は歌もめちゃめちゃ好きで、しかしリサイタルなどへは行ったことありません。凄いらしいですけれど。

寺山修司はつまり、どのような枠からも食み出していく人だったのでしょうか。
あるいは最初から枠など関係ない才能であるとか。
今思いついたのですが、その多岐に渡る活動ぶりは、少しジャン・コクトーと共通しているのかなと。
見た目はまったく違いますが(笑)。

> 「いつも台本は未完です」 と言っています。

それはとてつもない才能であり、魅力ですよね~。
そした創作姿勢を誰もが認めてしまうというのが凄いです。
未完ということは、寺山作品は今でも動き、変化し続けているわけですからね。

レーザーディスクが大きくて重くてですねえ。
ある程度集まるとなかなかの存在感です。
レコード店スタッフに、「半永久的に観ることができますからねえ」とか言われて買ったのですが、(あれ?半永久って、こんなに短かったのかな)という感じ。
プレーヤーがあればまだ観られるのでしょうが、でもひょっとして数年後に凄く価値が出たりして(ないない 笑)。

> aikoはそう言っては失礼ですが、

ある意味彼女の作る歌に合った見た目のような感もありますね。
勝手にわたしの先入観だけで語っているような気もしてきましたが(笑)、あの歌でユーミンや椎名林檎のような外見だとフィットしないのではと。
井上陽水や吉田拓郎らも、作る歌に合ったルックスのような気がします。
吉田拓郎の見た目で、井上陽水の曲を歌ったら、けっこう変かもです。
などというのは戯言に過ぎませんでした。
お許しくださいませ。

> 気に入らない演奏があってもそれは頭の中で補完して曲そのものに近づくべきだと考えます。
> 作曲家のプロフィールについてもそんなものは基本的にはどうでもいいと思っています。

う~ん、なるほどです。
と書きながら、さほど理解できてないクラシック音楽劣等生がわたしですが(笑)、大きなヒントをいただいたので、しっかり心に留めて鑑賞していきます。

> 『時禱集』です。

わたしもリルケは『時禱集』が大好きです。
ちょっとこの世のものとは思えない世界を垣間見えさせてもらえるんです。
饒舌ではなくて、瞑想的で、しかもイメージは止めどなく広がる感覚です。
良質なSF小説を読んでいる気分にも少し似てます。
ドイツ語分からないので(笑)、日本語訳だけのお話しですが。

ノヴァーリスはご本人には悪いけれど、『青い花』を書くために生まれてきたような人だったのかもしれませんね。
『青い花』は文学史に残っていますが、本人が才気に満ちていたような印象は薄いです。

> 天候のニュースのほうが重要ですね。(-_-;)

本当にもう、日本のテレビは終わってます。
NHKニュースなんかはかつて避難場所のようなものだったのですが、こんところは民放のニュースにかなり近づいていて、もうテレビに逃げ場なしです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-07-02 07:22) 

ぼんぼちぼちぼち

音楽には詳しくないでやすが、ナットキングコールのキャンディ、なかなか好きな曲でやす。
パソコンにも取り込んでありやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-07-02 13:15) 

NO14Ruggerman

「夕陽に赤い帆」という曲とタイトルは知らなかったのですが
40年ほど前にハマっていたアーチスト<梅津和時>のバンドで
「夕陽に赤いカバ」なる曲があったのを思い出しました。
コミカルなフリージャズ系を奏でるバンドでしたがテクニックは
すごかったように感じました。
その不思議なタイトルの出所はここだったのですね。
40年ぶりにスッキリしました(笑)
by NO14Ruggerman (2019-07-02 23:54) 

lequiche

>> Boss365 様

たまたま幾つかあったので並べてみました。
おそらくジョニー・マーサーとザ・パイドパイパーズのが
オリジナルなんだと思います。ちょっとネットリしてますが。
スタンダードっていろいろな解釈ができるから
面白いです。
ナット・キング・コールのはどんな曲を聴いても
一番上手いように聞こえてしまいます。
by lequiche (2019-07-03 01:59) 

lequiche

>> JUNKO 様

そうですか。
Smoke Gets In Your Eyesはこれですね。
ガートルード・ニーセンがオリジナルですが、
このキング・コールの歌唱は素晴らしいです。

https://www.youtube.com/watch?v=gKgEJbJb1jw

by lequiche (2019-07-03 02:00) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ナタリー・コールはやはり 「血」 だな、と思ってしまいます。
父親のDNAを濃厚に受け継いでいます。
最も有名なデュエットの動画があります。
これはもう、ただひとこと、すごいです。

https://www.youtube.com/watch?v=MKCyUe4syc4

デビー・ブーンもパット・ブーンの娘ですから、
似ている境遇とは言えますが。

ビリー・ヴォーンのような
いわゆるムードミュージックというか
イージーリスニング系のオーケストラって、
以前は何かダルイなあと思ってバカにしていたんですけれど、
そうじゃないんですよね~。
ポール・モーリアとかフランク・チャックスフィールドとか
ヘンリー・マンシーニとかリチャード・クレイダーマンとか
幾らでも出て来ますけど、傾向はそれぞれ異なりますし
それなりの需要があったはずです。
クラシックから派生した通俗オペラみたいなのがあって、
でももっと音楽だけで純粋に気持ちのいいサウンド
というところから出て来たものだと思うのですが。

ロシアとその周辺国 (以前はソ連邦の一部だった) は
やはり奥が深いですし、それぞれに優れた文化があると思います。
今のロシアでなく、ソ連でもなく、その前のロシアが
最もすぐれていたことは確かです。

Candyは1944年ですが、同じ戦前でも
1937年の Harbour Lights と較べると音が新しいですし、
戦後に書かれた Unforgettable (1951) になると
より洗練されてきます。
そしてこのへんがまさにアメリカの黄金時代という気がします。
Unforgettable を書いたのはアーヴィング・ゴードンですが
キンゴ・コールのこの曲のオーケストレーションは
ネルソン・リドルで、彼の果たした役割は非常に大きいです。
フランク・シナトラといえばネルソン・リドルです。
サミー・デイヴィスもキング・コールも
歌詞がきれいに発音されていて美しいです。
歌とはこういうものなんですよね。

美輪明宏はナマで見る機会がまだ無いです。
なんとかしないといけないです。(^^)
コクトー的なマルチな感じも寺山にはあると思います。
また、少女詩集的な通俗と揶揄された方面も得意でしたし、
現実にそういう寺山監修ものがかなり売れたのだそうです。
ボクシングとか競馬などにも深い興味を持っていました。
興味の方向性が捉えにくいですが、でもよくわかります。

寺山の台本は未完でしたが、それは彼が生きている間だけです。
その後に台本をなぞってもそれは寺山ではないのです。
そこがシェークスピアと寺山の最も違うところです。
寺山死去後、天井桟敷は解散しました。
それでいいと思うのです。
寺山は彼の死とともの消滅し、遺産はないのです。
けれどだからといって寺山の戯曲を再現しようとする努力は
否定しません。それはまた別の視点を持った作品なのです。

レーザーディスクは
私もヱヴァンゲリオンの全揃いを持っているんですけど、
値打ち出ないですよね~。
読めない謎の石碑みたいなものです。(笑)

aikoは確かに歌詞とルックスに共通性があると思います。
でもユーミンの歌詞は意外に満たされない人の心象とか
やや違和感というか歌詞との齟齬がありますけど、
でもゴージャスだけでは歌になりませんから。

クラシック音楽というのは基本的には楽譜が全てです。
それが原典ですから。
でもそれを演奏者が音にしてくれるので、
簡単に具体音として聴けるのはありがたいと思うのです。
でも演奏者は楽譜をパラフレーズしているだけで、
つまり書籍でいえば解説者であったり評論家であったりで、
いやそれは言いすぎで、つまり作者の代行者なのですが、
作者本人ではないのです。

ああ、SF小説ですか。それは面白い見方ですね。
詩の言葉が並べられているというより紡ぎ出されている
というような印象が時禱集にはあると思います。
ひとつひとつの単語はシンプルなのにもかかわらず、
それらがマスになったときにあらわれる表層の美です。

TVは全部がCMだと思えばそんなに腹もたたないです。
ニュースといえば大坂なおみはコーチを変えなければよかった
とすでに喧しいですね。(^^)
by lequiche (2019-07-03 02:01) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼち様

いや、詳しくないことはないでしょう?
ジュリーとか。
タイガースはヒューマン・ルネッサンスというアルバムを
聴いたことがありますがあれはいいですね。
ビートルズでいえばアビイ・ロードみたいな感じで
それぞれ勝手にやってるという雰囲気もややありますが。

キャンディというタイトル曲は幾つもあって、
最初に原田真二が出て来たりするんですよね~。
シブいところだとリー・モーガンのアルバムタイトルとしても
有名ですが。
でもまぁ、オーソドクスにはナット・キング・コールだと
私は思います。(^^)
by lequiche (2019-07-03 02:01) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

生活向上委員会、略して性行為、ちがった~
生向委の梅津さんですね。(^^;)
忌野清志郎のサポートをずっとやっていましたね。
でもその曲は知りませんでした。
生向委ではなかったかもしれませんが、
何度かフリーの演奏は聴いたことがあります。
テクニックはもちろん、すごいです。
by lequiche (2019-07-03 02:04) 

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