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林哲司 melody collection [音楽]

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林哲司 (towerrecordsサイトより)

昔住んでいた町の公営プールはもう随分と古くて、50mプールの横にある階段状の観客席はざらざらとした年代もののコンクリート造りで、でもとても料金が安かったから人気があった。だがそれも9月になった途端、急に人が減って、がらんとしたプールはかすかな寂寥感で満たされ、中旬頃には終わりになってしまう。その、夏が去って行くという季節の変わり目の悲しみのような空が好きだった。
プールには歌謡曲が流れていて、その頃よくかけられていた曲が竹内まりやの〈SEPTEMBER〉だった。他にどんな曲が流れていたのかは忘れてしまっているのに〈SEPTEMBER〉だけはよく覚えている。だからこの曲を聴くと、プールの水のにおいの記憶が蘇ってくる。

林哲司の〈melody collection〉というCDがソニーミュージック、VAP、ポニーキャニオンの3社からリリースされていて、林哲司の作品がそれぞれに収められている。スリーブは同じデザインで統一され、文字が色違いになっている。
林哲司は歌謡曲・J-popの作品をたくさん書いていて、竹内まりやの〈SEPTEMBER〉も彼の作曲である。

曲名をひろってみると、まずソニーミュージック盤では上田正樹/悲しい色やね、中森明菜/北ウイング、杏里/悲しみがとまらない、原田知世/天国にいちばん近い島、そしてもちろん竹内まりや/SEPTEMBERなど。
VAP盤では主に杉山清貴&オメガトライブと菊池桃子の諸作。
そしてポニーキャニオン盤では松原みき/真夜中のドアをメインとする彼女の諸作と岩崎良美の曲が比較的多く選曲されている。

松原みきの〈真夜中のドア〉が2020年に世界的に突如ブレイクし、有名曲になってしまったことはすでにニュースなどで繰り返し話題になっていたと思うが、この〈真夜中のドア〉と並んで海外でそしてネットで話題となりブレイクしたのが竹内まりやの〈プラスティック・ラヴ〉である。
日本のいわゆるシティ・ポップと形容される作品への注目度が高まり再評価ということになったのだとのことだが、それにしてもなぜこの曲が? という謎は残るけれど、音楽のヒットというのは概してそんなものなのだと思える。

林哲司という名前を意識したのは、実は倉橋ルイ子に書いた〈December 24〉という曲で、タイトル通りにクリスマス・イヴの歌なのだが悲しい歌である。
倉橋ルイ子には《バラードをカバンにつめて》という45rpmの12インチ盤レコードがあり、これは4人の編曲者が競作している計4枚のアルバムなのだが、残念ながら資料がなくてよくわからない。〈December 24〉は林哲司プロデュースのアルバム《Never Fall In Love》で、タイトル曲〈Never Fall In Love〉や〈December 24〉が収録されている。
それぞれのアルバムから数曲ずつチョイスした《バラードをカバンにつめて》というCDがあって、だから12インチ4枚分全部ではないのが残念なのだが、このCDのみ持っている。隠れた名盤である。オリジナルの編曲より、この12インチ《バラードをカバンにつめて》4枚の編曲のほうがゴージャスで聴き応えがあるように感じる。

クリスマスが近づくにつれてFMでは今年はなぜかテイラー・スウィフトの〈ラスト・クリスマス〉がよく流れていたように思う。でもこの曲の彼女はちょっと歌唱が強くて、オリジナルのワム!のほうがいいかな、と聴きながら思っていた。


林 哲司 melody collection 1977−2015 (ポニーキャニオン)
林 哲司 melody collection 1977-2015(特典なし)




林 哲司 melody collection 1979−2020 (ソニーミュージック)
https://tower.jp/item/5205599/
林 哲司 melody collection 1983−1994 (VAP)
https://tower.jp/item/5205785/
(ソニーミュージック盤とVAP盤はタワーレコード限定)

松原みき meets 林哲司 (ポニーキャニオン)
松原みき meets 林哲司(特典なし)




竹内まりや/SEPTEMBER
作詞:松本隆 作曲:林哲司
https://www.youtube.com/watch?v=xAYjkGhAUsI

松原みき/真夜中のドア~Stay With Me
作詞:三浦徳子 作曲:林哲司
https://www.youtube.com/watch?v=4Q4JRVW5BFE

倉橋ルイ子/December 24
作詞:竜真知子 作曲:林哲司
https://www.youtube.com/watch?v=EEKrnlQvb-A

竹内まりや/Plastic Love
作詞・作曲:竹内まりや
https://www.youtube.com/watch?v=ibd1_Td3ygw

Taylor Swift/Last Christmas
https://www.youtube.com/watch?v=20Y0dMGqlWk
nice!(63)  コメント(10) 
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コメント 10

ゆうのすけ

=☆ MERRY CHRISTMAS !! ☆=
林哲司さんの作品を聴くきっかけになったのは
私も「SEPTEMBER」竹内まりや が 初めてだった記憶です。
直後に「真夜中のドア~stay with me」松原みき がリリースされて なんだかすごく都会っぽい(ここ数年話題になってるCITY POPS)感じでかっこいい!って思っていた中学生でした。
80年代に入ると 中森明菜 杉山清貴&オメガトライブ 杏里・・・等 林さんのクレジットをいろんなところで見かけるようになり 当時オムニバスのカセットを作って聴いてましたね。^^
「キャシーの噂」大橋純子 も大好きな一曲。そんな林哲司さんの初期作品には 山本リンダも!「港のソウル」という作品なんですが 「どうにもとまらない」など派手なイメージとは うらはらに今聴くと とてもセクシーな大人っぽい感じの THE 歌謡曲的な面白い作品もあるんですよ!^^
今年は例年以上に忙しないクリスマスの時期になっちゃったんですが ふとスーパーで買い物をしていたら 80'sのクリスマスソングが流れてました。洋邦混じっての選曲のようでしたが なんだかとても懐かしく 一瞬キラキラとしたツリーの点滅するランプを感じながら (まだ成人前に)背伸びして友達と集まってパーティをしたころが過りました。「ラストクリスマス」・・・あの頃バブルに向かう絶頂期でしたね。私はご縁なかったけれど。^^;☆彡
by ゆうのすけ (2021-12-25 05:13) 

coco030705

A Merry Christmas To You!

林哲司さんは知らなかったのですが、たくさん名曲を作っておられるのですね。いい曲だなと思って聞いていた曲が多いです。
竹内まりやのSEPTEMBERとPlastic Love、まさにシティ・ポップですね。倉橋ルイ子/December 24もとても歌が上手い人だなと思います。
「Last Christmas」、テイラー・スウィフト版は明るくて若くて、怖いものなしな感じがします。映像がとても素敵。
ジョージ・マイケルのは、声自体がすごく魅力的で好きです。かのフレディ・マーキュリーが彼の歌を絶賛してたとのこと。これも私の記事に入れたかったのですが、映像があまりよくないので、別のにしました。
いい音楽を聴かせていただき、ありがとうございました。
by coco030705 (2021-12-25 19:03) 

末尾ルコ(アルベール)

わたしも公営プールへ行っていた時代もあったなあと思い出しました。なにせわたし、高校卒業後は一切泳いでないという。海川はおろか、プールさえも行ったことないです。(何だろうなあ)と思わなくもないけれど、そういうのに縁のない人生なんでしょうね。決して家に籠っているのが好きなのではなく、外出は好きで毎日必ずやりますが、海へ行っても詩的に眺めるだけという、そう、ランボー的に(笑)。
「流れている歌謡曲」と言えば、わたしはすぐラーメン屋さんを連想します。かつての歌謡曲は洋楽と比較すると、言葉は悪いけれどどうしてもスカスカ感が強くって、逆に歌謡曲が耳に入るとどこにいてもラーメン屋感が沸き上がるのでした。
で、林哲司ですね。わたしお記事拝読しながら恐るべき事実を思い出しましたよ(笑)。そう、わたしかつて一瞬菊池桃子のファンだったのです。だから、「林哲司=菊池桃子」という恐るべき公式が、ずっとわたしの中に存在しておりました。あらためてチェックすると菊池桃子、初期は林哲司と秋元康のコンビで売っていたのですね。「卒業」という曲は、斉藤由貴の「卒業」よりもいい曲かなあと思います。


>オリジナルのワム!

ワム!は日本で知られるようになった頃、高橋幸宏が推してましたね。逆にピーター・バラカンは「聴いちゃいられないんですよ!」と悲痛な(笑)叫びを上げてました。まあバラカンがワム!好きじゃおかしいですよね。
テイラー・スウィフトの最近の楽曲はいいですね。沁みます。世界的にはアデルが異常に売れてますが、アデルの歌はお好きではないでしょうか。



短歌・俳句に興味を持つ若い人が多くなっているという状況は嬉しいことですね。音楽に目を向ければ、YOASOBIがこれだけの人気を博するという現象がある。文化芸術に関しては劣化が激しいと日本の現状を見ているのですが、必ずしもそうでない要素も新たに育っているのでしょうか。

水声者のホセ・ドノソのページ拝見しましたが、いやあ凄いですね、ルイス・ブニュエルの推薦文。「狂暴な雰囲気、執拗きわまりない反復、作中人物の変身、純粋にシュルレアリスム的な物語構造、不合理な観念連合、限りなく自由な想像力、美醜の原則の侮辱的な無視」ですもんね~。シビれます。いずれ購入します!

by 末尾ルコ(アルベール) (2021-12-25 20:25) 

lequiche

>> ゆうのすけ様

コメントありがとうございます。
実は今、シティ・ポップの本を読んでいるのですが、
その中に林哲司のことも書いてあって、
ちょうど3種類の melody collection を買ったばかりで
とても興味を持ちました。
もちろん作曲としての興味もありますが、
最近は編曲がその当時の歌謡曲の出来をかなり左右する
と思うようになって、林哲司や萩田光雄の業績を辿っています。
林哲司さんの仕事の幅はとても広くて多作ですね。

私はゆうのすけさんのようにはJ-popも歌謡曲も知らないので
〈真夜中のドア〉もなんとなく聴いた記憶があるという程度で
こうしたシティ・ポップといわれる音楽の変遷と歴史に
今、ハマッているところです。

〈キャシーの噂〉も〈港のソウル〉も知りませんでした。
初めて聴きましたが、ちょっとイナタい感じもありますけど (笑)
その当時だとこういうのがカッコよかったのだと思います。
編曲としてはブラスの派手な扱いかたなどに特徴がありますね。
山本リンダの曲はシングル裏面も同じ作詞作曲ですが、
やや感じが違うのは声域の設定が異なるのではないかと感じました。
わざとこうやって歌わせていつもと違うニュアンスを出そうとした
というように思えます。

テイラー・スウィフトはCDをほとんど全部買ってしまって
ざっと聴いたのですが、歌はうまいんですけれど
ちょっと違うなという部分もあって
そのへんがなぜなのか、まだうまく表現できないでいます。
それはビリー・アイリッシュなんかも同じです。
むしろたとえば昔のカーペンターズなどのほうが
歌の深みとしては上のように思えてしまうのです。
by lequiche (2021-12-26 04:21) 

lequiche

>> coco030705 様

クリスマスは過ぎてしまいましたがありがとうございます。
このところ、筒美京平がとても評価されていますが、
もちろん筒美京平はビッグネームなんですけれど
でも他にも良い作曲家がいっぱいいるよなあと思っているので
とりあえず林哲司、というわけなのです。

山下達郎−竹内まりやというのはまさにシティ・ポップの
王道を行くという感じですね。
ただ、竹内まりやはデビューの頃は自作を認められなくて
与えられた曲を歌わなくてはならないというなかに
林哲司の曲もあったのでしょうが、
それはフラストレーションとして今も残っているようです。

テイラー・スウィフトは怖い物なし、って確かにそうですね。
でもやはりデビューの頃はいろいろと制約があって、
最近になって昔のアルバムを歌い直して再録音しているのは
やはり昔の待遇に不満があったのだと思います。
好きなようにやらせてもらえなかったということです。

倉橋ルイ子はとても才能のある歌手なのですが、
事務所やレコード会社に恵まれなかったのか、
ブレイクがほとんどなかったのが惜しいと思います。
CDはほとんどが廃盤で入手しにくいのです。
最も有名な曲は〈ガラスのYesterday〉という曲です。
画質も音質も最悪なのですが
このライヴ映像の音のほうがレコードよりも良いので。
https://www.youtube.com/watch?v=r7eqt0kQGF4

間奏のサックスはジェイク・H・コンセプションという人で
J-popのサックスならこの人です。
by lequiche (2021-12-26 04:22) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

歌謡曲=ラーメン屋ですか。
あぁなるほど。そういう印象があるんですね。
私はラーメン屋にほとんど入らないので
そのイメージがわからないのですが、
そういう俗な感じというのはあるのではないかと納得できます。

菊池桃子は秋元康/林哲司だったのですか!
それは知りませんでした。
ブログ本文に 「菊地桃子の諸作」 などと書きましたが
それは単にデータを見て書いているだけなので、
まして秋元康という名前が出てくるとは驚きです。
すみませんが菊池桃子の歌というのはほとんど知りません。
〈もう逢えないかもしれない〉という曲のサビだけは
聞き覚えがありますが、これは作詞が康珍化ですね。

アデルはよく知りません。
近作の〈Easy On Me〉を聴いてみましたが、
メロディラインは良いかもしれませんが、
声質があまり好きではないです。
歌手は顔が良いとか音痴か否かではなくて、
まず声が好きかどうかですので。

短詩がウケているというのはマスコミ的評価で
本当にそうなのかどうかは私もよくわからないのです。
そして俵万智というエピック・メイキングな歌人がいて、
その影響というのはいまだにあると思いますが
私はどちらかというとその路線には興味がないので。(笑)
川野芽生は文語ですし、もちろん旧仮名ですから——
といっても別に伝統的書法かどうかではなくて
あくまでスタイルの問題です。
描き出す世界が、昔の言葉を使って言うのなら
「四畳半」 的な生活を連想させるようなのは
面白いと思わないのです。

ドノソは『夜のみだらな鳥』これ1作、
とも言えてしまうのが残念な点ですが、
ラテンアメリカ文学が紹介される端緒となった
国書刊行会のシリーズの頃よりは
ラテンアメリカ文学に対して正当で冷静な評価が
与えられるようになって来たように思います。
是非お読みください。
by lequiche (2021-12-26 04:23) 

coco030705

倉橋ルイ子さんの〈ガラスのYesterday〉とてもよかったです。
間奏のサックスも最高ですね。
こんな才能のある人の曲がヒットしないということもあるのが
芸能界でしょうか。惜しいですね。
by coco030705 (2021-12-26 21:14) 

lequiche

>> coco030705 様

お聴きいただきありがとうございます。
才能のある人が必ずしも認められるわけではない
というのは音楽業界に限らずよくあることです。
あえていえば 「時の運」 があるかどうかです。
不条理なのかもしれないですが。

山下達郎はライヴのとき、必ず〈クリスマス・イブ〉を歌います。
このコンサートが最初で最後の人がいるかもしれない、
(なぜならチケットをとるのは至難の業だから)
だからマンネリと言われても必ず歌うのだそうです。
ライヴにおける〈クリスマス・イブ〉は
大げさかもしれないですが
この世のものではない曲のように聞こえます。
空から何か降ってくるような錯覚がありますね。
by lequiche (2021-12-27 00:53) 

英ちゃん

林哲司さんは、名前だけしか知りません(^_^;)
結構いろんな作曲をしてるんだね。
by 英ちゃん (2021-12-27 14:56) 

lequiche

>> 英ちゃん様

日本の音楽業界のなかではビッグネームです。
〈真夜中のドア〉の再ブレイクによって
名前が少しは知られるようになってきたのは
当然ですが喜ぶべきことです。
by lequiche (2021-12-28 05:37)