Diggy-MO’〈PTOLEMY〉 [音楽]

Diggy-MO’ (音楽ナタリーより)
Diggy-MO’ [ディギーモー] はSOUL’d OUTのメインMCだったが、2008年からソロとしても活動。2014年にSOUL’d OUTが解散してからは4枚のオリジナルアルバムとリミックス、ベスト各1枚のアルバムをリリースしている。
他の動画を探しているときに〈PTOLEMY〉[トレミー] のPVを見つけた。4thアルバム《BEWITCHED》に収録されているメインの曲である。SOUL’d OUTが解散してからDiggy-MO’をあまり熱心に追わなくなってしまっていたので初めて観たのだが、そのリズムのキレの俊敏さに、そしてメロディラインの繰り返すシンプルさに引き込まれて行く。わざとヴァリエーションを作らないような書法に禁欲的な美学がある。
ただそれよりもこのPVのロケ地は横浜市南区にある大原隧道だと思うのが、すぐに連想したのはglobeの〈Many Classic Moments〉のPVである。globeのアルバム《Lights》に収録されているリード・チューンであるが、globeの作品のなかで私が最も偏愛している曲である。そしてkeikoが延々と歩く隧道のPVが出口なし的なイメージを想起させて印象的だった。
もちろん〈Many Classic Moments〉と〈PTOLEMY〉のリズムパターンは違うが、ドッドッドッドッという一定のパターンで刻まれてゆくいわゆるトランスの呪術性は同じで、そこから醸し出される抒情も同じテイストを感じさせる。
それでいて〈PTOLEMY〉は最後に突然リズムが止まり、わざとかすかにノイジィで複雑なアルペジオのシークェンスパターンだけのエンディングが置かれている構成にDiggy-MO’の凄みを感じる。
そしてDiggy-MO’がglobeと大きく違うのは〈PTOLEMY〉のヒップホップ特有の歌詞の聞き取りにくさで、むしろ歌詞の発する音はインストゥルメンタルのひとつでありエフェクトであり、逆説的に言えば聞き取りにくくないといけないのかもしれないが、各単語間の伸び縮みのフレキシブルな動きが美しい。
歌詞の冒頭だけ書き写すと、
hey, 吐露したりしてて オレらまだ角
稲妻まとって spit i’m a trouble 野郎
yellow fellow, mellow 仕立て上げろ
タフじゃなきゃな bro. 生き抜いた fool who ?
かつて私はHALCARIの記事のときなど、SOUL’d OUTの代表曲のひとつである〈TOKYO通信〉のことを 「これ演歌だよね〜」 と言っても誰も賛同してくれなかったと書いたものだが、その考えかたは今もそんなに変わっていない (HALCALIの記事は→2015年06月27日ブログ)。
「演歌」 という表現はバカにしていたわけではもちろん無くて、むしろ東京という都市を先進的で優位性のある場所としてとらえるのでなく、ローカルな地域性のなかに並列されているアイコンのひとつに過ぎないと見ている硬質な視点がDiggy-MO’に存在するからである。
R-指定がTVなどに露出し始めた頃の小さな衝撃は今でも忘れられないが、そのR-指定はDiggy-MO’を聞いたのがラップへのきっかけになったとリスペクトしている。その部分がつながっただけで、やや満足だったと言わなければならない。
Diggy-MO’/BEWITCHED (SPACE SHOWER MUSIC)

Diggy-MO’/PTOLEMY (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=CLNCgzB0vJM
globe/Many Classic Moments
https://www.youtube.com/watch?v=APcOZvx82B0
SOUL’d OUT/TOKYO通信 ~Urbs Communication~
https://www.youtube.com/watch?v=SO51jyCs3PA
SOUL’d OUT/TOKYO通信 ~Urbs Communication~ (CDTV)
https://www.youtube.com/watch?v=juZkTXeuqfk
2021-12-28 04:45
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コメント(8)
私見ですが、ヒップホップは断片的な言葉の羅列とリズムが良いのだと思っており、意味など考えたことはありません。それでも十分楽しめます。
lequicheさんにとって来年が良い年でありますように。
by U3 (2021-12-28 10:52)
Diggy-MO’/PTOLEMY、視聴させていただきました。ハードなカッコよさがありますね。日本のメジャーシーンのヒップホップとはかなり異質に感じます。あ、でもDiggy-MO’もメジャーな方なのでしょうか。ヒップホップやラップについてはたまに聴くくらいで、追ってまでというのが今までになかったので詳しいことは分かりません。
かつて友人のフランス人が来日して間もない時に日本のヒップホップを初めて聴いて、「えらく優しいヒップホップだな」と笑いながら言ってましたが、彼にとってヒップホップは「怒りを叩きつける」イメージだったようです。フランスでもヒップホップは盛んで、激烈に社会に対する声を上げているものが多いようですね。
Diggy-MO’の歌詞ですが、「分かりにくい」と言うよりも、まったく分かりませんでした。聴き慣れたらもっと分かるのでしょうが、(ぜんぶ英語かな)と思ったくらいです。一部英語は聴き取れましたけど。でも「トランスの呪術性」というのはいいですね。音楽はもちろん、詩歌の大きな魅力は呪術性だと思います。
テレビでR指定やKREVAの話をちょっと前に聴いたのですが、彼らは本堂にライミングに心血を注いでますね。彼らが思う優れた歌詞を例にとり、「これだけライミングを駆使しているのは凄い」と、そんな話になります。どっちだったか忘れましたが、「これだけのライミングを生み出すのは本当に苦しい」とか、非常に理解できる話ではありました。あとわたしはある時期からほとんど聴かなくなったんですが、桑田佳祐の凄さについても強く語られます。わたしは佐野元春のライミングなんかも印象的です。
「演歌」というのはこの場合、わたしはDiggy-MOを含めてヒップホップをさほど聴いてないのでlequiche様のおっしゃる意味を理解したとは言い難いですが、「演歌的」というのは日本のポピュラーミュージックの多くの要素に感じます。でもそういう意味での「演歌」ではないのですよね。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2021-12-28 20:15)
今年も、お世話になりました。
来年も、よろしくお願いします。
良いお年をお迎え下さい。
by 英ちゃん (2021-12-29 01:55)
今年1年訪問・nice! 有難う御座いました。来年もよいお年をお迎えください!
by tomi_tomi (2021-12-30 13:07)
>> U3 様
コメントありがとうございます。
声もエフェクトと考えればその通りですね。
表現にはいろいろな種類があってよいと思います。
by lequiche (2021-12-30 21:43)
>> 末尾ルコ(アルベール)様
特にSOUL’d OUTの時代はかなりメロディックな傾向があります。
それをとらえてダサイとかいう評価も見られました。
ただ、表現というのは多様ですから
どんなかたちであっても最終結果がよければ
それでよいと私は思うのです。
怒りを叩きつけるのだけがヒップホップではありません。
それは逆に思考回路が固いといっていいと思います。
この曲の場合、エフェクトで加工してありますので、
わざとわかりにくくなっていることは確かです。
意味性よりも韻であり、それはオートマティズムに通じます。
もっともDiggy-MO’の書き方は自動記述とは対極であり
なによりリズムに乗らせるための音が揃っていなければなりません。
そして歌詞は必ずしも起承転結であるわけではありません。
桑田佳祐は歌詞を本来の位置でないところで切りますが、
それは必ずしも57577で切らない現代短歌で
すでに実践されていることです。
〈TOKYO通信〉に関しては、
一見、ヒップホップの体裁を保っていながら、
実はその底に地方から東京に出てきた人の悲哀のような
意外に卑俗な印象を感じさせる部分があるのです。
そうした悲しみを代弁しているように私には聞こえます。
Diggy-MO’にも桑田佳祐にも複雑に屈折している部分がありながら
実は 「浪花節」 なテイストも垣間見えるのです。
それにDiggy-MO’はサザンからの影響を受けていると言っています。
ガチガチの教条的ヒップホップ原理主義者が
そのようなものを敏感に感じ取って
SOUL’d OUTをダサいと言ったのではないかと推理します。
by lequiche (2021-12-30 21:45)
>> 英ちゃん様
コメントありがとうございます。
そして1年間、お疲れさまでした。(^^)
by lequiche (2021-12-30 21:46)
> tomi_tomi 様
コメントありがとうございます。
色鉛筆画、いつも楽しみに拝見させていただいております。
by lequiche (2021-12-30 21:46)