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山下達郎《SOFTLY》つづき [音楽]

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6月26日の記事:山下達郎《SOFTLY》のつづきです。

山下達郎とクリス松村の対談がYouTubeにあったのを聴いた。
6月26日の夜に《関ジャム》で放送された山下達郎特集も音楽制作の実際が聴けて面白かったが (特にジャニーズ関係のことなど)、あちこちでプロモーションしているので話のダブリもあり、だいたい聴くべきことはもう聴いてしまったという感じだったのだが、クリス松村との会話はとてもフレンドリーでその話芸ということに限っても楽しめた。

クリス松村は歌謡曲も含めてJ-popにとても造詣が深くて、あたりの柔らかさもあって安心して聴いていられる。ヤマザキマリのジャケット画についてのことなどはすでに他の番組で知っていたからよいとして、心に残ったのは、若い人に向けて作ったという曲〈人力飛行機〉に関して山下が語った夢についての話だった。

「夢」 ということが必ず言われる。
「夢を持って壁を乗り越えて」 とか 「夢は必ずかなう」 とか、そうした言葉が語られるが、夢が完璧にかなえられることはほとんどない、と山下は言う。
どんなジャンルにおいても、自分の夢をかなえられる人というのはごく一握りであり、ほとんどの夢はかなえられない。夢はかなえられないのだという現実の苦悩と蹉跌の中で折り合いをつけて自分の道を選んでいかなければならないのだが、では夢がかなえられなかったときどうするか、という教育が日本にはない。挫折した人間をどのようにリカヴァーするかという方法論がない。だから精神的なダメージとかが起こる。
結局、夢はかなえられないものなのだという現実をつきつけられるのだが、だからといってシニシズムやニヒリズムに陥ってはいけない。10代から20代の頃は、少なくとも理想ではなくて、展望とか戦略を持たないと世の中に出て行かれない。〈人力飛行機〉とはそういう歌なのだという (語られた言葉そのままではなく適度にアレンジしてあります)。

そうは言っても山下達郎は夢をそれなりにかなえることのできた、ごく限られた人のひとりなのだが、試行錯誤しながら決してあきらめないという方向性において彼はポジティヴであり、それが音楽の明るさとなってあらわれているのだと感じる。
夢がたぶんひとつもかなわなかった人間にとって、その明るさはとても遠い光に見えてしまうのかもしれないが、それゆえにその明るさは限りなくいとおしいものに思えるのだ。


山下達郎/SOFTLY (ワーナーミュージック・ジャパン)
SOFTLY (初回限定盤) (特典なし)




山下達郎/OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)
https://www.youtube.com/watch?v=dku620p9O3g

木村拓哉/MOJO DRIVE
作詞:真島昌利、作曲:山下達郎
https://www.youtube.com/watch?v=OfOxycXmP4Q

山下達郎vsクリス松村の音楽談義
https://www.youtube.com/watch?v=NCl20olQuVA
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末尾ルコ(アルベール)

このように人生や人間性の本質に関わるお話はいいですね。日本社会っていつしかこういう話題、避けるようになりましたからね。「暗い」とか「青い」とか言う連中が大多数を占めるようになって。
このような「本質」に関する話題が希薄だから、どのようなことに関しても皮相的で、いわば「本質から外れてしまう」という状況がずっと続いているのだと思います。

「夢」に関して言えば、大問題なので短くお話するのは難しいですが、「夢は必ずかなう」とか「止まない雨はない」とか「明けない夜はない」とかの紋切り型決まり文句をあたかも真実のように流通させるのはいただけません。もう流通してますが(笑)。
だって気象的には普通「止まない雨はない」かもしれないけれど(わたし詳しくないので知りませんが)、人生の比喩としては「止まない雨」、普通にいっぱいありますよね。
まして「夢は必ずかなう」とか、完璧なトンデモフレーズです。正確には「夢はかなわないことの方がずっと多いが、かなう場合もあるので、精一杯努力はしてみるべきだ。かなわなくても他に道はいくらでもあるから、あらかじめいろんな可能性を調べておくべきだ」とかだと思います。

・・・

>翻訳者の技倆が作用するように思います。

堀口大學の訳と最近の新訳では全然違いますもんね(笑)。
ボードレールやヴェルレーヌらはどうにか原文でもそこそこ分かるのですが、ランボーはやはり難しい。
それはさて置き、こうしたフランスの詩人、中原中也や小林秀雄など、日本文学史上のビッグネームが訳を試みている。いかに崇拝されていたかがよく分かります。

>声に出して唱えてみる

これ本当にいいですよね。最近特に(できるだけやろう)と頑張ってます。ワイルドの『サロメ』は原文のフランス語、分かりやすいのですが、それでいて極めて美しい。
そして今、母と『サロメ』の日本語訳を一緒に音読しています(笑)。あの台詞、気持ちいいし、音読は脳のためにもとてもいいと専門家も言ってました。

優れた詩を外国語に正確に翻訳するのは不可能なのでしょうが、それでも足掻いて挑戦する人間の営みが大好きです。

>それで読んだ気に

なんですよね。
昨今「映画の早送り視聴」も若い人らを中心に普通に行われているようで、しかもその大きな動機が、(てっとり早く話題についていきたい)というもの。
この動機自体が、きつい言葉を使えば「卑しい」ですよね。
この件に関してはわたし大いに問題視してます。「今はこんな風潮だから」では片付けたくないです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-07-11 08:38) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

「夢は必ずかなう」 みたいな表現は
確かに紋切り型の決まり文句ですが、
でもその後のトークで、山下達郎は子どもの頃
『格言の花束』という格言集の本を愛読していたとのことで、
格言ってある意味、決まり文句の羅列ですから
このへんはやや矛盾してるなぁとも思うんですが
まぁそんなもんです。

でも 「夢は必ずかなう」 といった言葉は
ごく無責任に発せられる言葉でしかなくて、
一種の慣用句ですから、そのように言われたほうも
それを真に受けることはないのではないか、
と思うのです。
つまり 「夢は必ずかなう」 というのは
単なるリップサーヴィスか、あるいはまやかしであって
その言葉に何の真摯な共感も存在していない
と私は思います。

上記本文で
「夢がたぶんひとつもかなわなかった人間にとって」
と書いたのは婉曲表現であって、直裁に書くのなら
「夢がたぶんひとつもかなわなかった私にとって」
という意味であることはおわかりになると思います。
金の砂は掌からこぼれ落ちてあとには何も残らない ——
人生とはそんなものです。
とりあえず私にとっての人生とはそんなものでした。

外国語詩の翻訳に関しては
昔の訳は一種の意訳というか超訳に近くて、
無理矢理に日本的情緒を盛り込んで訳していたりですが、
当時はそうした方法論が普通だったわけで
ある程度は仕方がないことなのかもしれません。
上田敏や日夏耿之介など、まさにその典型です。
逆にいえば翻訳という名を借りた自己の文学的表現
というふうに考えたほうがよいです。

映画の早送り視聴ですか。
それはすごいです。
でも流行の話題についていきたいというのは
昔からあることで、その程度で話題に加われるのなら
そもそもの話題となる素材がそれほどのものではないのでは、
とも思います。

音楽では最近、サブスクの考え方として
視聴する曲が1曲単位になってしまって
アルバムの曲構成という考え方は崩壊していきつつあります。
それどころか最近のリスナーは
曲の中でのギターソロを飛ばして聴くのだそうです。
ほんの3分くらいの曲の、歌と歌の間に入る
数秒から数十秒のギターソロが
鬱陶しいんだそうです。
こうした短絡的・刹那的な音楽嗜好は
どんな話題も140文字以内で完結してしまうような
ツイッターの興隆と関係があると私は思います。
by lequiche (2022-07-12 02:44) 

coco030705

こんばんは。
「弾圧のブルース」いいですね。淡々と歌っているのに、こんなに悲しい曲はないなと思いました。人間は愚かですね。

by coco030705 (2022-07-13 22:25) 

lequiche

>> coco030705 様

この曲は一種のプロパガンダとも解釈できるのですが
山下達郎自身は政治的な発言はしたくないし、
音楽にそのような力はないと言っています。
ただ結果として、昨今の世界的な不穏な情勢に対しての
何らかの提議になっているように聞こえます。
淡々と歌うことでかえって凄みを感じますね。
by lequiche (2022-07-14 04:31)