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宮本笑里《classique deux》 [音楽]

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宮本笑里 (ツイッター2022.07.24より)

ライト・クラシックという言葉がある。セミ・クラシックという表現もあるが、いわゆるクラシック音楽というジャンルの中で比較的聴きやすくて大衆的な、もっといえばやや通俗な音楽のことをさすことが多いようだ。つまりクラシック音楽を聴くぞ、というような大上段の構えでなく、ごく気軽なイージーリスニング的な音楽のことである。

ガチガチのクラシック音楽至上主義者から、そうした音楽は格下だと見られやすいのかもしれないが、実際にはそうした軽い、といって語弊があるのなら軽快で優しげな音楽には、実は需要が多いように思われる。
例をあげれば葉加瀬太郎とか高嶋ちさ子などの演奏がまさにそうである。ポピュラー音楽にストリングスが必要な場合、最近ではそれをシンセサイザーで作りこんでしまうことも多いが、生音とシンセサイザー音ではまだ違いがあるように思える。

ところでヴァイオリニストがCDアルバムをリリースする場合、ピアニストなどよりも、わかりやすい楽曲を並べた小曲集的な選曲のアルバムが必ずといってよいほど 「オキマリ」 として出されることが多い。つまり〈愛の喜び〉とか〈ロンド・カプリチオーソ〉とか、そして鉄板の〈ツィゴイネルワイゼン〉とか。
〈ツィゴイネルワイゼン〉さえ入れておけば売れるだろうという浅はかなレコード会社の思惑はすでに時代遅れなのではないかと思うのだが、かなり有名なヴァイオリニストでもこれをやらされてしまうのは一定の需要があるからなのだろう。
そしてその時代遅れという危惧からの流れで生成されたのがライト・クラシックとかイージーリスニングへの流れであるような気もする。ポピュラー音楽や特にアニメなどの音楽を編曲して耳なじみのよい音にして収録する試みである。必ずしも正統的なクラシック曲でなくてもよいのでは、というコンセプトなのだ。

ピアノのおけいこにしても、今の子どもたちは昔からの練習曲では興味を示さないので、ポピュラー音楽の編曲などが幅をきかせつつあるとのことである。ブルグミューラーよりジブリなのである。

宮本笑里の新しいアルバム《classique deux》は演奏活動15周年とのことだが、タイトルを反映したクラシック寄りの選曲とはいえ、ライト・クラシックな曲目で揃えられている。定番のバッハ《G線上のアリア》からホルスト、ファリャまで。そしてピアソラ、ゲーゼなどのポピュラー系を混在させているまさにイージーリスニングな内容だ。
宮本笑里はオーボエ奏者として高名な宮本文昭の娘であるが、初期の頃は典型的なライト・クラシックなグループで活動していた。当時はちょっとエキセントリックな女子十二楽坊などが流行していて、そうした市場の傾向に影響されて結成されたのかもしれないが、ほどなく学業に専念するとのことで脱退してしまう。wikiによればソロになってからの経歴にはそのグループに在籍していたことは記載されていないと指摘されているが、その頃の動画を観ると、あぁそうだろうなあとは思う。
その後、紆余曲折があったのだろうか、のだめオーケストラに参加したりもしたが、ソロとして活動を始めたとのこと。そして15年が流れたのである。

今回のアルバムからファリャの《スペイン舞曲第1番》の動画がオフィシャルで公開されているが、前に前に進もうとするリズム感が心地よい。ぐるぐる回る撮影方法がやや鬱陶しいがソニーらしいつくりとも思えて、最近元気なソニー系のJ-popと共通した勢いが感じられる。
それと歌手とのコラボで弾くオブリガート的な演奏がとても上手であり、まさに至福の音色である。

     *

24日の夜、NHK2でティーレマン/ウィーン・フィルによるサグラダ・ファミリアにおけるライヴ・コンサートが放送された。2020年9月18日に収録された演奏とのこと。ブルックナーの第4番は緻密なリズムとディナミークがおそろしいほどで、特に第2楽章の美しさは比類がない。サグラダ・ファミリアの内部構造もよくわかって楽しめた。


宮本笑里/classique deux (SMR)
classique deux (初回生産限定盤 BSCD2+BD スリーブケース) (特典なし)




宮本笑里/ファリャ:スペイン舞曲第1番
https://www.youtube.com/watch?v=mMDOOCU-zmc

宮本笑里 with 平原綾香/大島ミチル:風笛~Love Letter~
https://www.youtube.com/watch?v=uzP2UX8nszI

宮本文昭ファイナル・コンサート
宮本文昭、宮本笑里&鳥山雄司/蒼の香り
https://www.youtube.com/watch?v=6lKWoA4dbjA
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末尾ルコ(アルベール)

いわゆるライト・クラシックはですね、実は避けて通ってました。なので今回のお記事、またしてもわたしの偏った考えを正していただけた感があります。
プロ、アマチュアに限らずクラシック系の演奏会に顔を出した時、たとえばJ POPの曲なんぞが入っていると、(チッ!)と舌打ちをしておりました。心が狭かったです。今じゃJ POPも聴きまくってますが、これもlequiche様のお記事の影響極めた大です。
あと、クラシックに関しては、「美形演奏者」という分野(?)に近いものが厳として存在しているような気がいたしましって、わたしまんまとそれに乗って、村治佳織、あるいはフルートの高木綾子、そしてあろうことかヒラリー・ハーンも最初は容姿に惹かれてのCD購入でございました。
宮本笑里は逆に、あまりにアイドル的な顔立ちと、ニュース番組へレギュラーで出るといったスタンスが好きではなく、まさに今日この日まで避けておりましたが、そう、このお記事によってまさに今日この日から新たな気持ちで彼女の演奏を注目していきます!

・・・

以前いただいたコメントに関してですが、

>超訳に近くて

ホントですね。上田敏や日夏耿之介、そして堀口大學など、(一体何考えてんだ?)と笑いたくなることしばしばです。でも新訳もいろいろ持ってますが、旧訳も読みたくなってしまいます、いまだに。だから彼らの目論見(笑)は成功しているのかもしれません。

>ギターソロを飛ばして聴く

これって、デレク・トラックスとか全部飛ばされますね(笑)。
ずべての早送りがダメとはいいませんが、わたしも映画の観どころや曲のサビだけ鑑賞したくなる時ありますが、でもそれはその作品を十分鑑賞し尽くしているからこその所業であって、まともな鑑賞歴のない人間が早送りで「鑑賞済み」と勘違いしてしまうのは許し難い冒涜だと考えてます。

演劇については鑑賞機会が極めて少なく、そして「ステージ」と言えばバレエ公演のみとなったので今に至るまで数えるほどしか演劇公演観たことないです。ただ、「政治先行」の演劇とその雰囲気は分かるような気がします。
それで思い出したのですが、亡父、そして母も日教組に属しておりまして、父の方はそこそこ熱心に組合活動してたのですが、母は政治に丸っきり疎くて、つまり「時代の趨勢」により成り行きで組合員となってたんです。
で、日教組系の「退職した女性教員」のグループのようなものがあって、今は新型コロナの影響でまったく参加してませんが、母退院当初は歌の会や忘年会、新年会などに同行したんです。で、皆さんお優しいのですけれど、どうしたって宴会のところどころに「自民党打倒!」「教え子を戦場へ送るな!」が入ってしまい、締めはもちろん「自民党打倒!」「教え子を戦場へ送るな!」と…宴会なのにそこまで強調しなくてもと思うけれど、元日教組の皆様の多くはこれこそがアイデンティティなのだろうなあと、そう感じたものです。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-07-25 08:08) 

coco030705

宮本笑里さんの演奏、すばらしいなと思いました。映像もよかったです。宮本さんが魅力的に見えました。演奏が軽やかで速いので、聴いていて楽しいです。
NHK2でティーレマン/ウィーン・フィルのサグラダ・ファミリアコンサート観ました。サグラダ・ファミリアの内部が本当にすばらしく、音楽とマッチしていましたね。サグラダ・ファミリア、旅行に行けるようになったら、ぜひ再訪したいです。

by coco030705 (2022-07-25 21:24) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

葉加瀬太郎は 「自分の演奏を聴いてそれがクラシック音楽に
興味を持つきっかけになってもらえればよい」
と言っていますが、そういう精神性が根本にあるように思います。
もちろん実際にはポピュラーなヴァイオリンのほうが
金銭的にはずっと潤うのだとは思いますが。
そして金儲けのことしか考えていないような
崩れたミュージシャンだっているのかもしれません。
ともかく正統的クラシック音楽演奏だけで生活のできる演奏者は
ごく限られています。
オーケストラでベートーヴェンを弾いているより
ポップスのバックでチャラいのを弾いていた方が
たぶんお金にはなるはずなんです。
これは経済原理であり需要と供給の関係です。
需要が多ければギャラは高くなるはずですから。

美形演奏者ですか。
そういうのも全然ありだと思います。
アイドル歌手のファンはまさにその典型ですし。
カティア・ブニアティシヴィリのセクシーさに惹かれて
クラシックに目覚めた人がいても、それもありかな、と。
もっともブニアティシヴィリも
ヴァイオリニストのリサ・バティアシュヴィリも
ジョージア出身でロシアとプーチンが嫌いで
ヴァレリー・ゲルギエフというプーチン寄りの
ロシアの指揮者を拒否しているようです。
骨があるなぁと思います。

宮本笑里は確かにアイドルっぽいですが
ブログ本文には書きませんでしたけれど
その初期の頃の女性クラシックグループが
TV出演している動画がYouTubeにあるんですが、
もうひどいもので、私の見た感じではいやいや弾いていて
こういうのやりたくなかったんだろうな、と感じました。
グループの中でも疎外されているように見えました。
今も、彼女が本当に弾きたい曲を弾いているのか否か
というのはよくわかりません。
でも初期の頃よりはだいぶ改善されたのだろうと思います。
そして演奏力も上がっているように見えます。
リンクしたファリャはその中でもかなり良いです。
前に前に行くヴァイオリニストで典型的なのは
アリーナ・イブラギモヴァですが
彼女に似た印象を持ってしまいました。

ギターソロを聴かないで飛ばすということに関しては
先日のタモリ倶楽部に出演したReiが
そのことをチラッとぼやいていました。
Reiちゃん、カッコイイです。

Rei/COCOA
https://www.youtube.com/watch?v=ShVhdek2FLA

日教組、何か久しぶりに聞いた名称のような気がします。
もしいまでも相変わらずそうなのだったら
少し感慨深いですね。(笑)
演劇に関してはある時期、かなり多くの劇団を観ていました。
ほとんどは大きな有名劇団ではなくて小さな劇団です。
そのことについて書きたいのですが、
メモでもいいので記録しておけばよかったのに
全くそれがなく、記憶も薄れて書くことができないでいます。
そのうち書くかもしれません。
by lequiche (2022-07-26 05:17) 

lequiche

>> coco030705 様

このファリャも有名曲といえば有名曲なんですが
疾走感がよく出ていて優れた演奏だと思います。
平原綾香さんとコラボした上記リンクの〈風笛〉も
実はレコーディング時の動画があるのですが
こちらのほうが雰囲気がよく伝わって来るかもしれません。

宮本笑里 featuring 平原綾香/メイキング風笛
https://www.youtube.com/watch?v=fkvJyoLG7yk

サグラダ・ファミリア再訪、ということは
すでに一度行かれているんですね?
それはうらやましいです。
この日のティーレマンはすごかったと思います。
ネットで検索すると彼の指揮に対する悪評って
かなりあるのですが
とりあえずこの日のライヴに関しては
おそろしく美しいブルックナーでした。
曲が終わってコンマスのアルベナ・ダナイローヴァと
大げさに抱き合ったりはせず、
地味に演奏をたたえ合っていましたが
とても満足だったのではないかと思いました。
by lequiche (2022-07-26 05:18) 

coco030705

こんばんは。
「宮本笑里 featuring 平原綾香/メイキング風笛」を聴かせていただきました。すばらしいコラボですね。綾香さんの歌の魅力はもちろんのこと、宮本絵里さんの演奏の滑らかさ、美しさがよくわかりました。才能あふれるお二人にこれからももっと、いろんな曲でコラボしていただきたいものです。ありがとうございました。
by coco030705 (2022-07-26 22:33) 

lequiche

>> coco030705 様

YouTubeをご覧いただきありがとうございます。
ヴァイオリンなどの弦楽器は奏者によって
著しく音色が変わりますが宮本笑里さんは美音ですね。
ヴォーカルを引き立てる演奏だと感じます。
今回のアルバムも基本的なイージーリスニング選曲ですが
ファリャはやや踏み込んでいるような気がします。
もう少し本格的な曲を演奏してみたら、とも思います。
by lequiche (2022-07-29 13:50)