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最近の音楽書など [本]

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最近買った音楽関係の本の話題を少しだけ。まだ読んでいたり読んでもいなかったりなのですが。

長谷川友『プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代』
先行書として『プリンス:サイン・オブ・ザ・タイムズのすべて』があるのですが、まだ購入していません。《The Gold Experience》(1995) はいわゆる 「かつてプリンスと呼ばれた……」 などとも表記された 「読めない記号」 だった頃のアルバム。
実はこの時期のプリンスは何となく買いにくかったので買っていませんでした。本来のプリンスに戻った頃になって、また聴いてみようかなと思ったのが《Musicology》(2004) あたりからなのでその間サボっていたのです。殿下、申し訳ございません。で、《The Gold Experience》今年になってソニーミュージック (輸入盤はLegacy Recordings) から再発されましたが、いわゆる通常盤で、例の大部のセットが出るのかどうかはよくわかりません。
本の内容はすごいといってよいと思います。プリンスの類書は数多く出ていますがその中ではダントツではないでしょうか。

小柳カヲル『クラウトロック大全 増補改訂版』
クラウトロックとはドイツのロックのことですが、ザワークラウト (酢漬けキャベツ) から発生した言葉で、もともとは蔑んだ表現だったらしいのですがそれを自虐的に使うようになったのだそうです。それらのアルバムの紹介本といってよいです。こうしたリストは意外に便利なときがあるので出たらば一応買っておくというのが習慣になっていますが、う〜ん……という場合もときどきあります。
ロックと銘打っていますが単純なロック・ミュージックだけでなく、もう少し幅広いジャンルを扱っていて、そうした全体像がクラウトロックなのだという定義らしいです。都市ごとの分類というポリシーがちょっと面白いのですが、きっちりと別れているわけでなく、目次がやや不明確でよくわかりません。全体は大きく2つに別れていて、Kapital 1: KrautrockとKapital 2: Neue Deutsche Welleとなっていますが、Kapital 1はカン、クラフトワーク、ファウストというふうに展開していて、まぁ順当。しかしKapital 2はつまり比較的新しい系のアルバムらしくて、全然知らないものばかりです。
幅広い例のひとつとしてホルガー・シューカイの項にデヴィッド・シルヴィアンとの《Plight & Premonition》(1988) もありますが、後述の『AMBIENT definitive』にもシューカイのリストがあって《La Luna》(2000) が選択されています。
著者は序文でクラウトロックは物理的メディアで聴いて欲しい、つまりジャケットデザインや装幀まで含めてが作品の全体像であるからとのことですが全く同意です。

三田格・監修『AMBIENT definitive 増補改訂版』
この本も上記と同じPヴァインからの出版。そして増補改訂版なのも同様です。2冊ともリストとしてのデータがやや弱い感じはしますが、ジャケットであたりをつけるのにはとても便利。やはり視覚の印象は重要です。
こちらも幾つかの章に別れて、各章ごとにクロニクルに並べられていますが、分類としてはややわかりにくいかと思える部分もあるのですけれど、でも仕方がないでしょう。たとえばクロノス・クァルテットと高橋アキによるモートン・フェルドマン《Piano & String Quartet》(1993) が入っているのは良いとして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの《Loveless》(1991) もあって、マイブラってアンビエントだったのかぁという感慨もあり。
それと比較的多くの日本人ミュージシャンが扱われています。細野晴臣のアンビエントに対して 「YMOで疲れ切ったんでしょう」 と書いてあって笑います。

原塁『武満徹のピアノ音楽』
武満のピアノ作品に特化した内容ですが、図版として楽譜がかなり掲載されていて、ちょっと専門的過ぎてまだ読んでいないといっていいです。ただ、ところどころ拾い読みした段階で面白い箇所がたくさんあります。
武満はかなりの量の文章も書いていますが、音楽作品とそれに対応する文章というのがクセモノで、必ずしもそれをそのまま鵜呑みにできないというか、言葉は悪いですがだまされないようにしないといけません。

稲岡邦彌『ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary』
リスト本を掲げたついでに、少し古い本ですがECMのリスト本を。ECMを聴くのがお好きなリスナーには必携のリストです。でもどんどん増えていくので、そのうちまた増補増補改訂版が出るんだろうな、とは思いますが。


長谷川友/プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代
(シンコーミュージック)
プリンス:ゴールド・エクスペリエンスの時代




小柳カヲル/クラウトロック大全 増補改訂版
(Pヴァイン)
クラウトロック大全 増補改訂版 (ele-king books)




三田格・監修/AMBIENT definitive 増補改訂版
(Pヴァイン)
AMBIENT definitive 増補改訂版 (ele-king books)




原塁/武満徹のピアノ音楽 (叢書ビブリオムジカ)
(アルテスパブリッシング)
武満徹のピアノ音楽 (叢書ビブリオムジカ)




稲岡邦彌/ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary
(東京キララ社)
ECM catalog 増補改訂版/50th Anniversary




Prince/Gold (Official Music Video)
https://www.youtube.com/watch?v=7IQE62Vn4_U
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末尾ルコ(アルベール)

素晴らしいですね。これらの書籍、大きな販売部数が見込めるわけではないかとおもいますが、こうして出版されている。そしてこうしてしっかりとご購入しておられる。lequiche様の芸術、そして出版文化に対するリスペクトがひしひしと伝わってきます。このような実行が大切なのですよね。
それぞれの書籍のテーマについて明るいわけではないわたしですので細かな言及などできませんが、長谷川友という方のツイッターを見てみましたけれど、フォロワーもさほど多くない。こうした方が地道に研究されてこのような凄い本を出しているのですね。それだけでも勇気が湧いてきます。
プリンスに関してはまだ聴いてないアルバムも少なからずありますので、これからの愉しみとしていきます。
ドイツのロックはそう言えばほとんど聴いてないです。クラフトワークも齧るくらいでしたし、アルバムを買ったのが二ナ・ハーゲン。当時伊藤政則が「ステージはゲテモノだった」と言ってました。ドイツはしかし、おもしろい音楽いろいろありそうですね。

・・・

>彼女が亡くなって以後、加藤も終わってしまったのです。

考えさせられます。
人間の幸福・不幸を一概に決めつけてはいけませんが、そこまでの相手と巡り合い愛し合った、そこまで愛され、そこまで愛された人生は、安井かずみの死によってあらゆるものが激変してしまったのでしょうが、とてつもなく幸福な人生だった可能性もあるという気が。加藤和彦の自死という結末を迎えたお二人の愛に対して不謹慎かもしれませんが。
それにしても「最高の愛」を失った後の人生というのは、「不幸」という言葉だけではとても表現できないものなのだと思います。
あるいは、生きるためにはモチベーションがどうしても必要で、身近な言葉で言えば、「大きな生きがい」ですね、これはもちろんお金でどうこうできるものではなく、人生はそれを見つけ、ともに生き抜けるかという戦いでもあるという思いを強くしました。


>必ずしもクォリティの低いものが 「悪」 とも言えません。

確かに。そしてわたしいつも思ってるのですが、そして多くの人にとっては難しい要求なのでしょうが、「クォリティの低いものはクォリティの低いものと理解した上でたのしんでほしい」ということ。そうであれば何ら問題ないのですが、「クォリティの低いものをクォリティが高い」と思い込んでいる人が多く、しかもその感想をネットで書き込める世の中なのが問題を大きくしています。

>これは単なるマイルールですので

そういうご姿勢が、きっとお書きになるものに気品を生んでいるのでしょうね。             RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-08-07 08:45) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

いえいえ、そんなに素晴らしくはないです。
1冊で記事にできるほど読み込んでいないので相乗りで。(^^;)
リスト本はつまり目録なのですが、
目録って結構好きで本の場合、文庫目録などを読みながら、
ああこれ、まだ読んでない本だ、買ってみようかなぁ、
みたいに使うのに有効です。
資料として買ったり、期待外れだったりする本もありますから
ここのブログで取り上げるのはごく一部です。

CD/レコードはジャケットデザインが重要です。
ジャケットの絵柄でその音楽を記憶していることも多いですし、
もしサブスク全盛になって曲名だけの検索になったら
記憶と連携しなくなってしまうので私には無理ですね。

プリンスはかなり深入りしてしまっているので
あまり有名でないものまで取り上げてしまいますが、
一般的には有名アルバムを何枚か聴けばよいと思います。
ですが、よく 「何聴いても皆同じに聞こえる」
という表現をするかたがいらっしゃいますが、
それはまさにその通りです。
深く聴かなければバッハだってベートーヴェンだって
ビーチボーイズだってPerfumeだって
同じような曲に聞こえるものです。
でもそれは逆に、自分の耳がプアである
と公言しているのに等しいので、どうなのかなぁ、
とは思いますが。(笑)
自分が好きで興味のある人の音楽は区別できる、
自分が嫌いで興味がない音楽は皆同じに聞こえる、
というだけのことです。
これは簡単な心理であり、真理なのですが
意外にわかっていない人が多いです。

ドイツのロックはクラフトワークとか、
あと、タンジェリン・ドリームとか、
比較的こむずかしい系が発祥のようにも思えますが
現在はかなりのヴァリエーションがあるようです。

加藤和彦が死を選んだのがどういう理由だったのかは
実際には誰にもわかりません。
でもたぶんそうなのかなぁと憶測することはできます。
安井かずみにしても加藤和彦にしても、
ああいう人たちは鼻持ちならないみたいに批判する人も
きっといるのだろうと思いますが、
それは先に書いたように 「興味の無い音楽はつまらない」
という心理に他ならないのです。
ずばり書いてしまえば
「「興味の無い音楽はつまらない」 と思っている人はつまらない」
のです。
音楽の良否はテクニックや楽曲構造ではなくて
ごく些細な機微をどう感じ取れるかどうか、です。
それはクォリティに関しての話とも連動しますが、
必ずしもいわゆる高尚な音楽こそがクォリティが高い
とは言い切れません。
バッハがわからない人は何聴いてもきっと同じに聞こえます。
でもその人はJ-popには詳しくて
一瞬、声を聴いただけで誰だか聞きわけられたりします。
これはクォリティというよりその人のテリトリーなんですね。
自分のテリトリーの中のことならよくわかる。
でもとなりの領地のことはよくわからない。
これは仕方がないことなのです。
ネットにトンデモな意見を書き込んでも
必要な人はそれを読んだり共感したりするでしょうし、
でも必要でない人は読まない。それだけのことです。
クォリティが高いか低いかは何もネットに限らず、
たとえば市販されている本にだって同様に言えます。
最終的には自分の判断力なので、
その判断力を鍛えるために他人の評論や批評を読みますが
それに流されることはないです。

こいつ、たいしたことないな、と思っている
結構有名な評論家がいるのですが、
批判的な目で読んでいるといろいろアラが見えて面白いです。
私、性格悪いですね。(^^;)
by lequiche (2022-08-09 04:03)