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ビョーク《fossora》など [音楽]

bjork_fossora_221009.jpg
björk/fossora

ビョークの久しぶりのアルバム《fossora》なのだが、私は《Biophilia》まではコンスタントに聴いていたにもかかわらず、その後少し遠ざかってしまっていた。聴いていてちょっとしんどいという印象があったのかもしれない。
今回の《fossora》は5年ぶりのアルバムとのことだが、リリースの停滞にはおそらく疫禍の影響もあったのだろう。

YouTubeでは現在、ニューアルバムの〈atopos〉と〈ovule〉のPVを観ることができる。重奏するバス・クラリネットの重さに釣り合うようなパフォーマンスの禍々しさに魅入ってしまう。バスクラは冥府からのプルートーの声でありエリック・ドルフィーでもあり、《Bitches Brew》のベニー・マウピンをも連想させる。
CDはデジパックで国内盤もインターナショナル盤も形態としてはほぼ同じ。CDとともにLPも発売されているが、ブラック・ヴィニル以外に、バーガンティ、ライム、シルヴァーと4色展開でヴィニルがあり、〈ovule〉のPVはまさにバーガンディの色彩を連想させる (バーガンディとはブルゴーニュの英語読み)。

クリスチャン・ツィメルマンのDGGからの新譜は《Karol Szymanowski: Piano Works》で、プレリュード、マズルカなどの独奏曲。ピアノの譜面台に置かれたシマノフスキの肖像写真とツーショットのツィメルマンというジャケット・デザインは画にインパクトがある。
シマノフスキはポーランドの高名な作曲家だが、ツィメルマンの選曲は作品番号1の〈9つのプレリュード〉(Dziewięć preludiów) から4曲、〈20のマズルカ〉(Dwadzieścia mazurków) op.50から4曲、そして〈Masques〉(Maski) op.34と〈Variations on a Polish Folk Theme〉(Wariacje na polski temat ludowy) op.10という構成で、この時期にシマノフスキを弾くのは、直裁ではないけれどある種のメッセージ性が感じられる。

他にツィメルマンが弾いたシマノフスキは、1980年に録音され1981年にリリースされたカヤ・ダンチョフスカとのフランク《ヴァイオリン・ソナタ》のアルバムにシマノフスキの〈Myrthes〉op.30などが収録されている。
このフランクは知らなかったのだがYouTubeで聴いてみると、流麗なヴァイオリンに対してツィメルマンのピアノはときに不穏な響きがあり、こういう解釈もあるのだと思わせられる。

これらのディスク以外ではキアロスクーロ・クァルテットの瑞典BIS盤のハイドンを3枚買ったがまだ聴いていない。それより以前の初期の盤は軒並み廃盤になってしまっているようだ。


björk/fossora (One Little Independent)
fossora




Kristian Zimerman/Karol Szymanowski: Piano Works
(Universal Music)
シマノフスキ:ピアノ作品集 (UHQCD/MQA)




björk/atopos
https://www.youtube.com/watch?v=9FD2mUonh5s&t=36s

björk/ovule
https://www.youtube.com/watch?v=cPr_D-b5v2Q&t=2s

Krystian Zimerman/Szymanowski: 9 Preludes, op.1,
No.1 in B minor. Andante ma non troppo
https://www.youtube.com/watch?v=pxNzIwUSwYo

Kaja Danczowska, Krystian Zimerman/
Franck: Sonata for Violin and Piano in A
https://www.youtube.com/watch?v=tcA-zUeABOI&list=OLAK5uy_mvbrfSIYSkPl__aX_gkGRlTqVjjwGUSbs&index=1

     *

〔参考〕
ビョークのライヴの変遷

Björk/Venus as a Boy
(The Beat, UK TV 1993)
https://www.youtube.com/watch?v=iSNz1BYANnM

Björk/Generous Palmstroke
(live: Royal Opera House, 2001)
このロイヤル・オペラ・ハウスの映像は美しく
ビョークのライヴのひとつの到達点といえます。
今、YouTubeにはコンサートのフル動画もあります。
https://www.youtube.com/watch?v=EDrq-nCb6kY

Björk/Bachelorette
(live: Paris, 2008)
https://www.youtube.com/watch?v=-gHWSesy7v8

Björk/Declare Independence
(live: Paris, 2008)
ビョークの最も過激な部分が典型的に表出している曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=jOP1C0nepLs
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コメント 8

末尾ルコ(アルベール)

わたしもビョーク、最近忘れてました(笑)。同じくファーストアルバムからずっと聴いてきてるんですが。でも今回の「atopos」と「ovule」、視聴させていただきましたが、やはりいいですね。そして「禍々しさ」。音楽もそして映像も存分に禍々しい。この禍々しさこそわたしがあらゆる芸術に求める大きな要素でして、今の日本の希薄な要素であるのだと再確認いたしました。
Krystian Zimermanは「ツィメルマン」という発音がポーランド語に近いのでしょうか。「ジマーマン」じゃないのは明らかですが、外国人名のカタカナ表記は難しいですね。現在女子テニス世界No1はポーランド人のイガ・シフィオンテクですが、こう書きます「Iga Świątek」。ポーランド語ぜんぜん分からないので当然ですが、(ええっ?)という発音ですよね。

>ある種のメッセージ性が感じられる。

音楽家の人たちは少なからず大事なメッセージを表明しているんですね。現代に生きる芸術と社会の関係を考えさせられます。


実はわたしもピンチョン、読もう読もうと思いつつ、まだです(笑)。

『アルファヴィル』はずっと前に観たきりですので、ぜひまた鑑賞したいです。ずっと前の印象は、おもしろく観たけれど、(ん?なにこれ?)という感じは強かったです。
それにしても『気狂いピエロ』と同年でしたか。ゴダール死去に際してのまさに世界各国のメディアの取り上げようは、(これぞ世界のスーパースター!)という印象で、比較してはならないですが、大谷某なんぞという「大きく報道されているのは日本だけ」のインチキな状況とは本質的に違うスケールの大きさを感じました。
また、ゴダール作品の印象として語られるワードとして、「難しいけどお洒落」というのがありまして、「お洒落」といっても流行の波などまったく問題にしない、映画史、美術史、文学史などあらゆる芸術から湧き出て来た「真のお洒落」(←ちょっとどうかというフレーズですが 笑)がそこに存在しているのかなと、朧気に考えたものです。           RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-10-09 08:44) 

coco030705

アルバムのジャケット写真でしょうか。とってもきれいですね。
ビョークはあまり聴いたことがありません。これを機にYouTubeで聴いてみようかなと思います。
by coco030705 (2022-10-09 17:13) 

kome

1枚目のdebutが好きです。
歌が重たい人なので、ダンサブルな曲くらいがちょうどいいかなと。
どのアルバムか知らないですけれど、プロデューサーがAB synthというソフトシンセを使っているというのをsound & recordingで読んで、目のつけどころがいいじゃないのと思いました。
by kome (2022-10-09 18:44) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

たとえばアルゼンチン・タンゴを例にとると
ピアソラはキツ過ぎてダメ、という意見もあるんです。
もう少しソフトで心やすまるほうがいい、と。
もちろんそう言わざるをえないように
心も身体も疲れているときもありますが、
私にとってはそうだとしてもピアソラなのです。
なぜなら音楽性が全然違いますから。
ピアソラに置き換われる人はいません。
ビョークも同様です。彼女に置き換われる人はいません。

ツィメルマンはたまたまタワーレコードで
その表記になっているだけで、いろいろな表記があります。
分かればいいので、表記が混在していても構わないと思います。

しかし某国は周辺の国々に
片っ端からストレスをかけているわけで、
ジャイアン以下のセンスなんだろうなと思います。
残念ながら音楽やバレエなどの文化も
衰退して行くでしょう。
某国はやがて亡国になるのに違いありません。

《アルファヴィル》という作品は、
レミー・コーションが主人公のハードボイルドであり、
同時にディストピアSFでもあるのですが、
このストーリーの骨格は、すごく変形していますが
《ブレードランナー》ではないかと私は思います。
アンナ・カリーナのとても美しいショットがあります。

新聞には蓮實先生のゴダール追悼記事がありましたが、
ジョン・フォード論に続いてゴダール論も
是非、蓮實先生に書いていただきたいです。
by lequiche (2022-10-10 00:21) 

lequiche

>> coco030705 様

はい、その通りで画像はアルバム・ジャケットです。
この画像ではわからないんですが、
下に幾つもある物体のクッキリ感というのがすごくて、
何か特殊な方法をとっているのでしょうが
わかりません。とても美しいジャケットですね。

ビョークは好き嫌いがはっきり分かれますが
日本ではともかく、世界的にはビッグネームのひとりです。
ただ、komeさんもコメントで書かれていますが
年を追う毎にだんだんと過激になっていきますので、
いきなり最新アルバムの動画をご覧になると
これってどう? と感じられるかもしれませんので、
初期の頃の作品のほうがわかりやすいです。

幾つかのサンプルを年代順にリンクしました。
ブログ本文の最後にも同内容のリンクを追加しました。

Björk/Venus as a Boy
(The Beat, UK TV 1993)
https://www.youtube.com/watch?v=iSNz1BYANnM

Björk/Generous Palmstroke
(live: Royal Opera House, 2001)
このロイヤル・オペラ・ハウスの映像は美しく
ビョークのライヴのひとつの到達点といえます。
今、YouTubeにはコンサートのフル動画もあります。
https://www.youtube.com/watch?v=EDrq-nCb6kY

Björk/Bachelorette
(live: Paris, 2008)
https://www.youtube.com/watch?v=-gHWSesy7v8

Björk/Declare Independence
(live: Paris, 2008)
ビョークの最も過激な部分が典型的に表出している曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=jOP1C0nepLs
by lequiche (2022-10-10 00:44) 

lequiche

>> kome 様

やはり初期のアルバムのほうがシンプルで聴きやすい
と言ってもよいと思います。
次第に過激にアヴァンギャルドになっていきますから。
アブシンスというシンセについてはよく知りませんが
プリセットを聴いてみると、なかなか面白い音がありますね。
by lequiche (2022-10-10 01:10) 

TaekoLovesParis

ビヨーク、すっかり忘れてました。一時はCDを続けて買って毎日、聴いていて、アイスランドが身近になって、映画「Dancer in the Dark」も見たのですが。。ボリュームある声が独特でしたね。
しかし、冒頭の写真は、誰?って感じで、変貌ぶりにびっくり。
次第にアヴァンギャルドに、、、ついていけない気持ちです。
by TaekoLovesParis (2022-10-15 00:27) 

lequiche

>> TaekoLovesParis 様

私も同様で、ずっと聴いていた時期があります。
ただ最近は曲の重さにしんどくなっていたことも事実です。
ところがこの前、たまにいく古書店に入ったら
ビョークが流れていたのでちょっとびっくり。
あ、いいなぁと感じました。

このニューアルバムはジャケットがカッコよくて
ジャケ買いしてしまいました。
ovuleのPVでビョークが着ているドレスは
アレッサンドロ・ミケーレ (グッチ) のデザインです。

このようなアヴァンギャルドさ全開は
ビョークだからできるので、
他の人がやったらきっとボツでしょうね。(笑)
by lequiche (2022-10-15 22:12)