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オーチャードホールの小坂忠 [音楽]

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小坂忠

『レコード・コレクターズ』のCITY POP BEST 100という増刊号があって、思わず買ってしまった。でもこのところ、シティポップ、シティポップと姦しくて、そもそもここまでもシティポップなの? という現象も起きてきて、少し食傷気味である。
この増刊号は評論家の先生がたがポイントを付けてこれが第何位とかやっているのだが、ベスト曲がどれかとランク付けすると、どうしてもありきたりになってしまって、それは仕方のないことなのかもしれない。それはどうでもいいとして、この増刊号は作詞・作曲・編曲のデータが載っているのと、シングル盤で出ている曲はそのシングル盤の画像を使っているので資料として参照するのに便利だ。この曲はこういうデザインのシングル盤だったのか、とあらためて感心してしまうのが多い。というか、ほとんど知らなかったりする。
それに巻末には簡単だが索引まで付いているので大変すぐれた編集だと思う。

シングル盤は通常、その時点での最もアップ・トゥ・デイトなものだから、その時代の表情がわかったりする。たとえば大貫妙子の《サマー・コネクション》のシングル盤ジャケットはスケボーで遊んでいる大貫妙子の写真で、今のイメージからするとありえない設定である。解説にも 「時代の空気感」 とあるがまさにその通りだ。

これを読みながら私自身のベスト盤、というより愛聴盤をあらためて探してみた。
まずピチカート・ファイヴのアルバム《couples》から〈皆笑った〉が選択されているが、このアルバムがとても好きだ。ピチカートといえば野宮真貴というのが普通の思考なのだが、1stの佐々木麻美子にシンパシィを感じる。もちろん最近になって入手した再発盤なのだが、なぜか心がなごむ。

佐藤奈々子の〈サブタレニアン二人ぼっち〉。以前の記事にも書いたが1st《Funny Walkin’》の冒頭曲で、奈々子テイスト全開の作品である。作詞は佐藤奈々子、作曲は佐藤奈々子と佐野元春だが、佐野はこのとき、まだデビュー前である。須藤薫と杉真理を彷彿とさせる関係性だ。そして編曲は大野雄二。この歌い方はきっと好き嫌いがあるだろうが、嫌いな人は聴かなければいいだけのこと。

鈴木慶一と高橋幸宏のユニット THE BEATNIKS は〈ちょっとツラインダ〉が選ばれていて、そうだろうなとは思うのだが、私が好きなのは〈初夏の日の弔い〉であって、これを聴くと心がしんとしてしまう。そして高橋幸宏はもういない。

だがそんななかで意外に持ち上げられていたのが小坂忠で、索引から見ても4個所で言及されている。小坂忠で真っ先にチョイスされるのはたぶん〈ほうろう〉だろうが、私のベストは〈機関車〉である。若い頃の小坂忠は、いかにもヒッピー風な容貌で、もっともそれも時代のせいもあるのだろうが、それが年齢を重ねるとともに味わい深い歌い方に変わっていった。若い頃のほうがよかった、といわれてしまう歌手の多い中で、小坂忠は年齢が上がったほうがすぐれた歌唱だったと思う。まるでレナード・コーエンのようである。

2015年の東京Bunkamuraオーチャードホールでのライヴ映像があるが、これは村井邦彦作曲活動50周年記念コンサートとしてリリースされた動画の一部である。〈機関車〉の歌詞は実はかなり厳しい。いまだったら書けないような内容の歌詞だともいえる。バックはティンパン・アレー+高橋幸宏で、小坂忠の歌唱は滋味に満ちていて、遠い過去の記憶を引き寄せる。

そのような動画を検索しているうちに、荒井由実の古い映像を発見した。非常に画質が悪いが、若い頃の彼女がここにいる。〈生まれた街で〉と〈あの日に帰りたい〉だが、後者のボサノヴァ・テイストの伴奏ギターを弾いているのは細野晴臣である。もうひとりのリズムを刻んでいるギタリストがはっきりわからないのだが、かまやつひろしのような感じもする (でも、そうだったらテロップ出すよね。だから違うかも)。

そうして小坂忠の歌を聴いているうちに、はっぴいえんどの〈あしたてんきになあれ〉を突然思い出した。それはあるライヴで細野晴臣、大瀧詠一に小坂忠の加わった3声のコーラス。あれはすごかったんだ、と今さらながら思うのだ。


レコード・コレクターズ CITY POP BEST 100
(ミュージック・マガジン)
CITY POP BEST100――シティ・ポップの名曲 1973-1989




小坂忠/機関車
2015.9.28 東京Bunkamuraオーチャードホール
https://www.youtube.com/watch?v=C0SvHXk1gh0

小坂忠&ティン・パン・アレー/しらけちまうぜ
live 1975年
https://www.youtube.com/watch?v=aKXF9zPKv8A

荒井由実/生まれた街で〜あの日に帰りたい
https://www.youtube.com/watch?v=1hkkxK9LxaA

pizzicato five/couples
https://www.dailymotion.com/video/x3lnqx1

佐藤奈々子/サブタレニアン二人ぼっち
https://www.youtube.com/watch?v=wmSeXx_hW0Q

ビートニクス/初夏の日の弔い
https://www.youtube.com/watch?v=Z5YBtkL1p5U
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Rchoose19

難しいことはよくわからないですが、
ここにあげられてる名前の方々が
懐かしくて仕方ないです!
by Rchoose19 (2023-11-27 08:49) 

末尾ルコ(アルベール)

荒井由実の衣装や映像は当時の空気をよく伝えてくれてますね。ちょっとハマープロの映画の雰囲気mp漂っていて。
ピチカートファイヴやビートにクスは当時そこそこ聴いてましたが、佐藤奈々子、そして小坂忠は知りませんでした。
「サブタレニアン~」は佐野元春ですか。そういえば佐野元春の感覚が随所に出ているような気も。佐野元春は今でも初期のものを含め、しょっちゅう聴いてます。やっぱ『ヴィジター』が大好きなんです。『元春レディオショー』も大好きだったんですけどね。
彼はポエトリーリーディングが大好きで、テレビでもそれらしい企画、何度となくやってくれてうれしかったです。
それと誰かは忘れましたが、ゲストの人が音楽作品を「コンテンツ」と呼んだのに対し、「コンテンツと呼ばれるのはとても抵抗あるんですけど」とはっきり言ってました。そのゲスト、それでもまだうだうだ自己正当化を図っていましたが、そもそも音楽家にしろ映画館稚樹や小説家にしろ、「コンテンツ」呼ばわりされて喜んでいる人がいるのでしょうか。根本的に間違ってると思うのです。

小坂忠はお子さんが大怪我から回復した経験の後、クリスチャンとなったのですね。彼の人生そのものにも興味があります。「しらけちまうぜ」もカッコいい曲ですが、確かに「機関車」、クオリティの高いブルーズを聴いているような心に響く感覚があります。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-11-27 21:09) 

lequiche

>> Rchoose19 様

そうですか。
懐かしさとは強く記憶に残っているということですね。
星野源と米津玄師がオールナイトニッポンで
小坂忠の〈機関車〉を絶賛していたそうです。
by lequiche (2023-11-28 02:25) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

最近になってムーンライダース+佐藤奈々子の
1979年ライヴが発売されました。
つまりムーンライダース/鈴木慶一との関係もあったのです。
そしてムーンライダースに楽曲提供していますが
ピチカートの野宮真貴にも何曲か書いています。
この独特な歌い方はもちろんカヒミ・カリィなどより前です。

佐野元春は大瀧詠一に引っぱられて杉真理と共に参加した
《ナイアガラ・トライアングル vol.2》がありますが
これは自身のアルバム《SOMEDAY》より発売が少し前ですね。
大瀧詠一の慧眼というしかありません。
佐野元春はたしかにズバリとものを言う人だと思います。

小坂忠はエイプリル・フールを経て
小坂忠とフォージョー・ハーフというバンドを結成しました。
メンバーは林立夫、松任谷正隆、後藤次利、駒沢裕城です。
上記2015年のライヴで
鈴木茂がボトルネック (左手の円筒状のもの:スライドバー) で
弾いているのは、フォージョー・ハーフにおける駒沢裕城の
ペダル・スチール・ギターのテイストを出すためです。
教会音楽のひとつとしてゴスペルがありますので
小坂忠の歌唱はそこから派生したものとも言えます。
by lequiche (2023-11-28 15:32)