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ヒラリー・ハーンのバッハ《ヴァイオリン協奏曲第2番》 [音楽]

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Hilary Hahn

ここのところ、ずっとバッハなのだ。
思い出してみれば高校生の頃から20歳前後までもそうだった。音楽は究極としてはバッハだけで良い、と思っていたのだが、やがて、世界には数限りない音楽があり、だんだんと視野を広くして聴くようになってその気持ちは消失した。
それなのになぜ、そのような気持ちがよみがえってきたのだろうか。それはきっと世界に対する不信なのだ、と自己診断してみる。世界に対して、もっと卑俗にいえば世間に対して不信を持ってしまったとき、信じられるものはすべて消失し、バッハだけが残るのだと思う。

以下は私の勝手なひとりごとであり思い込みに過ぎない。私にとっての至高のバッハは《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》である。これは終生変わることはない。
ヴァイオリンは基本的に単音の楽器である。弦は4本あるがひとつの旋律線で弾かれることがほとんどである。バッハの無伴奏には重音の部分が多く存在するが、基本的にはヴァイオリンは単音である。
バッハの作品の基本的な構造は対位法によって作成されていて、対位法とは2声以上の音のからみあいによって成立するべきであり、したがって伴奏楽器の存在しないヴァイオリン1本の音楽では対位法を構成できないはずである。だがバッハの無伴奏には対位法が存在する。それはひとつの旋律線によって奏でられる音の中に聞こえないはずの音を、あるいは和音をリスナーが聞いているからだ。それは幻想なのだろうか。

だから無伴奏ヴァイオリンを聴くのは疲れる。緊張を強いられているような気がする。だがどうしても聴きたい気持ちになってしまうときがある。まるで強迫観念のように突然それはやってくる。でもYouTubeに、ヒラリー・ハーンがパルティータ3番を弾いている動画があって、これは自室なのかそれともそれに類した場所なのか、ともかく比較的プライヴェートな場所のようで、そこで弾かれるパルティータはそんなに重くない。
私の最も好きなアリーナ・イブラギモヴァの演奏と聴き較べなどしていたのだが、イブラギモヴァのはコンサート・ホールにおける動画で、それと聴き較べるのはフェアではない。セッション録音とライヴ録音は違うし、スクエアな場所での演奏とプライヴェートな場所での演奏とではニュアンスが違う。そもそも聴き較べたところでどうにもならない。好きか嫌いかだけで、上手いか下手かの比較にはならない。

ああ疲れたと思ってしまって、もっと親しみやすいバッハがいいと思い始めた。そこでヴァイオリン・コンチェルトである。バッハのヴァイオリン協奏曲を弾くハーンの動画で、ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団との演奏をたまたま聴いたのだが、演奏会場の雰囲気も良くて、きつきつのバッハから少し遠ざかることができたように思う。指揮はオメール・メイア・ヴェルバーの弾き振りである。

バッハのヴァイオリン協奏曲で一番有名なのは第2番である。第1番の調性はa-mollであり、楽章毎にいうのならば a-moll → C-dur → a-moll なので響きとしては悲しく哀愁があって素朴なのだが、音楽的には第2番のほうがよくできているように感じる。第2番は G-dur → cis-moll → G-dur という調性である。
リンクした2つの協奏曲はおそらく同じ日に連続して演奏された動画だと思う。第2番の第3楽章でハーンのやや現代的なアプローチが垣間見えてしまうが、全体的にはリラックスしていて、ハーンが伴奏の弦楽器を引っぱっていく様子がとても心地よい。ヴェルバーのチェンバロも的確である。
昔、憧れていたバッハにまた逢えたのだと、そしてバッハの精神性は廃れることなく健在だとあらためて思うのだ。

追記として、私はどんな音楽に関しても、あまり感心しなかった演奏については書かないようにしているのだが、このヴァイオリン協奏曲の動画を探しているとき、2台のヴァイオリンのための協奏曲を弾いている某演奏に行き当たった。あえて名前は記さないしリンクもしないが、有名なヴァイオリニストとその教え子たちのように見える演奏である。非常に現代的な躍動感に満ちた演奏で、全体的に速く、まさに爽快感のある演奏なのだが私は買わない。冒頭から22小節めの、有名な跳躍進行の部分がこれでは台無しだ、と思ってしまったからである。だがこうした演奏こそが、現代の人々には好まれるのかもしれない。

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Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.2, E-dur, BWV 1042
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=DgfyryZJES4

Hilary Hahn/J.S.Bach: Violin Concerto No.1, a-moll, BWV1041
Omer Meir Wellber, Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
https://www.youtube.com/watch?v=Q3-5144TaYg

Hilary Hahn/J.S.Bach: Partita No.3, E-dur, BWV 1006
https://www.youtube.com/watch?v=Pr_gK9fzwSo
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末尾ルコ(アルベール)

病室で 24時間奏でてほしい バッハの調べ
RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2023-12-04 12:40) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

御母様のお世話をされてきた疲労がたまっていると思うのです。
今はご自分のことを優先してお考えください。
あまりネットにはアクセスせず、まず静養です。

パルティータ2番のサラバンドです。
https://www.youtube.com/watch?v=BfLUoTBc06c
by lequiche (2023-12-05 04:00)