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伯林1888あるいはシェリーに口づけ — 名探偵コナン [コミック]

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アニメやアニソンのことを私はほとんど知らないのだけれど、林原めぐみの《イラヴァティ Irāvatī》でその歌声を聴くと、それは綾波でも灰原でもなくて林原そのものなので、でもその 「やや裏切られた感じ」 がきっといいんだと思う。ただ 「魂のルフラン」 を聴いていると、それは高橋洋子とは随分違っていてそのモノローグの中に灰原の息づかいが垣間見えてくる。

ストーリーの中で《名探偵コナン》の灰原哀と《ワンピース》のニコ・ロビンはそのdesperateな冥さやポジションにおいてほとんど等価だ。
そして《名探偵コナン》はストレートな推理コミックに見えて、やおいな面を隠し持っている。少年探偵団という名称は、江戸川乱歩のジュヴナイル小説からとられたものでもあるけれど、乱歩がどういう人だったか知ってる人は知ってる。
乱歩には 「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」 という有名な言葉があるが、その現世のパパが夜のママということまでは、今や、ぼかされてしまっている。

名探偵コナンにおける大雑把なネーミングは鳥山明のそれに似ていて、でもかえってモノの本質を指し示していたりする。
例えば毛利親子は、毛利小五郎という名が乱歩の明智小五郎からとられているのと同時に、明智光秀の明智でもあって、娘の毛利蘭がモーリス・ルブランと森蘭丸の合体であることに対応している。つまり毛利親子は実際の親子ではないのかもしれないし、毛利蘭は男の子なのかもしれない、という疑念をも併せ持つ。これがやおいな心である。
毛利蘭の無性的な性格は、彼女の英語圏での名前、レイチェル・ムーア Rachel Moore がブレードランナーのレイチェル Rachael を連想させることと無縁ではない。
乱歩における小林少年の変装がやたら女装であったり、団員のひとり・花崎マユミが実は小林少年の女装名なのではないかというのとも通底している。

灰原哀が元は 「黒の組織」 のブレーンのシェリーであったことは、ニコ・ロビンが 「バロックワークス」 のミス・オールサンデーであったことに似ていて、そして灰原という名前はP・D・ジェイムズのコーデリア・グレイからとられているのことだが、ミステリー系で灰色というカラーから連想するのはポアロの 「灰色の脳細胞」 であるし、さらにコーディリアがリア王の末娘という悲劇性を備えている名前であることも少しは関係しているのかもしれない。つまり象徴されるものは闇、知性、悲哀である。
なにより新一と灰原が 「子供化」 されているのはペドフィリアの一種であり、それは乱歩の 「押絵と旅する男」 がピグマリオニズムの変形であるのと同じであり、性的な屈折に他ならない。

やおいの元祖ともいわれるひとりとして森茉莉の名前があげられるが、やおいであるかどうかということから離れて一番危険に思えるこうした (abnormalな) 関係性のひとつに 「パパと娘」 があって、それは倉橋由美子でもゲンズブール父娘でも同じで、だから森茉莉の『甘い蜜の部屋』も娘の視点からのリビドーそのものである。
それはものすごく堅物に見える森茉莉の父親・鷗外が、いわゆるドキュン名前の命名の元祖であるということが、実はそんなに意外でなくて納得できる成り行きだというのに通じる。

鷗外の「舞姫」から触発されるドイツ——ベルリンは音楽的にも何らかの触媒として作用するときがあるような気がする。レナード・コーエンの First We Take Manhattan はジェニファー・ウォーンズの歌で有名だが、その中に出てくるベルリン。そして遡ればベルリンは、ルー・リードの《Berlin》(1973) からロキシー・ミュージックの《Country LIfe》(1974) Bitter Sweet を経て、デヴィッド・ボウイがブライアン・イーノと作ったアルバム《Low》(1977) の Warszawa へ。これらの音は皆、つながっているように私には感じられる。そしてエリック・ドルフィの客死した街ベルリン。

ロキシーの《Country Life》のジャケ写のひとりは、性転換した元・男性だが、Bitter Sweet に夾まれるドイツ語はその音に頽廃とエロスを感じるときがある。それはたとえばヴィスコンティの映画に描かれるドイツがエロスを湛えていたり、Kraftwerk の音が禁欲的過ぎるゆえにかえって鬱屈した性的な欲望を感じさせるのに似ている。
デヴィッド・ボウイとかミシェル・ポルナレフといった性的曖昧さというスタイルから出発した音楽はその頃はまだストレートでわかりやすかったのだろうが、今はもっと屈折していて境界線が見えにくくなっている。もともと曖昧なものだから見えにくくても構わないのか、だからといって曖昧さが世間の認知を得られたのかどうかといえば、それはまだよくわからない。


青山剛昌/名探偵コナン (小学館)
名探偵コナン 78 (少年サンデーコミックス)




森茉莉/甘い蜜の部屋 (筑摩書房)
甘い蜜の部屋 (ちくま文庫)




Jennifer Warnes/Famous Blue Raincoat (Ariola Germany)
Famous Blue Raincoat




Lou Reed/Berlin (BMG Japan)
ベルリン(紙ジャケット仕様)【2012年1月23日・再プレス盤】




Roxy Music/Country Life (EMI Music Japan)
カントリー・ライフ




David Bowie/Low (EMI Music Japan)
ロウ




林原めぐみ/Irāvatī (キングレコード)
Iravati (初回限定盤・紙BOX仕様)




Jennifer Warnes/First We Take Manhattan
http://www.youtube.com/watch?v=W0rZ2CPCYBQ&list=PL1599AD4450CDB15F

Lou Reed/Berlin (2006 Berlin)
http://www.youtube.com/watch?v=8oUzH4xqxek

Roxy Music/Bitter Sweet
http://www.youtube.com/watch?v=y63ydqGAA3Y

David Bowie/Warszawa (12.12.1978 Tokyo)
http://www.youtube.com/watch?v=j9rELaQztqk

林原めぐみ/魂のルフラン
http://www.youtube.com/watch?v=utAOrfOACpg
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