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バルトークの《かかし王子》・2 [音楽]

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コチシュのHungaroton盤の《かかし王子》を聴いていて (→2013年03月25日ブログ参照)、たとえば Third Dance から Fourth Dance あたりの妖しく奇妙な感じのする美しさに惹かれてしまって、ブーレーズはこれをどう振っているのか知りたくなった。
まずその前に、この曲の邦題は直訳調に《木製の王子》とか、内容的に考えて《かかし王子》と呼ばれているが、どうも 「かかし王子」 という語感はカッコ悪く聞こえてしかたがない。The Wooden Prince と表記しようかとも思ったのだが、前ブログとの関連もあるのでそのままにする。

ブーレーズのバルトークは1967〜1977年にかけてのCBS録音があり、これは2009年京都賞受賞後に Pierre Boulez Edition としてリリースされたSONY Classicalの再発盤セットの中に入っている。Boulez Editionは作曲家毎に分けられた11セットでCD48枚あり、バルトークには4枚があてられている。正確にいうとスクリャービンが1曲入っているので3枚半くらいだ。この11セットは廉価だし、近・現代の代表曲がかなり入っているので、私は何か曲を参照したいときに利用している。
バルトークはその後グラモフォンへの録音があって、これらはバラで何枚かをすでに持っていたのだが、全てを網羅した8枚組のボックスセットがあるのでそのほうが便利だと思って入手した。その中に入っている《かかし王子》はシカゴ・シンフォニー・オーケストラ、1991年のものである。

さてこのグラモフォン盤を聴いてみるとやはりシカゴという感じで、SONY盤だとニューヨーク・フィルだが、どちらにしてもアメリカっぽいというか、リヒャルト・シュトラウス的な音響といった印象を受ける。コチシュのほうがややローカルな味わいがあり、それに対してブーレーズのは鋭角で都会的だ。
というかブーレーズに限らず、今までのオーケストラ曲のバルトークというのはこういうふうに鳴らし切る音がほとんどだったように思う。
ところがコチシュ盤を聴いたら、そういうニュアンスとは違う音が聞こえてきて、それで私は前記のブログに 「かかし王子ってこんな曲だったっけ?」 と書いたのである。

さて、ブーレーズ盤を聴いてみたら、コチシュ盤とはトラックの切り方が違っていて、ブーレーズ盤は8つのパートになっているが、コチシュ盤は14に別れている。ブーレーズ盤はトラックのアタマが音の途中につけられていたりしてやや疑問を感じさせる編集になっている。

逐一比較したわけではないのだが、たとえばコチシュ盤のトラック18の1:08あたりからのアヒルの鳴き声のような個所 (私にはそう聞こえる) ——諧謔的な流れなのかそれとも奇妙な味付けのためなのかわからないが、リズムの自在さと表情のつけかたがイキイキとしていてこの曲のアイロニカルな特徴が出てきているように思える。対してブーレーズは、ごくあっさりとした表情で通り過ぎていくので、音も停滞しないし奇妙なテイストも弱い。
そもそもブーレーズ盤は金管が鋭く強大な鳴らしかたなのに対し、コチシュ盤は木管が魅力的である。木管は爽やかで柔らかな音色とは限らず、時として悪魔の貌を見せるものだ。後ろ暗い道化師が舌を出しているような、少し邪悪な雰囲気をこの曲は隠し持っている。

book_Kiralyfi.jpg

ブーレーズのグラモフォン盤をざっと聴いてみたが《Concerto for Orchestra》のような無機質なタイトルになっている曲は解析的で曲構造が明解だし、バルトークがすでに古典であることをあたらめて報される。
だが前ブログにも書いたように、3つのステージ音楽《青髭公の城》《中国の不思議な役人》そして《かかし王子》は具体的なタイトルがついているためなのか、妙に肉感的で、特にこの《かかし王子》はセクシャルである。背徳的といってもよい。この曲が本来持っていたそういう性格があきらかにされている点でコチシュの指揮は優れているように感じる。ハンガリーの音楽はやはりハンガリー人の演奏がよいというような安易な民族主義に私は与しないが、このような演奏を聴いてしまうと、やはり血のなせるわざはあるかもしれないとも思う。


Boulez Conducts Bartók (Deutsche Grammophon)
Boulez Conducts Bartók




Boulez Conducts Bartók, Scriabin (Sony BMG Europe)
Bartok: Pierre Boulez Edition




Zoltán Kocsis/Bartók: Kossuth・The Wooden Prince (Hungaroton)
Wooden Prince (Hybr)

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サンフランシスコ人

「リヒャルト・シュトラウス的な音響といった印象を受ける」

全然しませんでしたが.....

ピエール・ブーレーズ指揮
クリーヴランド管弦楽団
1986(?)年11月
クリーヴランドのセヴェランス・ホール
バルトーク 『かかし王子』

by サンフランシスコ人 (2016-02-03 08:13) 

lequiche

>> サンフランシスコ人様

なるほど、そうですか。
素晴らしい記憶力をお持ちですね。
オーケストラの音の違いのことですから、
そう思われるのも当然だと思います。
by lequiche (2016-02-04 00:45) 

サンフランシスコ人

「素晴らしい記憶力をお持ちですね.....」

特異で唯一無二な演奏会でした....
by サンフランシスコ人 (2016-02-04 01:48) 

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