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チャールス・ロイド《Mirror》を聴く [音楽]

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(L to R) Jason Moran, Eric Harland, Charles Lloyd, Reuben Rogers

Mirrorというタイトルから連想してしまうのはタルコフスキーの映画だが、ここでの《Mirror》とはチャールス・ロイドの2010年にECMからリリースされたアルバムのことである。

私がチャールス・ロイドを聴いたのはごく不純な動機で、ボボ・ステンソンの参加アルバムを辿っていたとき、《Fish Out of Water》とか《Canto》といった最近のシブい作品で耳にしたのが最初である。特に《Fish Out of Water》はステンソン、ヤン・クリステンセン、パレ・ダニエルソンという私の中での黄金のトリオで、つまりヤン・ガルバレクの《Witchi-Tai-To》への偏愛からきている。そのガルバレクのリズムセクションを流用しソロイストがロイドにかわったという布陣なのだ。
だからロイド往年の大ヒット作である《Forest Flower》の頃のことは私はよく知らない (《Forest Flower》は当時まだ新進のキース・ジャレット、ジャック・デジョネットをサイドメンに採用したアルバムである)。

《Mirror》は1曲目の〈I Fall in Love too Easily〉の入り方がとても心地よい。滑らかなロイドのサックスに、音数少なくからむピアノとベース。演奏は途切れることなく2曲目のトラディショナル〈Go Down Moses〉につながってゆく。

音数が少ないという音楽に私は最近凝っていて、それはクリュイタンスのフォーレの《レクイエム》には2種類あるのだが、1962年・パリ管の有名な録音の影に隠れているが、1950年のあまり知られていない素朴な録音も意外にアリだと思うようになってからである。
フォーレの《レクイエム》はオケがトゥッティで鳴ることはなくて、それはフォーレが管を含むオーケストレーションが苦手だったことが理由なのだが、そのごくシンプルな音使いがかえってあの曲の真髄だと思えてしまう。スコアで見る〈リベラ・メ〉のシンプルさにはちょっと驚く。でもヘレヴェッヘの2種類の録音を聴き較べてみたら余計混乱してしまって、いまだに《レクイエム》について書くことができないでいる (って言いながらこう書いてしまったけれど)。

それでロイドのアルバムに戻ると、全体は何曲かのトラディショナルと何曲かのセロニアス・モンク曲、そしてロイドのオリジナルから成り立っているが、そこに1曲だけブライアン・ウィルソンの〈Caroline, No〉が混じっている。〈Caroline, No〉はアルバム《Pet Sounds》(1966) の最後に入っている曲であるが、ロイドはビーチボーイズとの共演でも知られる。
ピアノのジェイソン・モランの音が素晴らしくカッコイイ。9曲目の〈The Water Is Wide〉で俄然ストライド風に弾いてみたりするスタイルが洒落ていて、リューベン・ロジャースのベースとエリック・ハーランドのドラムスもかっちりときまっていて、そこに、たまにちょっとヘロヘロになったり音が弱かったりするロイドのサックスが乗ると、これはミューズに魅せられた夜のムードに違いない。ロイド以外の3人はロイドとは親子くらい年齢が離れているが、このしっとりと成熟した融合性はジャズの伝統がまだ廃れていないことを感じさせる。

4曲目の〈La Llorona〉だけが妙にもの悲しいが、それもウェットでなく、ごくさらっとしていて、トラディショナル、モンク、ロイド自作曲のつながりかたがごく自然に流れてゆく (La Lloronaはメキシコ系のトラディショナルソングである)。ロイドはこの録音時72歳。この年齢になると何やっても許されるというか、達人の域になっているのかもしれない。モンクの曲がこなれていて、あのモンクのアクの強さが薄まってしまっているのが達人の証拠だ。
タイトル曲である〈Mirror〉はごくオーソドクスな4ビートだが、全然気張ったところがなくて、それはセピア色のジャケットのイメージそのままに少しセンチメンタルな気配を漂わせる。


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Charles Lloyd with Billy Higgins

CharlesLloyd_150722c.jpg
Forest Flowerの頃のCharles Lloyd Quartet


Charles Lloyd/Mirror (ECM Records)
Mirror




Charles Lloyd/Caroline, No
https://www.youtube.com/watch?v=CKVpZNxVWA4
Charles Lloyd/La Lorrona
https://www.youtube.com/watch?v=WYfFGvYQajY
Charles Lloyd/Mirror
https://www.youtube.com/watch?v=fAH3m3f6UTs
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lequiche

>> desidesi 様

これ1枚選べといったらペットサウンズでしょう。たぶん。(^^)
私はビーチボーイズパーティというアルバムが好きです。
I Get AroundとかBarbara Annとか
いかにもパーティで、きちんと合ってなくて、
テキトーに演奏してるみたいな雰囲気なんだけどそれがイイ!
あと、Good Vibrationsが入っているということだけで
スマイリースマイルかなぁ。
と言いながら私はビーチボーイズ1枚も持ってません。
記憶だけで書いてるので間違ってるかも。(^^;)

チャールス・ロイドのリズム隊は皆ボーズで、
サッカーのチームみたいですね。
赤い椅子は御大が座るために置いてあるんでしょうけど、
最初にモランが弾いてる横でひとりでノッてるのが
鈴木清順みたいで笑えます。亀仙人と言ってもいいかも。
最後のほうでアルコベースのとき、
ピアノの連弾してるのもゆるくていいです。
by lequiche (2015-07-24 02:03) 

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