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ストレンジ・メロディ — ジェーン・バーキン《Rendez-vous》 [音楽]

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Jane Birkin, Étienne Daho

雨の夜、心が沈んでいるときはチープなジェーン・バーキンの音に浸るのもいい。
バーキンの《ランデヴー》は2004年リリースのアルバムで、いろいろな歌手とのデュエットが詰め込まれている。ゲンズブールの頃からバーキンの音は原則としてチープだが、それは2004年になってゲンズブールがいなくなっても変わることはない。つまりこれがフレンチ・ポップスの伝統なのだ。豪華でなくて、厚みもなくて、でもそのほうが音楽の真実が伝わる。
レーベルはキャピトルで、EMIミュージックフランスのリミテッド・エディション盤である。リミテッド・エディションと日本盤のみ2曲多い (でも当時リリースされた日本盤はCCCDとのこと)。

1曲目の〈Je m’appelle Jane〉(デュオの相手 [以下同じ]:ミッキー3D)、2曲目の〈T’as pas le droit d’avoir moins mal que moi〉(アラン・シャンフォー) という流れはとてもホッとする空気を含んでいる。それはフレンチの音が頑固に変わらないということの証明のように聞こえる。
2曲目のタイトルの付け方はまるでゲンズブールの〈Je suis venu te dire que je m’en vais〉を意識しているように思える。この長ったらしいタイトルに対する邦題は〈手切れ〉。とてもシンプルだ。対してその〈T’as pas le droit d’avoir moins mal que moi〉の邦題は〈許さない〉。この日本盤を作った人はよくわかってるなあと思う。両曲とも最初のフレーズをタイトルにしただけというのも同じだし。
でも1曲目の Je m’appelle Jane (ジュマペルジェーン/私の名前はジェーン) ってタイトルも 「知ってるよ」 とツッコミたくなる。

3曲目の〈In Every Dream Home a Heartache〉はおどろおどろしい音で、何これ? と思うのだが、ブライアン・フェリーとのデュオだ。フェリーの若い頃のアクの強い感じを彷彿とさせる。ゲンズブール/バーキンのロールスロイスが出てくる古いPVでこんなシンセ音を使っていたような気がするが、もしかしてそれを意識した音作りという可能性もある。
4曲目の〈Palais royal〉は一転して王道なアラン・スーションとのデュオ。
そして5曲目の〈La Grippe〉(エティエンヌ・ダオ) も、さらっとしている佳曲なのだが、ブリジット・フォンテーヌ/ジャック・イジュランの書いた曲である。

6曲目の〈Strange Melody〉はベス・ギボンズの曲。ベス・ギボンズはイギリスの歌手で、この曲ではコーラスを付けているのみだが、この暗い雰囲気がとてもいい。
7曲目の〈O Leaozinho〉はカエターノ・ヴェローゾとのデュオだが、ヴェローゾの声質は明るすぎて、このバーキンのアルバムのなかでは少し浮いているかもしれない。

8曲目から11曲目までの怒濤のつながりはこのアルバムのなかで最も高い山脈の部分。8曲目の〈Pour un flirt avec toi〉のミオセックは声が渋くてしびれる。avec toi という歌詞に思わずミレーヌ・ファルメールを連想してしまうが。
9曲目の〈The Simple Story〉(ファイスト) はシンプルに聞こえるオーケストレーションだが実は凝っているというのがミソで、ゴンザレス (Chilly Gonzales) のもの。fr.wikiのゴンザレスのページでは Production, arrangements の項の最初にこのアルバム名が載っている。つまり彼のキャリアの第一歩でもある。
10曲目の〈Te souviens-tu?〉はマヌ・チャオの曲で、デュオとギターも担当しているが、このチープなエレクトリック・ギターがこのアルバムの色を支配している。
11曲目の〈Smile〉(ブライアン・モルコ) は退廃。声質は違うのだがルー・リードを連想させるモルコの声が魅力的だ。

12曲目の〈Surannée〉はフランソワーズ・アルディとのデュエットだが、アルディの声もやっぱり若い頃とは変わっていることを実感。でも黄昏れているわけでなく声がクリアに耳に入って来る。
そして13曲目〈Canary Canary〉は井上陽水の曲だが、この13trackでは井上陽水の朗読が聴ける。16曲目にボーナストラックとして同じ曲が入っているのだが、技巧的なギター伴奏で始まるこちらのほうが私は好きだ。16曲目では井上陽水が一部を日本語詞で歌っている。
14曲目の〈Chiamami Adesso〉はパオロ・コンテとのデュオ。いかにもイタリアンな重鎮といった歌唱がいい。

このアルバムで特に気がついたのはバーキンの声の変化で、若い頃のコケティッシュをずっと引き摺っているのかと思っていたのだがそうではなく、色が無く、すごくオトナで凜としたたたずまいがありここちよい。
曲の長さが2分から3分台の曲が多く、一番長いのが〈カナリー・カナリー〉の別トラックで4分54秒。4分に満たない曲というのは、昔ながらのポップス風で、チープさと併せてそういう意味でもポリシーに揺るぎがない。
ジャケットデザインがちょっと謎なのだが (フォトグラファーは娘のケイト・バリー)、アルバムの内容そのものは豪華なデュオでありながら総花的ではなく筋が通っていて、バーキンのアルバムのなかでもかなり上のほうだと私は思う。


Jane Birkin/Rendez-vous (Capitol/EMI Music France)
Rendez-Vous




Jane Birkin/Canary Canary
https://www.youtube.com/watch?v=XFbHlLvEjqk
Jane Birkin/Smile
https://www.youtube.com/watch?v=5EB_ZC3tXAw
Jane Birkin/Strange Melody
https://www.youtube.com/watch?v=DZOJq8C0S1I
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コメント 8

末尾ルコ(アルベール)

ちょうど昨日、カーステレオでセルジュ・ゲンズブールのベスト盤を聴いておりました。ゲンズブールもポップでチープな要素たっぷりですが、声質が深いですね。その分、バーキンの方がさらにいい意味でのチープ感を楽しめる気もします。このアルバムは未聴で、またじっくり聴いてみます。ところで山岸涼子、わたしはバレエファンであるに関わらず、なぜか『アラベスク』を読んでなかったのですが、今読んでいて、これがなかなかおもしろい!  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-09-21 07:28) 

きよたん

ジェーンバーキンまだ歌っているんでしょうか
懐かしい名前です
Canary Canary いいですね
声も歌い方も

by きよたん (2016-09-21 08:40) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ゲンズブールが自分の声質に助けられている部分はあると思います。
すごくテキトーに曲を作っているようでもあり、そうでもなくて、
という常に謎の部分が解消されないのがゲンズブールです。
最近のバーキンの英語詞の曲はイヤだなと思っていたのですが、
よく考えたらバーキンってイギリス人ですし、
別に問題はないんですね。
むしろ英語詞のほうが端正なイメージがあります。

山岸凉子は厩戸皇子が代表作のように言われてしまいますが、
アラベスクは重要な作品ですね。
ただ私は、最初に読んだときはバレエの知識が無いため、
なんだかよくわかりませんでした。
今、読み返せばもう少し理解が深まるような気がします。
1971〜75年というとバレエもスポーツ根性マンガの一環として
認識されていた頃なのではないかと思います。
たとえば当時〈赤い靴〉というバレエのTVドラマがありますが、
こういうライバルの戦いみたいなのって
たとえば『ガラスの仮面』の元なんじゃないか、と思います。
by lequiche (2016-09-21 10:49) 

lequiche

>> きよたん様

バーキン、全然現役です。
若い頃に較べると化粧っ気がなくて、おばさんですが、
でも普通の人とは違うおばさんです。(^^;)
Carry Carry はバーキンが気に入って、
彼女のほうから井上陽水にリクエストして
デュエットが実現したらしいです。
by lequiche (2016-09-21 10:49) 

えーちゃん

ジェーン・バーキンって、エルメスのバッグの名前にも使われた人だニャ。
って、そのくらいの情報しか知らないんだけどニャ(^^;
by えーちゃん (2016-09-22 01:47) 

lequiche

>> えーちゃん様

エルメスのケリーとバーキンは
エルメスの名前のシリーズバッグとして有名ですね。
ジェーン・バーキンはSMAPのTV番組で、
「このバッグは男性が使ってもいいのでしょうか?」
と訊いたキムタクの質問に対して、
「こうやってラフに使うのよ」 と踏んづけてから
渡したことで有名です。(笑)
この ↓ 20分頃から
http://www.veoh.com/watch/v3731491FaXr8yHR
by lequiche (2016-09-22 09:50) 

sig

こんにちは。
女優としてのジェーン・バーキン、とてもいい感じでしたが、ゲンズブールといっしょになってがっかりでした。笑
by sig (2016-09-26 22:43) 

lequiche

>> sig 様

ゲンズブールが嫌いというのは、
特に男性には多いようですね。(^^)/
あ、sigさんは以前の私の記事にも
そう書かれていましたっけ? 嫉妬だ、と。(笑)
ジェーン・バーキンだめじゃん!
よりによってあんなスケベオヤジと!
ということなんでしょうが、でも仕方がないんです。
ゲンズブールは天才だから。
バーキンはそれを見抜いていたんだと思います。
by lequiche (2016-09-27 11:57) 

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