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スヴェンセンのロマンス [音楽]

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Johan Svendsen (1840-1911)

最もよく知られているヴァイオリン曲といえば、たぶんツィゴイネルワイゼンだろう。ヴァイオリンお上手! というのを証明するために、よくTVなどでヴァイオリニストがその一部を弾いたりする。
《ツィゴイネルワイゼン》という鈴木清順の映画があって、その予告編をYouTubeで見ていた。ずっと昔に観たのでほとんど記憶が無いが、考えていたよりずっと清新で美しい。もっとデカダンだと思っていた。

ツィゴイネルワイゼン以外のそうした曲 (キャッチーなクラシック曲) だと、たとえばロンド・カプリチオーソとかチャルダッシュとか、あと、フリッツ・クライスラーなどでもよいのかもしれない。逆にいうと俗に過ぎて、あまりまともに聴いたりすることがない。
ピアノだったら〈エリーゼのために〉がそうした曲の代表だろうが、その通俗さを逆手にとってタッジオに弾かせたのがヴィスコンティである。

シベリウスを聴いているうちに北欧系のヴァイオリンといえば、と考えだしたら、スヴェンセンのことを思いついた。
ヨハン・スヴェンセン (Johan Svendsen, 1840-1911) はノルウェーの作曲家であるが、ヴァイオリニストでもあり、グリーグと親しい人であった。一生のほとんどをデンマークで過ごした。

でもスヴェンセンのCDは全然持っていなくて、以前、弦楽四重奏にはまっていたときに買ったヒンダル・クァルテット+αの弦楽八重奏曲&弦楽五重奏曲しかない。それはNKF (Norsk Kulturråds Klassikerserie: ノルウェー文化審議会) というレーベルのノルウェー盤で、弦楽四重奏曲、五重奏曲、八重奏曲というのは皆、若書きの作品であるからなのか、芯になるものが乏しいような気がする。たとえばこの弦楽五重奏曲にしても、明るくてクリアで気持ちはよいのだけれど、ただそれだけで、深く心に訴えかけてくるなにかがあまり無いような気がする。

スヴェンセンはジャンル的に万遍なく曲を書いていて、グリーグはその交響曲に感嘆したとあるが、今となってはグリーグとスヴェンセンでは断然グリーグのほうが有名だ。ニールセンは指揮者としてのスヴェンセンのいわば弟子であったが、グリーグと同様にニールセンとスヴェンセンではニールセンのほうが人口に膾炙している。
その当時は有名だったけれど、今となってはその名声が衰えてしまったというのは、たとえばベートーヴェンと親交があったシュポーアなども同様で、彼の弦楽四重奏曲は第35番まであるのに 「シュポーアって誰?」 状態だし、もっと遡ればモーツァルトの対抗馬 (?) サリエリがまさにそうであった。名声と実力とは必ずしも一致しない。

スヴェンセンの《Romance for Violin and Orchestra》op.26 (1881) はもう少し齢をとってからの作品で、ロマンスというタイトルからして、ごく卑近な親しみやすい曲のような気がするが、さすがに若書きの作品よりはクォリティが上がっていて、スヴェンセンの個性も出ている。そして親しみやすい。
YouTubeにはテリエ・トンネセン/ノルウェイ室内オーケストラ (Terje Tønnesen/ Norwegian Chamber Orchestra) の演奏を見つけることができる。皆、カジュアルな服装をしていてほのぼのとした雰囲気だが、さらっとしていていながら、薄く憂愁のあるこの曲を、いかにも地元の名曲という感じで演奏していて、音楽の楽しみかたの原点という気持ちにさせられる。
メロディが下降していく部分に、マーラーのアダージェットを連想させるところがあるが、もちろんこの曲のほうがマーラーより先である。

たぶん今となってはスヴェンセンは2流の作曲家なのだろう。けれど常に、2流どころのほうが何かわからないのだけれど心惹かれる瞬間が時としてあって、それは1流どころの完璧な作品より人間的なように思えたりする。


Hindar Quartet with Arve Tellefsen, Sven Nyhus,
Hans Chr. Hauge and Asbjørn Lilleslåtten/
Svendsen: Octet for Strings, String Quintet (NKF)
https://www.amazon.com/dp/B000P3N8FG/

Terje Tønnesen & Norwegian Chamber Orchestra/
Svendsen: Romance for Violin and Orchestra op.26
https://www.youtube.com/watch?v=_sILd8oX7jk
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そらへい

チゴイネルワイゼンとかエリーゼのために、あまりにも子供の頃から刷り込まれ過ぎていて、分かった気になっているところがあるのかもしれませんね。
去年、コンサートで初めてチゴイネルワイゼンを聞いたとき、
若いバイオリニストの力演に身を正される思いがしました。

光り輝く一流どころより、少し影のある二流どころの方に惹かれるというのもわかるような気がします。
私は単純にビッグネームにひかれやすいところがありますが・・・
by そらへい (2017-01-08 22:15) 

lequiche

>> そらへい様

有名過ぎるのでかえってわかりにくい、
知っていると思っていたのに実はそうでもない、
という面があるかもしれないです。
それと、もちろん楽譜に忠実に弾いている演奏でも
発見がありますが、そうじゃないのも面白いです。
たとえば葉加瀬太郎がツィゴイネルワイゼンを弾いていますが、
完全にポップスとして編曲されていますけれど、
こういうのはこれでありかな、と思います。

そらへいさんはジャズにお詳しいので、
それを例にしますと、私の感覚ではたとえば
ブルー・ミッチェルとかハンプトン・ホーズって2流なんです。
ジョニー・コールズなんかもそうかな。
でも、2流がいいんです。
一種の判官贔屓なのかもしれませんけど。(^^;)
by lequiche (2017-01-09 02:37) 

hatumi30331

今日から「えべっさん」
今日は、宵戎です。
ゆらと行ってきます!^^
by hatumi30331 (2017-01-09 06:18) 

末尾ルコ(アルベール)

『サラサーテの盤』からよく『ツィゴイネルワイゼン』ができたものだと、どちらがどうということではなく、当時の鈴木清順のイマジネーションには感服します。ヴィスコンティは大仰な表現を含め、確かに通俗性を敢えて強調するような部分はありますね。そこがまたたまらない魅力です。今、リンクくださっている曲を聴きながら書いていますが、朝から気持ちがゆるやか~になれていいですね。クラシックバレエなんかも超一級の通俗といった魅力がありまして、特に『ラ・バヤデール』とかはその権化かなといつも感じています。「名曲アルバム」でかかるような曲は通俗的とされるものが多いのでしょうが、そうした旋律に心動かされる時間もよくあります。映画で言えば、デ・シーカの『ひまわり』とか。RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-01-09 08:57) 

lequiche

>> hatumi30331 様

おぉっ、いいですね。
いってらっしゃいませ。
「戎」 という文字、
私はこの前まで読めなかったのは秘密です。(^^;)
by lequiche (2017-01-09 15:49) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

私が最初に入った会社で、新人研修のとき、
ひとりのジジィ、違った、高齢の講師が (^^;)、
百閒先生、百閒先生、と繰り返しながら逸話を話していまして、
おそらく彼が若いころ内田百閒と面識があったらしいのですが、
猫に小判でどんな話だったのか記憶にありません。

ヴィスコンティの通俗性は
バレエなど舞台芸術と共通するものがありますね。
フランコ・ゼフィレッリは若い頃、ヴィスコンティの下にいて
その後、スカラ座に進出したのも、イタリアのああした美学が
連綿とあることの証しだと思います。

ラ・バヤデールというのは知りませんでした。
バレエはやはりロシアなんですね。
ひまわりも映画は観ていないんですが曲はよく知っています。
マンシーニみたいなサントラのオーケストラみたいなのとか、
もっと拡げていわゆるイージーリスニングなオケって
とても心惹かれるものがあります。
つまり 「通俗の極致」 というのは褒め言葉です。
by lequiche (2017-01-09 15:50) 

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