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南佳孝《SPEAK LOW》 [音楽]

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前記事からのつづきです。

木村ユタカ『Japanese City Pop Scrapbook』を読んでからかなり影響を受けてしまって、このところ古いJ-popがマイブームである。レコードを何枚か買った中に南佳孝があった。南佳孝については随分以前に《忘れられた夏》について書いたことがあるが (→2019年02月03日ブログ)、実は私はこのアルバムと、1stアルバムの《摩天楼のヒロイン》きり知らず、しかも1stはあまりに力が入り過ぎているというか技巧的に構築されている感じがして、すごいとは思うのだけれど深くはのめり込めなかった。

だがやがて、もう少し肩の力の抜けた他のアルバムの魅力がわかってきたのは、過ぎて来た過去を懐かしむような気持ちはないのだが、きっと年齢のせいなのかもしれなかった。

購入した南佳孝のレコードは《SPEAK LOW》と《SILKSCREEN》である。両方とも初めて聴いた。
《SPEAK LOW》は4thアルバムで1979年発売。全11曲のうち、9曲は松本隆作詞。〈渚にて〉〈Monroe Walk〉の2曲が来生えつこ作詞で作曲は全曲南佳孝。編曲は佐藤博と坂本龍一。〈Monroe Walk〉はもちろん郷ひろみに提供された曲 (タイトルは〈セクシー・ユー〉) であり、このアルバムのメインチューンのはずだが、そのような気負った印象は感じられない。
松任谷由実のアルバムなどと同様、この時期の演奏者がすごい。佐藤博、細野晴臣、高橋ユキヒロ、松原正樹、鈴木茂など。ブラスもストリングスもシンセなどまだ無いから全部ナマ楽器である。
〈渚にて〉にのみ、大井貴司のヴァイブラフォンが入っていて、終曲の〈Simple Song〉はストリングスと坂本龍一のピアノのみという構成である。

このアルバム全体から感じる気怠さのような、南佳孝独特のアーティキュレーションがこの時代特有の雰囲気を伝えてくれる。たぶんこの頃がこの国のポピュラーミュージックの最盛期だったのではないかと思えてしまう。

歴史のメジャーとしての松任谷由実を例にあげれば、79年には2枚のアルバムがあって、それは《OLIVE》と《悲しいほどお天気》であるが、翌80年に最も暗いアルバム《時のないホテル》がリリースされている。何かで読んだのだが、松任谷由実のアルバムにはレコードにのみ封入されている付属物があって、それはCD発売の際はオミットされているので、オリジナルアルバムは重要なのだそうである。
ユーミン結婚後の《紅雀》から《時のないホテル》あたりまでのアルバムは、以前はあまりパッとしないような印象だと勝手に思っていたのだが、実はこのへんが傑作群であり〈奇蹟の3年間〉のようにも思えてしまう (一応、念のために書いておくと〈奇蹟の3年間〉とは樋口一葉の〈奇蹟の14ヵ月〉のパロディである)。それは若い頃には良さがわからなかった南佳孝と同様であって、人間の感性というのは年齢とともに変わるものなのだ。

ということで数日前に《時のないホテル》のLPも見つけてしまった。あとは谷山浩子の初期のLPが2枚、ちわきまゆみの4曲入り12インチが1枚、以上はすべて中古盤であるが、佐藤奈々子の《Funny Walkin’》とコシミハル+細野晴臣の《Swing Slow》は再プレスの新盤である。
そんなにたくさん買って、と思われるかもしれないが谷山浩子のキャニオン盤《ねこの森には帰れない》は税込330円だった。多少ジャケットが灼けているがきれいで、しかもおそらく一度も針を下ろしていない。
村上春樹は中古盤を買うとき、出せる金額は上限で5,000円くらいと書いているが、私の場合はどんな貴重盤だったとしても2,000円くらい。それ以上は無理です。

佐藤奈々子の初期LPが再発されたのはちょっとびっくり。佐藤奈々子は日本のブロッサム・ディアリーというわけではないけれど特徴的な声を持っていて、だからカヒミ・カリィのようなフォロアーを生んだ渋谷系の元祖とも言われているが、でも後年はフォトグラファーになったりして、さらにいえばピチカート・ファイヴの〈Twiggy Twiggy〉の作詞作曲者としても知られる。野宮真貴で聴いたときも、この佐藤奈々子とは結びつかなくて最近になってそれを知った。《Funny Walkin’》のLPは日本コロムビアからもうすぐ再発されるが、私が購入したのはBeat Ball Musicレーベルの輸入盤である。この盤は180g重量盤なので、音にこだわるのならばコロムビア盤よりもこれだと思う。

今はYouTubeを探せば《SPEAK LOW》だって下にリンクしたように全曲が聴けるのだが、そして音楽さえ聴ければそれで十分ならそれにこしたことはない。でも実体 (メディア) が無いと聴いた気がしないのは悲しい性である。このLPにはインナースリーヴがあってそれに曲名と歌詞が印刷されていて、さらにポスターが6つ折りにされて入っていた。CDだとポスターを封入するのは無理よねぇ。
尚、《SPEAK LOW》といえば普通はウォルター・ビショップJr.の同名アルバムのことであって、ビショップJr.の唯一の傑作アルバムともいえるが、南佳孝はそれを知りながらわざとタイトルにしたのだと思われる。


南佳孝/SPEAK LOW (Sony Music Direct)
https://tower.jp/item/3197444/SPEAK-LOW

南佳孝/SPEAK LOW [Full Album]
https://www.youtube.com/watch?v=hLI4WrmbuYw

佐藤奈々子/Funny Walkin’ [Full Album]
https://www.youtube.com/watch?v=o28-ePxcQuY
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Labyrinth

南佳孝懐かしいです♪
アノ人関係ですけれど… f^_^; 石川県のスキー場の夏のイベントで聴きました。
今思えば、とても贅沢な話だな~ と思います。w 私事でスミマセン。
by Labyrinth (2022-01-10 02:57) 

lequiche

>> Labyrinth 様

コメントありがとうございます。
一里野音楽祭というのですね?
コンスタントに音楽活動を続けられているかたは
ホントに素晴らしいと思います。
継続は力なり、です。(^^)
by lequiche (2022-01-10 05:41) 

末尾ルコ(アルベール)

南佳孝は10代の頃はぜんぜんいいと感じてなかったですし、それどころか(何、このくさい歌い方するおじさん?)くらいに見てたんです。ところが最近聴くと、(ええ?こんなに素敵な歌い手だったの??)と吃驚。だから10代、20代程度の理解力でものごと結論づけてはいけないとつくづく思いますし、現在そうした年齢の方々にも強くそうアピールしたいです(笑)。
もちろん若い時期の感覚というのは大切ですが、わたしの実感としては、年齢を経ても若い時期の完成を保つことは可能であるけれど、若い時期に経験を経た人間の感覚を持つのは極めて難しい、あるいは不可能ではないかと感じてます。
それにしても南佳孝の演奏者は凄いですね。かつては興味がなかったこともあり、YMOのメンバーとの繋がりなど知りませんでした。

佐藤奈々子は知りませんでした。少し視聴してみましたが、いいですね。聴いていて心地い。今後も聴き続けてみます。

わたしも「実体」を求める一人でして、だから電子書籍もやってませんし、映画鑑賞も、さすがにそろそろNetflixは導入しようとは思ってますが、本来はBDに録画しておきたいのです。
電子書籍っていうのは、実体がないのもそうですが、そもそもスマホの画面を延々と見続けるっていう行為が好きではないのです。美しくない。
そう言えば、延々と立ち読みすることに関してのご批判をされてましたが、確かにその通りですね。何でしょうかね、売り物の本を熟読する行為って。さらに言えば、昨今は書店に併設されたカフェで売り物の本を「読んでいい」というビジネススタイルが普通になってますが、わたしあれもダメなんです。コーヒー飲みながら買ってもない本を延々と読めるっていう神経ではわたし、ないんです。

ビュトール、おもしろそうですね~。いずれ手にしてみようと心はメラメラ燃えてます(笑)。
『幻戯書房』という名もいいですね。この名前、どうしても乱歩の『化人幻戯』を連想するのですが、こうした出版社が存在するというだけで嬉しくなります。

塚本邦雄の作品も少しずつ読んでます。いやいやいやいや、(なぜ今まで読んでなかったのか!)と我が身の不明を反省するばかりです。でも今からでも遅くないですよね。お教えいただきこれまた感謝です。

>踏み込まれるはずのない私の夢の領域に入って来られて

素敵ですね。わたし、軽やかな神秘主義者であるとであるという自覚を持ってるんですが(絶対ファナティックにはならないという意味などで)、どこか人間が普通は自覚できない次元が存在していて、そこでは共通する感性や、あるいは感情などで繋がっているのではないかとか、漠然と夢想しています。そんなわたしの夢想をさらに掻き立てていただけるお話でした。     RUKO            

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-01-10 07:19) 

ゆうのすけ

まさに CITY POPS の大名盤ですよね。^^♪~
最近はまたアナログブームが加速しているようで シングルは
勿論なんですがアルバムのいわゆる中古盤を求める方が若い層に
かなりいらっしゃるとか!^^
今は なかなか時間ないんですが 界隈に中古盤を扱う店舗が
あまり無かったころ(私の中学生から高校のころ)は渋谷・神保町
・新宿とかに単にレコード屋さんだけに行く目的で遠出するのが
何より楽しかった頃がありました。盤質は気にせず とにかく手に
入りにくい盤も聴ければ良くて!あとになって綺麗なジャケット
だったらもっと良かったのにと思ったものでした。
手の込んだ作品はライナーノーツも楽しみで。^^
たまに夢に見ることもあるんですよ。場所はどこだか判らないん
ですが あの先の角を曲がったところに確か中古屋さんがあった!
なんて夢の中で歩き回ってたり。たまには独特の香りする
(古くからの)店に足を延ばして 手探りでジャケットを
かき分けたい衝動に駆られるんです。
私のメインはシングルなんですが。^^☆彡
あ、ユーミンの『時のないホテル』結構好きなんですよ。^^
中学の時に聴いた時は 意味が良く判らない大人の世界でした。
by ゆうのすけ (2022-01-10 17:45) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

南佳孝の歌唱は独特のクセがありますから、
それが好きになれるかどうかというのは踏み絵です。(笑)
1stアルバムは松本隆が大変に力を入れて作ったので、
それがよかったのか悪かったのか、
南佳孝にとっては枷になってしまった部分があるように
私には思えます。
そして郷ひろみへの曲提供は当たりましたが
それが全てではなくて、むしろそれも枷になったのかも。

当時のスタジオ・ミュージシャンというのは
今よりずっと少数で回していたので
あちこちで同じ人が演奏しているというようなことが
起こっていたようです。

佐藤奈々子はちょっと 「外した」 感じがあるので
当時、こういう歌い方で通してしまったというのは
プロデュースがすごかったのかそれともバカだったのか、
ともかく異色といっていいのではないかと思います。
昨今のシティ・ポップ復活に際して
だんだんと名前が見られるようになったのですが
アナログまで再発されるとは思いませんでした。
ただ、今はともかくアナログブームです。
でも同時にこの時期のレコード発売が
最後のレコードになってしまうような可能性もあります。

「コーヒー飲みながら買ってもない本を延々と読」 むというのは
スーパーなどでレジを通す前にお菓子を食べてしまう子どもと
同じような気がします。
社会のセオリーを知らないからなのですが、
この頃は大人になってもそれをやる人がいるみたいです。

ビュトールはいわゆるヌーヴォーロマンの作家ですが
小説を書いていたのは初期だけで、
一番有名なのは倉橋由美子とセットでよく語られる
『心変わり』なのはご存知だと思います。(^^)
しかしやがて小説を書かなくなり、
小説以外の形式で書くようになりました。
レペルトワールもその一環ですが、やや晦渋です。

幻戯書房は辺見じゅんが興した会社です。
彼女は角川書店の角川源義の長女で、
つまり辺見じゅん、角川春樹、角川歴彦という姉弟です。
ちょっと変わった本を出していますが、
ルリユール叢書という同じような装幀のシリーズがあって、
最近、私はオルコットの『仮面の陰に あるいは女の力』
というのを買いました。

塚本邦雄は短歌でしたら、まず思潮社の現代詩文庫で読む
というのが基本的な方法かもしれませんが、
小説とか評論などは何から読めばよいかというと
意外にむずかしいです。
私はゆまに書房版の塚本邦雄全集を持っていますが、
最近の全集の中では最もすぐれた内容と造本です。

土岐麻子はフレンチ・ポップス系のイメージもあり、
いわゆる渋谷系な感じかなと思っていたのですが
成長しましたね。
大貫妙子とのデュエットの頃はまだ初々しい印象があります。

大貫妙子×土岐麻子/いつも通り
https://www.youtube.com/watch?v=qqJ_d-NoCyo
by lequiche (2022-01-12 04:37) 

lequiche

>> ゆうのすけ様

ゆうのすけさんがそう言われるのなら
名盤で間違いないですね。(^^)/

アナログ盤は少し前まではディスクユニオンで
古いジャズを探すおじさんみたいないめーじがあったのですが、
今はJ-popも含め全方向全年代に拡がっています。
確かにブームなんです。
でもレコード屋巡りの夢を見るというのは
かなりマニアックなのではないでしょうか?

小西康陽もレコードはシングルと言っていますし、
ポップスは基本的にシングルだと思います。
ただ私はそこまでマニアックではないので
目についたアルバムを買っておけばいいという程度で
逃がした魚はすぐに諦めます。(^^;)

《時のないホテル》は
まるで 「去年マリエンバードで」 みたいなホテル関連の曲も
良いんですが、そうした暗い曲群の中に入っている
〈よそゆき顔で〉、これです。
2番の歌詞がたまらないですね。

 砂埃りの舞うこんな日だから
 観音崎の歩道橋に立つ
 ドアのへこんだ白いセリカが
 下をくぐってゆかないか
by lequiche (2022-01-12 04:37) 

Rchoose19

おはようございます。
今年も宜しくお願いいたします♪
南佳孝さん。大変懐かしいです(#^^#)
by Rchoose19 (2022-01-12 08:05) 

lequiche

>> Rchoose19 様

新年のご挨拶ありがとうございます。
懐かしいですか。
この時代にこれだけのクォリティは
なかなか無いのではないかと思います。
by lequiche (2022-01-13 03:12)