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『ステレオ時代80’s』を読む [音楽]

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RA MU/Thanks Giving

書店の音楽雑誌売場に『ステレオ時代80’s』というムックがあって、中を見たら1980年代のラジカセの写真がたくさん掲載されていて、こんなの需要があるの? と思ったのだがあまりにばかばかしくて面白いので買ってしまった。出版元はネコ・パブリッシング。なるほどそういうことか。

よく読むと最近はまたカセットも人気復活みたいな傾向はあるのだけれど、といって市場で販売されているのはMade in Chinaのプアな機種がほとんどで、それよりも昔の、いかにも機能満載みたいなメカニカルな外見のラジカセを修理して使ってしまおうということらしい。そういう店の紹介もあるのだが、イチオシの機種は三洋電機製でしかも初期モデルのほうが良いのだという。というのは後期になると部品に金属製でなく樹脂製が混じるため、頑丈でなくなってしまっているというのだ。とはいってもすでに部品はないわけだし、同じ機種からの部品とりというのが実情で、現実はそんなに夢物語ではないような気がする。

電化製品に限らず昔の機械のほうが頑丈に作られているのは確かで、今の機械は10年も経ったら壊れるようにわざと脆弱に作られていて、それはモノを大切に使おうというまことしやかに掲げられている近年の理念とは逆行するもので、リサイクルとかレジ袋撤廃とかいうごく些細なことだけには熱心だけれど、それはめくらましに過ぎなくて、肝心の巨悪の根源は全く解消されていない。資本主義とはそういうものだ。

というようなことはとりあえず忘れておいて、このムックに掲載されている電機メーカー各社の写真はおそらくカタログなどからとったものだと思うのだが、こうした機種が百花繚乱だった時代は、つまりFM雑誌の全盛期とカブるのだと思う。一番お手軽な利用法はラジカセでエアチェックという方法なのだから。
私がこのムックに引き込まれたのはなによりもそのラジカセの容貌へのガジェット的興味であり、というのは私はエアチェックの記事にも書いたが (→2021年10月02日ブログ)、エアチェックブームというのを知らないだけでなく、そもそもラジカセというものを所有したことがないので、あっ、面白そうな電気機器がある! というようなわくわく感なのだ。
ラジカセというのはオールインワンなオーディオ機器で、簡単に持ち運べるし屋外でも使えるし、それだけで一定の需要が満たされる。むずかしい結線もいらないし、カセットはCDやレコードよりもずっと取り扱いが簡単だ。瞬時の徒花なのかもしれないが最近、カセットメディアが少しだけ注目されているのもわかる。

でも、じゃぁ古いラジカセを買うかというとたぶん買わないだろうと思う。あまりにリスクが大きいように思えるからだ。ただ、その当時の音楽に関する記事 (主に日本の) がちょっとあって、これがなかなか面白かったのでそれについて書いてみたい。

その頃のドメスティックな音楽は基本的には歌謡曲なのだと思うが、紹介されているジャケットデザインがもう泥臭くて (今だったらこんなのボツだよね〜)、もっともなかにはまぁまぁシャレているのもあるのだけれど、バブル前夜のエネルギーみたいなのが感じられて頼もしい。
ジャケット写真と数行の解説だけを頼りにして、YouTubeでその曲を探してみた。

ラ・ムーの《Thanks Giving》というアルバム。これはかなりバカにされた作品らしいのだが、でも結構聴ける。ヴォーカルは菊池桃子なのだが、その声質が音楽と見事に合っている。最近になって人気が出て、再発されたアナログ盤も完売してプレミアがついているようだ。

嵯峨聖子の《シーサイド慕情》というシングル。まず、やる気のまるでない地味なジャケットデザインが最高。中身は解説にもあるがなんちゃってベンチャーズ歌謡で (ちょっとスプートニクス・テイストもあり)、でもそのベンチャーズ風味なのがいい味を出している。作詞:庄野真代、作曲:小泉まさみ、編曲:後藤次利で、ネットで検索したらギターは鈴木茂とのこと。これは買いです。

石川秀美の2ndシングル《ゆ・れ・て湘南》。作詞:松本隆、作曲:小田裕一郎、編曲:馬飼野康二です。歌詞にPlease Please Me、My Little Girl、Hold Your Handとビートルズが出てくるのが松本隆らしいギミック。リンク動画はおそらくレコード大賞の映像だと思うのだが、このオーケストレーションはひどい。というより演奏の音のバランスがメチャクチャなのだろうか。でも80年代だとライヴの音ってこんなものだったのかもしれない。歌の1小節目のオケのリズムにちょっと仕掛けがあるような気がする。シングルの演奏では普通にスッと入るので、レコード大賞、歌謡大賞向けに変えたのかもしれない。
ベスト盤《ペパーミント》の中古盤は220円でした。ペパーミント・グリーンのヴィニル。

沢田研二の〈カフェ ビアンカ〉はアルバム《G.S. I LOVE YOU》に収録されている曲。作詞:三浦徳子、作曲:かまやつひろし。劣悪な動画きり見つけられなかったが、AKGのD-12で歌うまだ若い沢田研二。この時代にかまやつひろしのセンスはさすがである。タイトルのG.S.はもちろんグループサウンズのことだが、同時にビートルズの曲名〈P.S. I LOVE YOU〉のパロディになっている。

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嵯峨聖子/シーサイド慕情


ステレオ時代80’s (ネコ・パブリッシング)
ステレオ時代 80's (NEKO MOOK)




ラ・ムー (Ra Mu)/Thanks Giving (Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=1BFgVgLL5Kk

嵯峨聖子/シーサイド慕情
https://www.youtube.com/watch?v=hy7tRzS6fKY

石川秀美/ゆ・れ・て湘南 (1982.11.24)
https://www.youtube.com/watch?v=q0qBr82_7XE

沢田研二/カフェ ビアンカ
https://www.youtube.com/watch?v=DwyR7AyD-f0
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末尾ルコ(アルベール)

ラジカセはわたしここ10年くらいで3~4回買ってます。価格帯はだいたい1500円~5000円ですから、何かよくわからないけどすぐ使えなくなっちゃうんです。まさに安物買いの銭失い。けれど今使ってるのは1年半ほど稼働しています。
で、最近は車のCDプレイヤーがいかれちゃったんで、ラジカセを後部座席へ置いて録画しといたテープを聴いてます。

>肝心の巨悪の根源は全く解消されていない

ホント、そうですね。日本っていろんなことの「根源」に関しては、メディア上はもちろんのこと、日常会話の中でも一般の人たちの間ではタブーにたってますし、そもそもそこまで意識が回る人はとても好きない。タブー、とても多い国ですね。

ちなみにわたし、ウォークマンやMDは使いませんでした。特に拒絶していたわけじゃないですが、人生の流れでそうなってしまいました。でもラジカセを屋外へ持ち出すって、とてもロックだと思います。
それとカセットテープのソフトもけっこう買ってました。レコードはどうしてもノイズが気になりまして、カセットだとその心配はあまりないですが、テープが絡んだりすると悲惨なことに。カセットのソフトは同じ内容のLPと同額でしたから。

>ラ・ムーの《Thanks Giving》

聴けましたか!そうなんです、バカにされまくってました。なにせ「菊池桃子がロックに転身!」的な売り出し方でしたから。歌番組で歌ってた姿も明瞭に記憶しております。
《ゆ・れ・て湘南》もよく耳に入ってきましたが、松本隆だったんですね~。




>オンド・マルトノってどうですか?

外国人が見たり聞いたりするのと、その言葉が母国語に人が見たり聞いたりするのとではまた印象がまるで違うところがおもしろいですよね。わたしの戸籍上の名前(笑)って、自分としては(地味だなあ~)とずっと思ってるんですが、ある時英国人女性が「エキゾティックでカッコいい!」と言うので驚きました。
日本人が大好きなフランス語ですが、でも「プポー」とかの発音は日本人にとってはおかしく聞こえますよね。でもフランス人にとっては普通なのだし。ただ昨今はロシア系の名前をつける人も多いといいますね。

トレイ・ガン、すべてではないですが視聴させていただきました。音が綺麗だし、指の動きもとても綺麗。
クリムゾンの『ディシプリン』は大好きなアルバムです。確か「フレーム・バイ・フレーム」なんかも入ってましたよね。この曲、いまだになぜかしょっちゅう脳裏でかかってくるんです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-01-28 19:53) 

ゆうのすけ

記事に登場してくる作品だけでも名(迷)曲ばかり。
「シーサイド慕情」嵯峨聖子は渋いです! ^^v
アナログ盤はなかなか手に入らないんですよね。^^石川秀美は今年の3月でデビューからまる40年になるんですよね。この時代 私はいわゆる青春時代と言う真っ盛りの中。二度と戻れないんだけれどこのムック本を手にして気持ちだけでもあの頃に戻りたいです。^^
(私は なんで世間はそんなにけなすのかな?と思いながら ラ・ムーの作品を聴いてましたが このアルバムは未聴。ラストの作品かも。昨今のシティ・ポップス・ブームの後期 林哲司さんが手がけた 菊池桃子ソロ作品は隠れた名曲多いんですよね。故 本田美奈子.さんがロックバンドを組んだ時も 菊池桃子さん同様に けなされちゃったのは残念でした。^^;脱線。。。)
大きなラジカセ憧れましたが買えなかったですね。ステレオのラジカセは持ってましたが 夏は(今は禁止されてるところが多数ですが)好きな(行く前日まで選曲して作った)カセットを持って 海水浴の必需品でしたっけね。昨今の夏の暑さは異常な気がしますが あの頃の暑さって まさに夏という喜びもありました。80年代か・・・。今と同じく経済的に余裕はなかったけれど 今以上に夢が膨らむ毎日でした。関係はなかったけれど 否、そこに私の心のバブルもあったんだ!そうだ、あったんですよね。今日も頑張ろう!^^☆彡
by ゆうのすけ (2022-01-29 02:31) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

1,500〜5,000円!
それは安過ぎます。
日本のメーカー品を買ったほうが良いです。
たとえ中国生産だとしても管理が違いますから。

肝心のものを避けてその周辺でウロウロしているのは
日本においてよく見られる悪習です。
簡単な例がレジ袋で、レジ袋をなくすより前に
スーパーなどでパッケージングに使われている
プラスチックや発泡スチロールの容器をなくすことのほうが
先なんじゃないでしょうか。
レジ袋などより大量に石油原料を使っているはずです。
でもそういうところには触らない。不思議です。
昔のように天然素材の容器に戻せば良いじゃないですか。
ペットボトルもガラス瓶に戻せばいいのにそうしない。
そんなことしたら大企業が儲からないから。
昔のカメラは金属で作られていたのに、
今のカメラはかなりの高級機でもプラ全盛です。
安っぽいプラスチック。必ず劣化するプラスチック。
合成皮革だってそうです。
わざと安っぽくて耐久性の無い製品を作る。
石油をじゃばじゃば使って。企業に良心はありません。

ウォークマンは私も使ったことがないのです。
だって耳のそばで、もしくは耳の穴にスピーカーを入れて
音を聴くのって耳に負担がかかりませんか?
基本的に大音量の音を長時間聴くのは私には無理です。

ラ・ムーというのは初めて聴いたので
当時の評価がどうだったのかは知らないのですが、
レベッカだってマドンナのパクリだとか
さんざん言われていましたよね。
必ず否定的な意見を言う層は一定数存在するので
それはそれで仕方がないのだと思います。

各言語にはそれぞれ特有の発音があって、
それに慣れていないと奇妙だったりおかしかったりします。
タモリがやっていたデタラメ中国語なんかもそうです。
逆にいえば日本語にも外国人が聴いたら笑ってしまう音が
きっとあるはずです。

ディシプリンは最初どこがよいのかよくわからなかったです。
むずかしい運指の練習のようで。
そういうことだけとってもクリムゾンは
単にプログレというだけでなくて、
やや特殊なポジションにいると思います。
by lequiche (2022-01-30 04:38) 

lequiche

>> ゆうのすけ様

嵯峨聖子をご存知なんですか。さすがです。
それともこの手の音楽では結構有名なんでしょうか?
EPは今、お金さえ出せば買えるところを見つけましたが
私はコレクターではないのでそこまでの金額は出せないです。
でもマニアな人なら買うんだろうなぁと思います。
この曲、楽しんで演奏しているというのが感じられて
一種のギャグなんですけど高級なギャグですね。
ベンチャーズもオリジナルメンバーの最後のひとりが
先日亡くなってしまいました。諸行無常です。

石川秀美は私はほとんど知らないのですが
CDはほとんど手に入らないですし
レコードがメチャ安いのでLPを5枚買いました。
ちょっと変わったものがあるととりあえず買っておくのです。
たとえば西脇唯の8cmCDはほとんど持っています。
こういうのはファンが放出するのでしょうね。

wikiによればラ・ムーのアルバムはこれ1枚だけです。

林哲司のmelody collectionのことは
先日の記事に書きましたが、
3種類あるうちのVAP盤にかなり収録されています。
これです。
https://tower.jp/item/5205785/

本田美奈子のロックバンドもYouTubeで探してみましたが
見た目が浜田麻里みたいですね。
そんなに悪くはないですが、
いろいろ試行錯誤されたのでしょうか。
浜田麻里といえばごく初期には太っていたはずなんですが
その画像が全く無くなっているのはすごいなぁと思います。

大きなラジカセはやっぱり高価だったのでしょうか?
なるほど、今は禁止されているんですか。
それは知りませんでしたが、冷静に考えると海水浴場で
やたらラジカセが鳴ってたらうるさいですよね。(^^)
by lequiche (2022-01-30 04:40)