宇多田ヒカル〈Find Love〉 [音楽]
宇多田ヒカルのニューアルバム《BADモード》が2月末に発売されたが、YouTubeではすでに動画が公開されている。〈Find Love〉はSHISEIDOグローバルキャンペーン “POWER IS YOU” としてウルスラ・コルベロをメインとしたTVCMに使われている曲だ。
そして今、Hikaru Utadaのオフィシャルで観ることができるのは、1月に行われた配信ライヴからの映像である。
ライヴといっても無観客でAir Studiosというスタジオにおけるセッションなのだが、すべてがマニュアル (という言い方はおかしいが、つまり手弾き) で出されている音だとのこと。この複層したリズムとそれに重なるメロディラインが美しい。そして
So I gotta watch out
Who I share my affection with
と歌われるところで突然ドラムが止まり、リズムをキープしたままのヴォーカルに重なる微妙にズレたパーカッシヴなシンセがポリリズム風で技巧的だ。全体の音の総量は少ないながらその織りなす綾が奥行きを感じさせてくれる。瞬間的に加えられるディレイや、ぼそぼそと鳴っているくぐもったシンセなど、宝探しをしたくなるようなよく聴かないと見逃してしまう音たち。
ただこれは私がそう感じているだけなのかもしれないが、長い休止の後に出されたアルバム《Fantôme》以降の音は、つねに薄いシルクのような憂鬱に覆われていて、それが音楽を聴くという素直な願望から少しはずれた苦いしこりのようなものを残す。それが憂いなのか悲しみなのかよくわからないし微かな印象に過ぎないのだが、音楽からリスナーが得ようとするカタルシスをやわらかに、けれど毅然と阻止しているように思うのだ。歌詞にあらわれる妙にリアリティ過ぎる固有名詞などに惑わされてしまうのだが、テーマはそこには存在していなくて、それらの集合体から形成されるもっと異なった何か抽象的なもの——その抽象性が楽しいことも不快なことも、ソフィスティケートされた緩衝体となってリアリティを包み込む。
けれど〈Find Love〉ってデビューの頃の〈First Love〉を連想させるタイトルだよね、字面も似てるし。と誰かが言った。もちろんそんな言い分は単なるギャグに過ぎないのかもしれないが、でも若い頃の〈First Love〉もその時代/その世代の憂鬱が垣間見えて、つまりなぜ1stアルバムのタイトルが一番ヒットした〈Automatic〉でなくて〈First Love〉なのかということは、その頃にも漠然とは感じていたが、今あらためてその先見性と独自の感性を辿ってしまうのだ。
宇多田ヒカル/BADモード (エピックソニー)
宇多田ヒカル/Find Love
https://www.youtube.com/watch?v=6Xa_buSI01c
宇多田ヒカル/Face My Fears (English Version)
https://www.youtube.com/watch?v=P6fHi2hmG1Q
SHISEIDOグローバルキャンペーン “POWER IS YOU”
https://www.youtube.com/watch?v=vsPqwSAILCo&t=4s
宇多田ヒカル/First Love
https://www.youtube.com/watch?v=o1sUaVJUeB0
最近顔がスッキリされて 若かりし頃のお母さんに
そっくりになってきましたね。＾＾♪～
by ゆうのすけ (2022-03-04 20:37)
>> ゆうのすけ様
顔がスッキリ ← そ、そこですか。(^^;)
まぁそうなんですけどね〜〜〜。(笑)
by lequiche (2022-03-05 00:25)
このライブ、服装などもカジュアルな感じて、ちなみにわたし、白いシャツが似合う女性にグッと来るのですがそれはさて置き、演奏もカジュアルのように感じさせつつもとても緻密に計算されている、そんな印象です。
「音の総量」の少なさ…確かにそうですね。なにかこう本物の剣豪が（←すぐ剣豪の譬えを出そうとする 笑）その構えにも動きにもまったく無駄な力が入ってない境地と申しますか、あるいは超一流のバレリーナが過酷な鍛錬の末に手に入れた空気の如きムーヴマンであるとか、そんなことが頭に浮かびました。
＞宝探しをしたくなるような
素晴らしいご表現ですね～。うっとり…。
＞カタルシスをやわらかに、けれど毅然と阻止しているように
こういう姿勢が本物の芸術家の一つの姿なのだと思います。ある時期から日本の音楽、だけでなく多くの「表現」が「期待されるカタルシス」に迎合し過ぎて、一旦その方向性を取るとどんどん下へと堕ちていくことが多いという、そんな状況がずっと続いているのかなと。そんな中で宇多田ヒカルなど「毅然」とした人たちが抗っている。
お話し少し逸れますが、日本で使われる外国語は原語の意味から大きく外れること多いですが、昨今の「エンターテインメント」あるいは「エンタメ」という言葉の使い方にも少々気持ち悪さを感じています。「エンタメに何ができるか」とか。
ともあれ宇多田ヒカル、これからも熱く聴いていきたいと思います。前にも書かせていただきましたが、「神々しさ」を感じさせてくれる稀な日本人シンガーです。
＞それだけで音が出るからです。
確かに。それとわたしの中学時代、何やら周囲は圧倒的フォークなメンタリティでした。もちろん和製フォークでしかも売れ線の。
ブームタウン・ラッツ…いましたねえ。わたしも聴いてたんですが、このバンド名がなかなか脳裏に出てこなくて、だから久々に思い出せてすっきりしました。ボブ・ゲルドフはもちろん覚えてますのでその名で検索すればいいようなものですが、そこまでの情熱はなかったといいますか。
２月の『しおこうじフォーク村』にも杉真が出てました。ビートルズメドレーとかやって素敵でしたが、「ウィスキーが、お好きでしょ」も作曲してたんですね。凄いですね。 RUKO
by 末尾ルコ（アルベール） (2022-03-05 19:01)
>> 末尾ルコ（アルベール）様
大貫妙子の〈新しいシャツ〉も
平松愛理の〈部屋とYシャツと私〉も、
歌詞に出てくるシャツの色はたぶん白ですね。
でもどちらも相手の男性の着ているシャツのようです。(^^)
このライヴで宇多田ヒカルの着ているシャツは
ゆったりとしていて丈も長くシャツワンピのようですし、
凝ったデザインのように見えますが
ブランドは特定できませんでした。(笑)
ウォール・オブ・サウンズのように
音だらけにする音楽もありますが、
引き算の音づくりにむしろ心が惹かれます。
これはプリンスの音作りにも通じる考え方だと思います。
音数は多くないけれど、かなり凝っているというのの例として
この宇多田の曲でもグロッケンのような音が
エフェクトのように一発だけ鳴るとか、
もう聴けば聴くほどその深さがわかってくるというか、
つまりDeep Riverですね。
(Deep River＝宇多田のアルバムタイトルのシャレです ^^;)。
たとえばYMOの音も、ヘッドフォンで聴くと
細かい部分が分かってくるという評価をされていましたが
そういうのと似ています。
外国語をその意味から変化させて使うのは日本の得意技です。
ご指摘の ｢エンタメ｣ もそうですが、
最近使われている ｢エモい｣ という言葉も ｢キモい｣ です。(笑)
最初 ｢柄本明みたい｣ という意味かと思っていました。
気持ちの悪い言葉は自分で使わないようにするしかないです。
松任谷由実、椎名林檎、宇多田ヒカルの三羽ガラスは
何やってもいいというのはかつての東芝EMI在籍の頃に
言われていた伝説です。
ブームタウン・ラッツはアリアというギターメーカーの
限定製造モデルというのがあったので覚えています。
レスポールを変形させたようなシャレたシェイプで、
センスのよいデザインでした。
杉真理は提供曲とかCM曲などとても多彩です。
〈ウイスキーが、お好きでしょ〉は石川さゆりですが、
カヴァーがとても多い曲ですね。
by lequiche (2022-03-07 02:32)
こんにちは。
宇多田ヒカルさん、またきれいになりましたね。大人の女性の美しさがにじみ出ている感じです。着飾らないので、かえって美しさが目立ちますね。
4曲聴かせていただきました。どれもいい曲ばかり。First Loveからしていいし、ボーカルもすばらしい。私の１番の好みは「Find Love」かしら。演奏がノリがいいですね。
アルバム買いたいです。
by coco030705 (2022-03-13 15:27)
>> coco030705 様
リンク全部をお聴きいただきありがとうございます。
宇多田ヒカルは15歳でデビューして〈First Love〉が16歳ですが、
16歳でこの歌詞と曲想は何なんだ？ という驚きがありました。
その時点から非常に完成されたものを持っていて
それは年齢を重ねてもそんなに変わっていないという感じがします。
ジャケット写真も部屋着みたいで、
こんなのでいいの？ と思ってしまうのですが、
そういうのも含めて宇多田ヒカルなのです。
〈Find Love〉がお好きというのはとても現代的で
今の音楽シーンの最もすぐれた音に感応しているのだと思います。
アルバム全体を是非お聴きになってみてください。
by lequiche (2022-03-14 03:46)
こんばんは。またお邪魔します。
宇多田ヒカル/BADモード、買いました。シンプルを演出しているような箱の中には、CD、BD、DVDが入っていて、しかもあのユニクロの部屋着のような服装のヒカルさんの大判ポストカード（同じ衣装）が11枚も入っています。部屋、キッチン、リビング、庭、ベッドルームなどで撮った写真。子どもと一緒に写っているのもあります。（顔は見せていません）いい写真ばかりですよ。
肝心のCDのほうは、これがまたいいですね～！毎日聴いてもきっと飽きないし、全然邪魔にならないという音楽が、気に入りました。
by coco030705 (2022-03-17 22:43)
>> coco030705 様
限定盤をお買いになったんですか。
動画を観るためには限定盤でないとダメですから
賢い選択だと思います。(^^)
私も限定盤のほうを購入しました。
何かの部品が入っているようなパッケージですよね。
宇多田ヒカルは歌詞もそうですが、
音作りが常に先へ先へ行っているように思います。
少し経ってから、あぁそういう意味の音なのか
と思うことがよくあります。
by lequiche (2022-03-18 02:32)
宇多田ヒカルの限定版をおしえていただき、ありがとうございました。
by coco030705 (2022-03-18 22:34)
>> coco030705 様
いえいえ、私は通常盤しかリンクしていません。
限定盤にされたのはcoco030705さんの選択眼です。(^^)
by lequiche (2022-03-20 04:02)