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『東京人』2022年6月号 「新宿歌舞伎町」 [本]

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新宿歌舞伎町タワー

前記事のつづきだが、映画《ブレードランナー》の新宿での封切館はミラノ座だった。雑誌『東京人』2022年6月号の特集は 「新宿歌舞伎町」 であり、そのミラノ座を含む過去と現在の歌舞伎町がとりあげられていて、面白そうなところをあちこち読んでいた。

知らないことも多くて、たとえばゴールデン街につながる遊歩道は 「四季の路」 (しきのみち) というのだそうだが、靖国通りがまだ都電通りだった頃、「新宿駅前から発着する都電十三系統が、角筈駅から大久保車庫に向けて分岐する回送ルート」 (p.35) だったのだが、1970年に都電は廃線となったのでその跡を遊歩道にしたのだという。《ブラタモリ》でもよく話題にされるが、道はその形状を見ることによってその由来がわかることを思い出す。

新宿ミラノ座の跡地には今、新宿歌舞伎町タワーという巨大ビルが建築中だが、そもそも新宿ミラノ座は新宿東急文化会館の一部であって、昔はスケートリンクも併設されていたのだという。ミラノ座は天井の高い大映画館であったが、中に柱を使わない大きな箱状の建築は非常にむずかしいのだそうだ。しかも映画館の上に同様な箱状のスケートリンクが載っていたわけで、現在建築中のタワーはその困難さを踏襲したさらに難しい建築になっているらしい。下層階に映画館や劇場、上層階はホテルになっているのだが、ホテルは構造的に柱が多く必要だから重いはずである。
このあたりの記述は建築論でもあり都市論でもあって、工事中の現場を囲む塀にエヴァンゲリオンの絵や森山大道の写真が使われたというのを読むと、つまり森山の写真も一種の都市論のように感じられる。

だがこの雑誌の記述は新宿歌舞伎町タワーを中心としていて、新宿東宝会館のことはあまり書かれていない。ミラノ座に対抗していたのは新宿プラザ劇場であったはずだが、プラザの名称はどこにも書かれていないのが残念である。
映画《スターウォーズ》の劇場パンフレットには劇場名が印刷されていて、「新宿プラザ」 と入っているパンフこそがステイタスであったはずだ (と思っているのは私だけ?)。
とは言ってもコマ劇場と東宝会館の跡地に建てられた新宿東宝ビルの屋上のゴジラの写真はしっかり載っているが。
掲載されている古い地図には淀橋区とか角筈1丁目という文字が読み取れて、角筈という地名があったことを思い出させてくれる。

KERAの述懐によれば 「新宿ミラノ座の斜め前に 「タロー」 というジャズクラブがあって、三階に 「新宿アートヴィレッジ」 という一六ミリ専門の小屋が入っていた」 (p.44) のだという。アートヴィレッジは知らないのだがタローにはかすかな記憶があって、それは沖至を聴きに行ったら本人が来なかったという悲しい記憶で、来なかったり休演だったりということによくめぐりあう私はよほど運が悪いのだろうか。日野皓正を太陽とすれば沖至は月の人で、私が惹かれるのはいつも月の人だったり冥府の犬だったりする。
それで思い出したのだが、たしかアケタの店に山下洋輔クァルテットを聴きに行ったことがあって、これはつまり武田和命の唯一のアルバム《Gentle November》のメンバーと同一だったのであるが、武田が遅刻して延々と来なくて、いよいよ登場となっってはみたものの、非常に難解とも感じられるソロを延々と吹き続けて、いやこれどうなのという雰囲気になった。もうすでに身体を悪くしていた時期だったのかもしれない。

『東京人』の特集に戻ると、ミラノ座の正面からの写真があるのだが、まだ噴水のある頃で、映画館の壁の看板はミラノ座が 「ロイビーン」 なのでおそらく1973年と思われるのだけれど、新宿東急で上映中なのは 「ダーティサリー」。こんな映画もあったんですね (ちなみにダーティ・メリーではありません)。

北大路翼の俳句がちょっと笑う。

 キャバ嬢と見てゐるライバル店の火事

新宿といえば西武新宿駅から地下に降りたサブナードはまるでシャッター街のようにも見えてしまったが、これもコロナの影響なのだろうか。歌舞伎町は元・青線で椎名林檎が歌ったように歓楽街で、李琴峰も書いているように怖い場所だったのかもしれない。だが次第にその様相が変化しているようにも思える。


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『東京人』2022年6月号特集は 「新宿歌舞伎町」
https://www.amazon.co.jp/dp/B09YDFBP2Y/

椎名林檎/歌舞伎町の女王 (齋藤ネコversion)
https://www.youtube.com/watch?v=v9X68cf40FU

山下洋輔トリオ リユニオン・セッション
https://www.nicovideo.jp/watch/sm22367480

武田和命/Our Days
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17837452

     *

椎名林檎/歌舞伎町の女王 (2016)
https://www.youtube.com/watch?v=tHAZKEoruUg
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末尾ルコ(アルベール)

ここ数年東京へは行っておりませんが、その数年の前は年に2~3度くらいのペースで行っており、その通常パターンが一泊二日でまず一日目の昼に映画鑑賞、夜はバレエ鑑賞、そして翌日チェックアウトして羽田から高知へというものでした。
故に東京のミニシアターはかなり訪ねているのですが、あらためてチェックしてみると、映画鑑賞したことを鮮明に記憶しているシアターと、(あれ?ここ行ったっけ??)と記憶曖昧なシアター、2通りあります。
イメージフォーラム、ル・シネマ、新宿武蔵野館、岩波フォールなどはとても鮮明ですが、ミラノ座は(行ったようなそうでもないような)シアターの一つです。
歌舞伎町に関しては、個人的に「夜の歌舞伎町」的遊びにはまったく興味がなく、したこともないのですが、バレエ鑑賞後の宿泊施設として当地のビジネスホテルを利用してましたので、夜半、あるいは朝方に歩いて歌舞伎町を突っ切って行くことしばしばなので、表面的な雰囲気は知っております。それにしても東京は街の隅々までおもしろさに満ちていますね。
『ロイ・ビーン』は大好きな映画で、ポール・ニューマン演じるビーンの、女優への崇拝ぶりが美しいです。その距離の取り方が素晴らしい。『ダーティ―メリー クレイジーラリー』はピーター・フォンダとスーザン・ジョージですね。こういうの、今まさに観たいです。

・・・

「SF的ヴィジョン」というご表現、分かるような気がします。もちろんlequiche様の思っておられる「SF的ヴィジョン」とわたしが想像するそれとが完全に一致することはないかもしれませんが。Leqiche様はSF小説も多く読んでおられて、わたしも多少は読んでいても、その量はさほどでもありませんので、SFそのものに対する理解度は遠く及ばないと自覚しつつ、いくつか好きなSF映画を挙げさせていただきます。

『2001年宇宙の旅』
『時計じかけのオレンジ』
『メッセージ』
『ブレードランナー』
『ゼロ・グラヴィティ』
『未来惑星ザルドス』
『トータル・リコール』
『大アマゾンの半魚人』
『遊星からの物体Ⅹ』

「SF的ヴィジョン」とは遠い映画もあるのでしょうが、何かしら惹かれるものばかりです。

・・・

『グレムリン』はわたしも映画館で観ました。同時期に『ゴーストバスターズ』が世界的大ヒットしてましたがイマイチ乗れず、『グレムリン』は当時のみけっこうスターだったフィービー・ケイツが、その後パッとしなくなっただけに、ある瞬間だけにほの明るい小さな光のようなイメージがあります。

>自慰的対象です。

まさにそうなんですよね。もちろんそれはそれでいいのですが、同時に俳優であれば俳優としての、歌手であれば歌手としての客観的評価もある程度は持つべきだと思うのですが、それがない人がとても多い。〈自分が好きである〉ことと「表現者として優秀である」ことは別問題であるのに、ごっちゃになってる日本人、多いです。批評眼を持てない人が多ければ多いほど、その国の文化状況は貧弱になってきますよね。


幼稚な人種というのは一定数存在する

確かに。そして今はそうした人たちでもネットへ書き込めば、時にけっこうな数の人々の目に触れるという問題もあります。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2022-06-05 20:04) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

映画館のことは東京に関してもお詳しいですね。
さすがです。
どの程度の規模までがミニシアターなのかが
よくわかりませんが、私はあまり映画館に行かないので
記憶にはほとんど残っていません。
入ったことがあるのかもしれませんが
館名を覚えていないだけかも、です。(^^;)

ミラノ座、新宿プラザ、コマ劇場、
この3館は皆大きく、しかも座席が見やすくて
まさに典型的な大劇場だったのですが
全て無くなってしまいました。記憶に残るのみです。
ミラノ座では大晦日に年をまたいで
オールナイトのジャズフェスがあった時期があります。
私は一度だけしか行ったことがありませんが
明け方に出演した絶頂期の山下洋輔トリオ、
最も先鋭で他のバンドがかすんでしまうくらいの
影響力がありました。

SF小説はそこそこ読んでいますが、
それほど広範囲ではなく好みが限られています。
ディプトリーJr.とル=グィン、この2人が
私の中では重要な位置を占めていることは変わりません。
もちろんそれ以外にも作家はたくさんいますが
作家そのものより作品の良否で判断するので
好きかどうかに関しては限定的です。

したがってSF映画といっても必ずしも食指が動かないので
そんなに観ている映画も多くないです。
SF映画というとどうしてもセンス・オブ・ワンダーというか
未知の未来的ガジェットやランドスケープに対する欲求を
どうしても過剰に感じてしまいがちですが、
そうしたSF的意匠をほとんどまとっていない点において
トリュフォーの《華氏451》とゴダールの《アルファヴィル》は
特異なポジションを占めているように感じます。

客観的評価云々よりもまず映画そのものが
日本ではエンターテインメント的な評価だけで判断される
ということが多いように思います。
つまりマスプロダクトであることがエライというような
金銭的な価値だけですべてが測られるような
経済至上主義的なランク付けで成り立っていると言って
間違いないのではないでしょうか。
ただ映画は上映という方法をとらなければならないので
そうしたシステムの中で評価されがちです。
芸術のどの分野でもそうですが、
ごく実験的な、評価する人の数など度外視した作品でない限り
どうしても価値を経済的判断に基づいて
されてしまうのは必要悪ともいえるのではないでしょうか。
by lequiche (2022-06-08 05:18) 

うりくま

「シダネルとマルタン展」を見た後、西口方面から見えた
建設中のあのビルが、新宿歌舞伎町タワーだったのですね。
雲の上みたいに見えるデザインが面白いと思いました。

1980年代後半、仕事帰りに同僚とよくあの辺り(ミラノ
座じゃないかもですが、新宿東口)で映画を観た事を思い
出しました。「ベルリン天使の詩」「スタンドバイミー」
「ジュリオの当惑」等々。で映画を観る前にハンバーガー
セットを買って噴水の縁に腰掛けて食べようとしたら、
コーンスープに虫・・の記憶も(^^;)。
東口にもさすがに様変わりしているのですね。
「角筈にて」という小説(浅田次郎)もありましたね。
by うりくま (2022-06-11 22:14) 

lequiche

>> うりくま様

シダネルとマルタン展、ご覧になったんですよね〜。(^^)
なるほど、あそこからは新宿歌舞伎町タワーが見えますね。
あのフリルのようなデザインは
外装デザイナーの永山祐子さんというかたの設計で
吹き上がる噴水をイメージしているとのことです。

ああぁぁ、コーンスープ……。
虫くらい無視しましょう。(ジョーダンデス 笑)
あのあたりは以前、映画館のメッカでしたし、
小さな映画館もありましたが
次々に閉鎖されてしまっていました。
映画街として復活するのは良いニュースだと思います。
満席になるような作品がどんどん上映されれば
経済だって復活するような気がします。
by lequiche (2022-06-11 22:51)