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坂本真綾《記憶の図書館》 [音楽]

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梅雨だからと毎日のように雨が降って、雨が上がればもう真夏の陽差しのような今日。ceroの〈Summer Soul〉はけだるい。スクラッチノイズを引きずるように。

FMで坂本真綾のアルバム《記憶の図書館》から〈ないものねだり〉が流れていた。まとわりつく雨のような、それでいて躍動的でスリリングなストリングス。坂本真綾の語るこのアルバムのコンセプトは、

 —全世界の人々の記憶を管理する記憶の保管庫、「記憶の図書館」。そこ
 で “廃棄された記憶” を回収する少年が、ほんの出来心から持ち主の窓
 辺に返す幾つかの記憶の箱。それを開けた瞬間、溢れ出たのはどんな音
 楽だった?―

〈ないものねだり〉は坂本真綾作詞、そして作・編曲はceroの荒内佑である。
ceroのアルバム《 e o》も《記憶の図書館》とほぼ同時期にリリースされているが、タワレコの『bounce』474号で荒内は、今回のアルバムについて 「ブリコラージュ的な遊びのアルバムですかね。遊びと言うと軽く聞こえるかもしれないですけど、汲めども尽きない深みを感じます」 と述べている。
また、自身のソロ作品について 「自分のソロは管弦楽器奏者がいて、譜面を書かなければ動かない音楽だったので、一音一音を精査する作業が必要だったんです」 ともいう。スコアを書くというその延長線上に〈ないものねだり〉があるのだろう。

昔、オービットの『ヤミと帽子と本の旅人』というゲームがあって、私はゲームそのものに疎いのでよくわからないのだが、そのコンセプトはやはり図書館であった。Wikipediaに拠ればそのストーリーは、「いくつものパラレルワールドを 「本」 として保管している 「図書館の世界」 へ紛れ込んだ主人公は、行方不明になった義姉の初美を探して様々な本の世界を旅する」 とあり、

 宇宙の星が全て図書館 (外から見ると星だが、内部に入ると図書館にな
 るということで惑星上に図書館があるのではない) になっており、銀河
 鉄道のような汽車でつながれている図書館 (書斎) 世界を舞台とする。
 なお、各図書館の内部デザインは6角形の塔一面に本が納められている
 特殊なものである。そして、図書館に収められる本の1つ1つが通常の
 宇宙を含む世界である。

と解説されている。
図書館は本の、つまり紙の集積としてのアーカイヴであり、SFでは古くからその紙の集積を如何に効率的にデータとして変換するかが夢見られていた。その夢はコンピュータによって今、かなえられつつあるが、本やレコードやCDのようなフィジカルが全て失われてしまってよいのだろうかという疑問も残る。だがそれはセンチメンタルでアナクロニズムに過ぎないのかもしれない。

そして図書館という幻想は最終的にはホルヘ・ルイス・ボルヘスの 「バベルの図書館」 に収斂するのだ。バベルの図書館とは一種のカリカチュアであり、図書館でありながら図書館でない何か不定形なものを目差す試みであり、ボルヘスらしきデーモンの発露である。
なぜ、とりとめもなく図書館について書き綴るのかといえばそれは村上春樹の最新作のキーワードが図書館であるからだ。ただ、まだその壁の中にたどり着けないのでこのような逡巡をしているのに過ぎない。

そういえば安部公房の初期作品である『壁』に収録されている作品は 「壁」、そして 「バベルの塔の狸」 であったことを思い出した。


坂本真綾/記憶の図書館 (フライングドッグ)
11thアルバム 記憶の図書館 [通常盤] [CD]




cero/ e o (カクバリズム)
e o




坂本真綾/ないものねだり
https://www.youtube.com/watch?v=F3r-tOc3N9E

cero/Summer Soul (作詞作曲/荒内佑)
https://www.youtube.com/watch?v=lfETQNfBAD4

cero/ VIVA LA ROCK 2017 Live
https://www.youtube.com/watch?v=YT0WfBTLl-w
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リス太郎

坂本真綾さんて美しいですよね。
by リス太郎 (2023-06-18 04:55) 

末尾ルコ(アルベール)

リンクしてくださっている動画、視聴させていただきました。坂本真綾もCEROも初体験です。どちらも素敵な曲ですね。心地い。「ないものねだり」のストリングスもそうですし、「SummerSoul」のいかにもsummerな気怠さも快感です。
図書館と聞くと、真っ先にアレクサンドリアの図書館を連想します。アレクサンドリアという古代都市自体、その歴史が非常に魅惑的ですし、その図書館はずっと昔に無くなっているだけに、好きなように妄想を膨らませることができます。
ボルヘスの「バベルの図書館」、いいですね~。「ボルヘス」という名前を見ただけで、現実と非現実の境界線が曖昧になっていく気分を味わえます。
Lequiche様は常々「図書館で本は借りない」とおっしゃってますが、足を運ぶことはあるのでしょうか。わたしはかなり利用してまして、しかも返却請求が来るまで延滞しまくるという悪癖を持っております(笑)。

・・・

BS日テレ『深層NEWS』に川上未映子が出演してました。先崎彰容もともに出てましたが、彼は喋る時間あまりなかったです。
川上未映子には当然ながらかなりじっくり話を聴く時間がありました。インタヴューする側も十分に『黄色い家』を読み込んでいる感があったです。
川上未映子の話として印象的だったのは、「90年代が様々なことの分岐点であり、その時代を色で表すと黄色の一択」という話。時代を色で表すことを含め、時代、そして常に「現在」に対して鋭敏な感覚を突き付けているのだなあと。
そして読者からのエピソードとして、「家賃1万数千円の人が『黄色い家』の連載を読むために毎月4000円の購読料を払っていて、時に眠れないほど新聞を待ちわびている」という話。新聞小説ならではのおもしろさであり、それだけの情熱を持つ読者の存在も凄いなあとあらためて感じました。            RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-06-18 09:57) 

lequiche

>> リス太郎様

坂本真綾さんは元々は声優ですが、
演劇も音楽もこなすという才能豊かなかたですね。
《スター・ウォーズ》のアミダラ役のナタリー・ポートマンの吹き替えが
坂本真綾です。
下記リンクの〈菫〉という曲はいかがでしょうか?
ビジュアルも歌も素敵です。

坂本真綾/菫
https://www.youtube.com/watch?v=gfLWtjYUIf0
by lequiche (2023-06-19 04:18) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

リンクをお聴きいただきありがとうございます。
CEROのライヴは私の感覚からすると、微妙にダサいというか、
インテリっぽさが垣間見えるところがあって、
その微妙な平衡感覚がダサカッコイイみたいに思えます。

アレクサンドリアの図書館、確かにそうですね。
街そのものの歴史も長いですし魅力的です。
アレクサンドリアから私が連想するのは
ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア・カルテット』です。
同作の第1部 「ジュスティーヌ」 は
ジョージ・キューカーの監督で映画化されていますが
私は未見です。

図書館は利用しません。利用する理由がないからですが、
近くの図書館のあまりよくない評判も聞きましたので
行くことはたぶん無いと思います。

川上未映子のその番組出演は知りませんでしたが、
新聞の連載小説を待ちわびているという話は
作家冥利につきますね。
何か昔の、夏目漱石が新聞連載を書いていた頃のような
そんな印象を受けました。
by lequiche (2023-06-19 04:57)