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パテック・フィリップ・エキシビションに行く [アート]

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パテック・フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション東京2023に行った。
簡単にいえばパティク・フィリップのメーカー展示会なのだが、いわゆる三大腕時計ブランドといわれるなかでもパテック・フィリップは孤高のメーカーであり、技術的にもデザイン的にも最高峰であることは確かだ。
ただ、最高峰過ぎるために、身近に目にすることは少ない。今回の展示はパテック・フィリップの昔の時計から現在の時計まで、機械式の腕時計とはどういうものなのかを見せてくれる貴重な機会である。

そもそも腕時計は、かつては細かな部品で組み立てられている機械式が主流であったが、廉価で高精度なクォーツの腕時計が出てきたことによって、腕時計のほとんどはクォーツになってしまった。そしてアナログな針表示でなくデジタルな数字で時刻が表示される製品が多数存在する。
だがスイスの高級腕時計メーカーはその機械式技術の伝統を守りながらすぐれた品位の製品を作り続けているのであり、それはテクノロジーにプラスしてアートの領域になってしまっている。

展示品にはシンプルなデザインの時計ももちろんあるのだが、非常に複雑で精緻な機構を持った製品が大半であり、単純に複雑であるということだけでなく、どのように動作させるのかという設計思想があるためだろうか、製品は優美で常に 「遊び」 があるように感じる。ホントはこんな機構なんていらないよね? と言ってしまうのは簡単なのだが、その 「遊び」 にこだわることこそがパテック・フィリップの神髄なのである。

エキシビションに行ってみると思っていたよりもずっと来客者数は多く、若年層の比率が高い。そして展示も多彩で、時計の裏表が見えるように展示されているコーナーもあり、全ての製品がノーブルで美しい。
技術者が時計の分解や組み立てを見せてくれるコーナーでは、背面に手元を拡大した画面が映し出され、おそろしく小さな部品の集積が機械式時計となっていることがよくわかる。小学生くらいの来客者に技術者が 「これがぜんまいになっている」 というような説明していたが、最近の子どもにぜんまい (薇発条) と言っても理解できるのだろうか、とちょっと思った。

数日前の朝日新聞の紹介記事のタイトルが 「買えない時計」 とあるように、簡単に買うことは不可能なメーカーなのだが、ステータスとしてパテック・フィリップを使用していた従来の顧客は消滅しつつあり、若い顧客を開拓するという意図があるのだとの解説である。といっても商談は無しで、あくまで自社の技術を知らしめたいとする考えのようだ。

翻って音楽とオーディオの世界を考えてみると、最近、アナログなレコード・プレーヤーが人気なのも、その面倒な操作方法やメンテナンスがかえって面白いとする傾向もあるようだ。日本人は概して手先が器用だったはずなのに、音楽メディアがCDになった頃からその器用さが失われつつあるような気がする。CDになり、そしてサブスクになることによってお手軽な操作が蔓延しつつあるそうした趨勢に逆らう意味でのレコード・ブームという部分も、きっとあるように思う。

展示会場は新宿住友ビルの三角広場 (東京都庁の西側にあるビル)。期日は6月10日から25日までであり、入場無料である。たとえば科学博物館が好きな人なら、きっと楽しめる展示会のはずである。

詳しくは下記へ:
https://www.patek.com/ja/

PatekPhilippe02_230619.jpg
パテック・フィリップ・サイト動画より
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コメント 4

末尾ルコ(アルベール)

『パテック・フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション東京2023』、素敵です。最寄りに住んでいたらぜひ足を運びたいところ。リンクくださっているパテックのサイト拝見しましたが、それだけに豊かになります。こうした高度な技術と美的感覚を尽くした時計たちに囲まれたら、心理的精神的にも良い影響をいただけそうです。
そもそも時計という存在自体不思議で神秘的、そして魅惑的なものですよね。「時」というもの、どんな人間にも平等に経過していく、けれどそれは決して見えない。しかし人間にとって最も重要な存在の一つである。その見えない「時」を刻み、知らせてくれるのが時計。
かつて澁澤龍彦が愛した日時計だとか、そうした記憶も蘇ってきました。
とは言えわたし、高価な時計は購入したことありません(笑)。もちろん経済的理由によるものですが、パテックとはいかなくても、もう少し「好みの時計を選べる」くらいの経済状況にはなりたいものです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2023-06-19 10:17) 

coco030705

美しい時計ですね。ほんとに芸術品のようです。なんとか残り続けていってほしいものです。
by coco030705 (2023-06-19 22:35) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

PCの画面で見ただけではわからないのですが、
ステンレススティールの部品ひとつにしても
通常に見るのとは表面の加工が違うように思えます。
比較対照としては異質ですが、たとえば
ポルシェの塗装が凡百の車の塗装とは違うのと同じです。
小さな部品の素材が22金だという説明もありましたが、
なぜ22金なのかはよくわかりません。
たぶん、重量を出すためだと思うのですが、
そうしたこまごまとした創意工夫の集積の結果の製品なのです。

05月14日ブログの『POPEYE』紹介記事のなかで
70年代の終わり頃、ロンドンで買った40年代製造の
パテック・フィリップの中古が20万円だったという話を書きましたが、
昔はそんなものだったらしいのです。
しかしその後、価格はどんどん高騰し
現在のような高額商品状態になってしまいました。
結果として投機の対象として見られてしまっていますが
それは何か違うように思うのです。

正確な時刻表示ということでいえば
G-SHOCKのほうがたぶん正確なのかもしれません。
でもそういうのとは視点が異なるのです。
わざわざライカのフィルム・カメラで撮影し、
フィルムを現像した後、最終的にデジタルデータに変換している
カメラマンっていますが、そういうのとある意味同じです。
by lequiche (2023-06-22 04:16) 

lequiche

>>coco030705 様

はい。まさに芸術品です。
もっともパテック・フィリップは高額な腕時計にありがちな
宝石で飾るというようなデザインは2の次であって、
(もちろんそうしたゴージャスなデザインもありますが)
あくまでその機構の複雑さにこだわるようなメーカーです。
by lequiche (2023-06-23 00:09)