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忘れられない調べ — メトネルのヴァイオリン・ソナタに [音楽]

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ニコライ・メトネルを私が知ったのはアムランのピアノソナタ全集がきっかけだった。メロディが必ずぐるぐると行きつ戻りつし、何度もためらった末に結局告白できないで戻ってきてしまう片思いの青年のような、この憂鬱の腫れた種みたいな、ロシアの暗い空のような音楽は何なんだ? というのが率直な第一印象だった。

音楽には、最初から明快にわかってしまう音楽と、最初は何だかよくわからない、とっつきの悪いものとがある。それは単に私の理解力が足りないのに過ぎないのかもしれないし、ほとんどクラシック音楽を聴き込んでもいないという知識の少なさのためなのかもしれない。メトネルは後者の、とてもとっつきの悪い音楽で、確かにアムランは上手く弾きこなしていると思えるのだけれど、曲の出来そのものはちょっとどうかな、というイメージを持ちそうになってしまったことは事実だ。

でもその時、私はたまたまヒマで、というかせっかく買ったCDを無駄にするわけにはいけないという恥ずかしい理由で繰り返し聴くうちに、ある日、メトネルが突然はっきりと見えて、こちらに顔を向けてくれる時がやってきた。それからはしばらくずっとメトネルメトネルメトネル……。

メトネルは1880年生まれのロシアの作曲家で、ラフマニノフの友達で、ロシア革命の際にロシアを離れ、亡命というようなはっきりとした意志を持っていたわけではなかったのにもかかわらず、故国に戻ることはあったがそれもつかの間で、ロンドンで没した。結果として国を捨て漂泊の人となることに、つい私は特別な感情を抱いてしまう。たとえばウラジーミル・ナボコフの生涯のように。それは傍観者から見たつまらないセンチメンタリズムに過ぎないのかもしれないが。

メトネルで最も知られているのはピアノソナタなどの、主にピアノを対象とした作品であるが、私が最ものめり込んだのは3曲のヴァイオリン・ソナタである。たいして期待しないで買ったNAXOSの2枚の廉価盤のCDなのに。
ヴァイオリン・ソナタ第3番《Epica》——とりあえず3曲のソナタの中では一番有名な曲。ピアノの、突き放したような和音から始まるひそやかなイントロ。次第に速度を加え盛り上がっていく、なつかしいような旋律。ここに寂しさと悲しみの、しかし安直な涙を誘わないすべての旋律が存在しているような気がする。
この曲の欠点はあまりにも長大だということだろう。コンサートには使いにくいかもしれない。

時代的に見ればメトネルは少し時代遅れな人であった。といってラフマニノフほど有名になることもなく、異郷の地・パリに馴染むこともなく、時からも住処からも見放されていた彼の孤独が、暗鬱な空を見上げるようなその作品に反映しているように思えてならない。


メトネルのサイト:
http://www.medtner.org.uk/
とてもきちんとしていてデータを検索するのに便利。
イギリスの作曲家という扱いなのかもしれない。


MEDTNER: Works for Violin and Piano (Complete), Vol. 1
NAXOS classic 8.570298

メトネル:ヴァイオリンとピアノのための作品全集第1 集


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