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鏡の中の虚像 — パルミジャニーノ [アート]

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パルミジャニーノ Parmigianino は16世紀前半のイタリア人でマニエリスムな画家として知られている。パルミジャニーノを知ったのは澁澤龍彦の何かの本の中で紹介されていた図版によってだったと思う。全集の中に入っていたのかもしれない。

その図版とは〈凸面鏡の自画像〉Autoritratto entro uno specchio convesso であり、パルミジャニーノの紹介というと往々にして選ばれる代表的な作品であるが、これは彼の20歳頃に描かれたものであり、魚眼レンズで覗いたような画面の前に大きく映し出された手とその女性のような相貌で、まさにナルシスティックな手法であるといえよう。直感的な印象の通り、同性愛的な性向もあったらしいと言われている。彼は早熟の天才といえるだろうが、晩年は錬金術に凝ったりしたそうで、晩年といっても37歳で亡くなっている。

パルミジャニーノの画集はYale University Pressから出版されていて、非常に図版も多く詳しい内容となっている。パルミジャニーノという人が美術史の中でどの程度のランクにあるのか私は知らないが、5世紀の時を経て、これだけきちんとした画集が出されるだけの魅力のある画家であると言ってよいだろう。

彼の作品は人物像が多いのだが、一見極端な強調とかグロテスクに変形しているわけではないのにもかかわらず、ごく普通そうに見える人の姿からなぜか微妙な歪みのようなものが醸し出されていて、その歪みの連鎖がある種の眩暈を感じさせる画風だとも言える。つまり〈凸面鏡の自画像〉は彼の手法の極端な例であるが、その視点は常に鏡に映された画像のような、それとも二眼レフカメラの中に結ばれた像のような奇妙なフォーカスを感じる。
ひとつひとつのディテールはごく細密でありながら、それらの集合である全体像は見事にアンバランスで、それこそがまさにマニエリスムと言えばそれまでなのだが、単純にマニエリスム的手法というよりもっと根本的な彼の精神性から生じてくるなにかがあって、錬金術の例からもわかるように神秘主義的な傾向がその絵に反映しているようにも感じられる。

だから人物は確かに人物として描かれているのだが、それがダイレクトではなく、その前面に薄く紗のかかっているようなもどかしさのようなものをすべての彼の作品に感じてしまう。これは先入観から来るイメージに過ぎないのかもしれないが。
マニエリスムというのは一種の徒花なのかもしれないしフェイクなのかもしれない。その異質感から湧き出てくる吸引力は何となく不健全であって、それは危険な誘蛾灯のようなものなのかもしれない。


David Ekserdjian/Parmigianino (Yale University Press)
Parmigianino

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