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This city, This train — ローリー・アンダーソン《Live at Town Hall, 2001》 [音楽]

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何にでもきっかけというものはあって、その時なぜか〈O Superman〉が聴きたくなって、たまたま手にとったのがこのタウンホールのライヴ盤だったのに過ぎない。
ローリー・アンダーソン Laurie Anderson についての私の知識は、変なかたちのヴァイオリンを弾いたりする人だということくらいしか知らず、つまりまだ音楽の本質がよくわかっていなかった頃である。

タウンホールはニューヨークの伝統あるホールで、タウンホールのライヴと聞いて私が思い出すのは例えばオーネット・コールマンのタウンホール1962とか、アンソニー・ブラクストンのタウンホール1972。どちらもジャズのアルトサックスのアルバムである。

そしてこの《Live at Town Hall, 2001》を初めて聴いたとき、O Superman を含む全体を聴いてそれなりの感銘は受けたものの、ぼんやりと流して聴いただけで曲もいまひとつピンと来ず、つまり私の興味は O Superman という曲への通俗的な好奇心に過ぎず、このコンサートがどういう時期に録音されたのだったのかも、まるで注意を払わずに通り過ぎてしまっていた。こういうのを迂闊というのだろう。というより、そのときそのサウンドは私の理解の範疇の外にあり、きっと出会いのときではなかったのである。
《Live at Town Hall New York City September 19-20, 2001》というのがこのアルバムの正確なタイトルだ。左右一杯にジャスティファイする文字だけでデザインされたシンプルな2枚組のジャケット。これは2001年9月11日——いわゆる9・11の、ほんの1週間ほど後にニューヨークで開かれたコンサートである。

あらためて聴いてみると、人間の声というのは精妙で完璧な楽器のひとつであることがわかる。ローリー・アンダーソンの魅力はその声である。とりたてて美声とか、心をくすぐる声ではない。むしろ精神を鎮めるような、ほっとする声だ。これは人によって好みが違うと思うが。
彼女の声は、それが歌でなく単なる語りであるときでも、その声はまるで楽器のように特有の表情を持っている。この声は言葉を理解するための声でなく、インストゥルメントなのだ。
そしてローリー・アンダーソンの作品は、パフォーマンス的な視覚面が強調されることもあるが、その本質はたとえほとんどメロディがなくても曲なのだと私は思う。

ライヴの1枚目は暖かな拍手とともに始まる。でもその日の雰囲気はインティメイトだがやや暗く、それは9・11直後というこの特殊な時期を現しているのだと思う。曲目は当時の直近のアルバム《Life on a String》から多くが選ばれているが、Statue of Liberty とか Washington Street のような、この状況下では意味深に見えてしまうタイトルの曲がある。
Washington Street におけるギターリフのようなオスティナートが、音から受ける印象こそアンビエント風でありながらそれがアンビエントでないのは、音だけで解決しない、外に向けた訴求力が存在しているからなのだ。
2枚目の4曲目、Broken なども魅力的なオスティナートを持っている。こうしたシークェンス・パターンが常に魅力的なのも彼女の音楽の特質だろう。
いよいよ9曲目の、O Superman に入っていくところはシビれる。おなじみのvoiceで刻まれるパルス音。これはすでに言われていることだが、この曲の歌詞の中に次のような部分がある。

 Here come the planes.
 They’re American planes. Made in America.

これは黙示録なのだろうか。O Superman が書かれたのは1981年。しかし偶然だが (偶然なのだろうか)、まるでこの2001年9月11日の事件を指し示しているような言葉。そしてスーパーマンという暗喩が指し示すもの。

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10曲目の Slip Away はケイト・ブッシュを連想させるようなメロディ・ラインである。その後、White Lily 〜 Puppet Motel 〜 Love Among the Sailors 〜 Coolsville と続くコンサート終盤は美しく圧巻だ。
コンサート最後の曲、Coolsville のリフレインは、

 This city
 This train

という言葉の繰り返し。ここでもcityという単語にどうしても特別な意味を見てしまう。静かで緻密な熱情を維持して曲は終わる。発表されてから10年を過ぎた今になって、私にもこのアルバムがやっと理解できたのだろうと思う。何度でも繰り返し聴いてしまうアルバムである。


Laurie Anderson/
Live at Town Hall New York City September 19-20, 2001 (Nonesuch)
Live at Town Hall - New York City Sept 19-20 2001




Broken (Live in San Remo 2011)
http://www.youtube.com/watch?v=Ko8Z7d4FBeU

O Superman (1981) original clip
http://www.youtube.com/watch?v=-VIqA3i2zQw

O Superman
Live at Town Hall, New York City September 19-20, 2001
http://www.youtube.com/watch?v=bk_-fLpmM4E

Lou Reed and Laurie Anderson/Hang on to Your Emotion (1996 live)
http://www.youtube.com/watch?v=uTAVBNUynpY
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