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幸いなるかな、悲しみを抱くものは — シューリヒトのブラームス [音楽]

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その昔、渋谷に輸入盤のクラシックだけを扱っているCDショップがあって、それはまだLoftのビルの地下がWAVEで面白いCDが幾らでもあった頃で、世の中は今よりも景気がよくて生き生きしていたかもしれない。
そのクラシックCDショップは雑然としている渋谷の街の中を通り抜けていった先にある私にとってのオアシスで、ここで随分たくさんの枚数のCDを買ったような気がする。
カール・シューリヒト Carl Adolph Schuricht のAdès盤のブラームスを見つけたのもこの店で、それがシューリヒトとの出会いだったかもしれない。この店はAdès盤が多くて、パレナン・クァルテットのバルトークもここで買ったように覚えている。

ブラームスの交響曲は4曲ともそれぞれに個性があるが、4番は冒頭いきなり出てくる主題に翳りがあって、涙にむせび息継ぎながら歌われる歌のようで、その悲しみの表情に惹かれる。そして第4楽章の形式はパッサカリアで、といってもバッハのそれとは異なるのだが、普通の交響曲の最終楽章とは違う相貌をしていて、そのへんにもブラームスの非凡さが見える。
最初に聴いたブラームスの4番はレコードの時代のブルーノ・ヴァルター/コロンビア交響楽団でこれは長い間、私の中でスタンダードだった。でも最近になってCDを買ってみたらなぜかあまり感動しなかった。つまり私の耳が、いや心が変化しているということなのかもしれない。

シューリヒトの4番は、端正でそんなにべったりしていない主題で始まる。彼の指揮は官能的とかいかにもロマン派的な解釈とは対極の位置にあるのだけれど、それでいてところどころ、えっ? というような音が聞こえてくる部分があって、オーケストラ全体のなかでどの音を前に出してくるかというのは結局指揮者の裁量の部分であるが、それをコントロールするバランス感覚の差異がその曲の印象とか好き嫌いを決めていくのだと思う。

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でもAdès盤のブラームス3番はあまり好きではない。第1楽章からやや雑に思えてしまう部分があるし、特に第3楽章などはもう少しねっとりとした感触が欲しいと思ってしまうのである。単なる私の勝手な印象なのだが。もっとも、こういうのが決して雑なのではなくてシューリヒト節なのかもしれない。

Hänssler盤のCarl Schuricht Collectionというシュトゥットガルト放送交響楽団との20枚組ボックスセットがあるのだが、これに付いているDVDでの演奏風景を見ると、まずシューリヒトはすごく姿勢のいい指揮者だなぁと妙なところに感心してしまうのだが、スクエアで正攻法の振り方と的確な指示、想像していた通りの指揮ぶりでなんだか安心した。

このボックスにはブルックナーが何曲も入っているのだが、実は私はブルックナーがよくわからなくてまだ勉強中である。わからなくてというよりは苦手だったのかもしれない。ただ最近の、シモーネ・ヤングのブルックナーなど聴くと、これは楽譜の版の影響もあるのだろうが、今までの巨匠たちの重厚剛直みたいなブルックナーとちょっと違っていたりするし、ロベルト・パーテルノストロのは良い意味であまり求心的凝縮がなくてかえって心地よかったりする。

それはいいとして、このHänssler盤シューリヒトでの私の愛聴トラックはブラームスのドイツ・レクイエム Ein deutsches Requiem op.45 である。ドイツ・レクイエムは歌詞が通常のラテン語ではないので、たとえば定型的なフォーレのレクイエムなどとは異なるが、こうした宗教曲ではとても完成度の高い曲だろう。
ブラームスはベートーヴェンをリスペクトしていて 「私はベートーヴェンさんにはとてもかないませんよ」 みたいなフリを装っていながら、地味にとんでもなくスゴイという部分があって、このドイツ・レクイエムもそうした1曲だと思う。その冒頭、

 幸いなるかな、悲しみを抱くものは Selig sind, die da Leid tragen

聖書特有の言い回しに思わず 「悲しいことは全然幸いじゃない」 と言ってしまいそうになるけれど、この第1楽章では弦パートからヴァイオリンが除かれていて、それは同様にヴァイオリンの欠けているバッハのカンタータ第18番 天より雨くだり雪おちて Gleichwie der Regen und Schnee vom Himmel fällt (この曲はカンタータの中での私の密かな愛聴曲なのだが) に似て、そのちょっと空虚な響きは静謐でほの暗い。
緻密に積みあげられていく曲は全然長く感じなくて、姿勢のよいシューリヒトと同様に音楽も姿勢がよくて、でも決してそんなに堅苦しくはなくて、しんと心に沁みる曲である。


Carl Schuricht Collection (Hänssler)
Carl Schuricht Collection




http://www.hmv.co.jp/product/detail/1201545
(2年前には確か4990円で購入できたのですが最近は高いです)
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