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若きキーシンのショパン — ワルツ e-moll [音楽]

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NHKの 「ららら♪クラシック」 という番組はどうなのだろう?
私はまともに全部を見る時間が無いのだが、時々ちらっと見てみると、いろいろな話題が幕の内弁当のように少しずつ出てくるところが、何となく同局の語学講座と同じ作り方のような気がしてならない。その語学講座を見ていて感じることだが、あの番組構成でその語学が習得できたらその人は相当優秀な頭脳なのだろうと思う。

たとえば深夜にCDTVというヒットチャート番組があるが、あれはもう音楽番組ではなくて単なるプロモーションとかカタログ番組に近い。聞くところによると、曲が長過ぎると飽きられてしまうのだという。だから、もうそれらは曲の体裁をしていなくてほとんど断片に近い。ポップスにしてそうなのだから、クラシックなんて冗長過ぎて全楽章をオンエアするのは無理ということなのだろうか。語学講座も音楽番組もすべてが同じ味付けのヴァラエティ番組みたいな均質感を目指しているのだとしたら悲しいことである。

でも、それはそれとして、「ららら♪クラシック」 では脈絡もなく色々なシーンが出てくるので、ちらっと見ているのにはいいのかもしれない。ひょっとしてそういう需要を狙っているようにも思える。

先日の放送では、若い頃のキーシン Evgeny Kissin の演奏を見ることができた。1986年の人見記念講堂でのライヴでショパンのe-mollのワルツ。まだ少年っぽさの残る細い身体と、上着も着ずに白いシャツだけの上半身に、思わず迫り来るヤオイの影を想像してしまった。
まぁそんな視覚はともかく、このショパンは素晴らしい。司会の石田衣良は 「自分の考え方でこういうふうに弾いていたんでしょうかねぇ?」 みたいなことを言っていたが、その素朴さに笑ってしまった。もしかするとわざと狙って言ったのかもしれない (というより台本なのかも)。としたら引っかかった私がバカなのである。

YouTubeを探していたら同じ映像がちゃんとupされていた [aの後半、3:50あたりから]。そして同じ曲の2010年の動画 [b] もあって、もちろん弾き方は洗練されているが基本は同じである。むしろ1986年の、あまり何も考えていない (ように見える) 演奏のほうがいいかもしれない。

ショパンは不思議な作曲家である。その曲は、語弊があるかもしれないが、極端に言えばどのように弾いてもいいが、弾いただけその人自身が出てしまう。一種の鏡だ。時によってそれはナルシスの鏡。

たとえばワルツの規範としてリパッティ Dinu Lipatti の演奏 [c] がある。今の耳で聴くと蒸留水に近くて味が無いかもしれない。でもそれゆえに色褪せないのかもしれなかった。
一方でたとえばルイサダ Jean-Marc Luisada の演奏がある [d]。ここまでやるか?と思ってしまうのだけれど、これはこれですごくルイサダである。

ただ番組でも言っていたけれど、ショパンは意外に男らしくて泥くさい面がある。あまり見た目の技巧を凝らさないほうが作曲家の本質が見えるような気もする。


[a] Evgeny Kissin
昭和女子大学人見記念講堂 1986.10.15
http://www.youtube.com/watch?v=Q1dLLuPq_OE

[b] Evgeny Kissin
ワルシャワ・フィルハーモニーホール 2010.02.27
http://www.youtube.com/watch?v=X4omKHunwkk

[c] Dinu LIpatti
http://www.youtube.com/watch?v=ZC7Kxh8FAsM

[d] Jean-Marc Luisada
http://www.youtube.com/watch?v=sh7B-O-nPYo
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