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Deramのデヴィッド・ボウイ [音楽]

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デヴィッド・ボウイの1stアルバムであるデラム盤の《David Bowie》を聴く。
ボウイは《Space Oddity》以降のグラム・ロックとしての一連のアルバムで有名であるが、実は《Space Oddity》(1969) は2ndであって、デッカ・レコードの傘下レーベルであるデラム・レコードから出されたこの《David Bowie》(1967) が最初のアルバムである。1947年生まれだからちょうど20歳の時のリリースだ。最近になって未発表音源を加えて再発されたりして幾つかのヴァージョンがあるが、基本的にはLPで1枚分の、デラムからの唯一のアルバムである。しかしこれはグラム・ロックではない。

世間的な評価は 「これじゃ売れないよな」 とか 「つまらない。聴ける曲がほとんどない」 といった意見がネットを見ていても大勢で、そんなものだろうとも思う。とりあえずロックというよりはポップスなのだが、正統的なポップスとはちょっと違ったひねりがあって、しかも種々のテイストが混じっていて、一種のワールド・ミュージック的な味もある。
たとえば〈哀れな砲撃手〉(Little Bombardier) は曲調がワルツであり、まるでシャンソンのような雰囲気を持っている。〈マーケット・スクエアの玩具売り〉(Come and Buy My Toys) はフォークソングのようなギターが伴奏する曲だ。
最もボウイのその後のスタイルを彷彿とさせる曲は〈ラバー・バンド〉(Rubber Band) だろう。Rubber Bandと聞くとケイト・ブッシュの《The Red Shoes》の Rubberband Girl をつい連想してしまうが、ボウイのこの曲はもっと諧謔性を帯びていてそれでいてシニカルで、そしてロックのテリトリーではない。

私はかなり興味深くこのアルバムを聴いた。1回聴いただけではよくわからないが、何度か聴いていくうちにその意味合いがわかってくる。なにより感じるのは、若きボウイの圧倒的な歌唱による存在感と声そのものの魅力、そして彼の絶大な自分自身への自信である。結果としてこの路線では無理だとわかって、次のグラム・ロック路線が成功したわけだが、最初からグラムとしてではなく、こうした試行錯誤があったという点も面白いと思う。wikiにはこの1stに対してアマルガム・オブ・ポップという表現があってなるほどと納得した。

ボウイにやや先行するスコットランドの歌手にドノヴァンがいるが、彼の場合もその2ndアルバムである《Fairytale》(1965) など聴いてみると、ごく地味な感じのフォークソングであって、その後のサイケデリックとかドラッグというイメージからはやや遠い。Lalena や Mellow Yellow だけの歌手ではないのである。逆にいえばある程度コマーシャルな方法論を考えてスタイルを方向付けていったという点では、ドノヴァンもボウイも似た面がある。そしてこの《David Bowie》でもドノヴァンの《Fairytale》でも、音が裸である分ごまかしが効かなくて、そのシビアさによって歌手としての力量もわかるような気がする。特にその声質においてこのデヴィッド・ボウイは素晴らしい。

デラム・レコードは当時のアヴァンギャルドなロック系のレーベルで、同時期にリリースされている作品に、例えばジャイルズ・ジャイルズ&フィリップの《The Cheerful Insanity of Giles, Giles and Fripp》(1968) がある (ジャイルズ・ジャイルズ&フィリップはキング・クリムゾンの元となったバンドである)。同時期の日本はまさにグループ・サウンズ全盛の頃であり、音楽の成熟度についてかなり時代差を感じてしまう。

ただ、そうは言ってもこのデラム盤のボウイのターゲットは、ある程度ボウイについて既知であるリスナーで、かつ、ロックだけに限定しない視野を持っている人が対象であると思う。そうでない場合、「つまらない。聴ける曲がほとんどない」 という感想を持たれてしまいがちだ。
近年は音沙汰がなくなったデヴィッド・ボウイだが、このまま立ち消えてしまうのでは悲し過ぎる、としつこくも思うのである。


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