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ウィンナ・ワルツ [音楽]

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これは私の勝手な思い込みなのかもしれないのだけれど、ECMというドイツのジャズレーベルはその特徴的な音作りとコンセプトに人気があり、このブログでとりあげた作品も多いのだが、でも伝統的なジャズシーン (というものがあるとして) からみれば、きっとECMというのは本流ではなくて、BGM的音楽であって、邪道なのだ。「ECMなんてジャズとして認めない、ああいう音は嫌いだ」 というような確信的意見の持ち主を私は複数に知っている。
それは前ブログに書いたコクトー・ツインズにも同様にいえて、そのレーベルである4ADは、そういう音がオシャレとされ隆盛を誇った時期からはすでに遠いけれど、典型的ロックとかポップスという視点からとらえると少しだけエキセントリックであって、きっと本流ではない。

メインストリームとか正統派とかトラディショナルとか、そうしたものは存在するし畏敬すべきものとして異論はないが、同時にそうでないものへの貶めも私には存在しない。クラシック音楽が一番エライなどということはなくて、惰性のベートーヴェン演奏よりずっとすぐれたJ-popだって存在するのである。

というようなことはどうでもよくて、でももしもECMや4AD的な、ふわっとしたポジションをクラシックというジャンルの中で探すのならそれはたとえばウィンナ・ワルツであると思う。
そしてウィンナ・ワルツをもっと狭くいえばそれは毎年行われているムジークフェラインのニューイヤー・コンサートであり、かつてのカリスマであるボスコフスキーなのかもしれない。

ヴィリー・ボスコフスキー Willi Boskovsky はクレメンス・クラウスの後任として、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを1955年から1979年まで、四半世紀もの期間にわたって指揮した。ボスコフスキー以後、マゼールが数年続けた以外、指揮者は年毎の入れ替わりとなってしまった。ヴァイオリンを弾きながらの指揮という独特の、そしてステロタイプだったニューイヤーは永遠に失われてしまったのである。

ウィンナ・ワルツはまさにライト・クラシックで、その底には何の企みもなくてひたすら楽しいだけの音楽である。ニューイヤー・コンサートの最後は、必ず〈美しく青きドナウ〉と〈ラデツキー行進曲〉であって、そのワンパターンさが郷愁を誘うのかもしれない。

そしてウィンナ・ワルツはシュトラウス家のつくりあげたひとつのジャンルである。ヨハン・シュトラウス1世 (1804-1849) と、その子どもであるヨハン・シュトラウス2世 (1825-1899)、ヨーゼフ・シュトラウス (1827-1870) 、エドゥアルト・シュトラウス (1835-1916) の3兄弟の作品が、そのほとんどを占めている。他にも作曲家はいるのだが、結果として残ったのはシュトラウス・ブランドだったということである。

最も有名なのはヨハン・シュトラウス2世であるが、弟のヨーゼフの作品もヨハン2世に較べると地味であるけれど、佳曲が多い。
末弟のエドゥアルトは作曲よりも指揮を得意としていたらしいが、シュトラウス兄弟の最後のひとりとなった晩年になって、父や兄、そして自分のものも含めた自筆譜を焼却するという行動を起こした。最も長く生きた人だが、その人生には兄たちへのコンプレックスがあったのだろうか、謎である。

私は、やや控えめで薄命であったヨーゼフの作品がとても好きだ。エドゥアルト・シュトラウスの孫に、同名のエドゥアルト・シュトラウス2世 (1910-1969) という指揮者がいて、ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団を率いていた。つまりシュトラウス家の遺産である。
そのエドゥアルト2世のアマデオ盤の録音の中に、ヨーゼフ・シュトラウスのポルカ〈風車〉Moulinet (または水車) というのがあって、少しだけ寂しげなメロディのあるこの曲がずっと私のお気に入りだった。ウィーン・ヨハン・シュトラウスというオケは、たぶんウィーン・フィルのような一流オケではないのだろうけれど、そのローカルっぽさも含めてヨーゼフの音にぴったりだったように思う。

そしてエドゥアルト2世が亡くなった後、その指揮を引き継いだのがボスコフスキーである。彼がウィーン・フィルのコンサート・マスターだったのは定年の1970年までなので、ちょうど乗り換えるようにエドゥアルト2世の後を引き継いだのだろう。
品のあるその身のこなし、指揮台の上でくるくると回りながらヴァイオリンを弾く姿勢は凜としていて、音楽シーンの中での徒花だったかもしれないウィンナ・ワルツの儚さを体現している。ヴァイオリンの弾き振りというのはシュトラウス家伝統の方法であった。


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Willi Boskovsky/New Year’s Day Concert in Vienna 1979
(ユニバーサル・ミュージック・クラシック)
ニューイヤー・コンサート1979




Josef Strauß/Auf Ferienreisen (polka schnell) op.133
(New Year Concert 1964)
http://www.youtube.com/watch?v=ijcGLe_z14I

New Year Concert 1974
http://www.youtube.com/watch?v=vfgvqWEFa54

Josef Strauß/Moulinet (polka-mazurka) op.57
http://www.youtube.com/watch?v=9Sg__XIg5gI
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