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マリリン・クリスペルの〈Paris〉 [音楽]

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カナダのケベック州にヴィクトリアヴィルという町があり、毎年ヴィクトリアヴィル国際音楽祭 FIMAV: Festival International de Musique Actuelle de Victoriaville というイヴェントが開催されている。今年の5月、日本からはヒカシューが参加しているが、あまりジャンルにとらわれないプログラムになっているようだ。

この音楽祭の第17回にセシル・テイラーの出演した際の録音があったので聴いてみた。《Complicité》というタイトルで、2000年5月22日の3つの異なったコンサートが3枚のCDに収録されており、その3枚目がセシル・テイラーである。
発売元はvictoというブランドで、ヴィクトリアヴィルの音楽祭自体で製作されたものだと思われる。録音はSociété radio Canadaとクレジットされている。ちょっとパッケージングが雑だが、ローカルな味だと思えばよい。

内容はいわゆるコンテンポラリーなジャズのセットであり、1枚目はPaul PlimleyのピアノとJohn Oswaldのサックスによるデュエット、2枚目がMarilyn Crispellのピアノソロ、そして3枚目がCecil Taylorのピアノソロである。

このなかで心に一番響いたのがマリリン・クリスペルのピアノである。
クリスペルという名前を私が最初に知ったのは、アンソニー・ブラクストンの英Leo盤からリリースされた一連のライヴで、彼女のセッション記録を見ると、リストの最初にあるのが78年5月のアンソニー・ブラクストン・クリエイティヴ・オーケストラ、リハーサル・レコーディング、ケルン、となっていて、彼女のキャリアの中でブラクストンは非常に重要な人である。
Leo盤のライヴはどれもあまり尖っていないブラクストンで、クァルテットが暖かくて親密な雰囲気で隠れた名盤なのではないかと思うのだが、クリスペルのキャラクターが及ぼした影響もきっとあるのではないだろうか。ブラクストンとの共演は1993年頃までずっと続いていた。

ただ、そういうブラクストンとの親密さが、ともするとクリスペルをブラクストンの従属物のようにとらえてしまいがちだったことは否めない。
この《Complicité》もセシル・テイラーを聴くのがその主目的であったことは確かだからだ。

しかしこの2枚目のディスクのクリスペルの演奏は素晴らしく冴えている。特に1曲目の〈Prayer〉と4曲目の〈Paris〉、どちらもMitchell Weissの曲だが、この美しさは比類がない。時に明るく、時に悲しくて、でも決して感情に溺れずベタベタとしていない清潔なピアニズム。テーマから展開していく経路が独特で、こうした音感はちょっとジスモンチを連想させるところもあるが、もっと彼女はしなやかで、このトラックだけ何度も聞き返してしまった。
その他の、クリスペル自身の曲も、やや難解だが緻密でクラシック系のテクニックが感じられる。連続して演奏される曲の中で〈Triplos〉と名付けられたインタルードのように出現する曲が何度も出てくるが——というより〈Triplos〉という長い曲の間に幾つかの曲が挿入されていると考えたほうがいいのかもしれないが——〈Paris〉の後のそれは鋭くて、セシル・テイラーのようなパワーこそ無いけれど暗く緻密で、音の一粒一粒が快い。最近、ジャズ系の音楽を聴くことが比較的少なかったので、このクリスペルには強い感銘を受けたといってよい。

セシル・テイラーは、いつもの通りのセシル・テイラーだが、さすがにスピードはやや衰えてしまっている。でも全体の構成力はますます老練といっていい域に達している。いや、老練などといったら失礼だろうか。
彼の初期のアルバムが今、Seven Classic Albumsというタイトルで廉価で手に入るが、たとえば《Jazz Advance》(1956) などを聴くと、60年近くも前の作品なので、さすがに古さを感じさせるし、後ろのドラムの音など含めてまるでバド・パウエルみたいだが、その強烈なパワーはずっと変わりがない。


Complicité (victo)
(amazonの画像は上下さかさまになっている)
Complicite




Cecil Taylor/Seven Classic Albums (Real Gone Jazz)
Seven Classic Albums




Marilyn Crispell with Paul Lytton, 2012.01.02, Berlin:
http://www.youtube.com/watch?v=WjnXZfJDwV4
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