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サラバンドというアンニュイ — UNTITLEDの安室奈美恵 [ファッション]

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今TVで流されているUNTITLEDのCMが目を惹く。安室奈美恵が 「イイ女」 感満載で、白いブラウスと黒のミニキュロットに、黒いジャケットを羽織るというアクション。
ネットには15秒と30秒ヴァージョンの他に60秒のヴァージョンもあって、これらはVeil編と表示されているが、長いヴァージョンになるほど絡みつく布の印象が強く残る。

UNTITLEDというのは、どちらかというとキャリアっぽいファッションのブランドだったはずで、安室奈美恵がブランドイメージそれなりの年齢になってきたとはいえ、まだギャル系のイメージを色濃く残す彼女を起用するということは、新しい購買層を獲得することができるかもしれないが、今までの固定客を逃すかもしれないと、いらぬ心配をしてしまいそうになる。
実際にはそれをも含めた商品展開であって、大アパレルだからそんなにヤワな指向ではないし、むしろ周到な意図が垣間見えるのだけれど、その前のヨンアあたりからやや傾向が変わってきているような感じはする。そうした微妙な変化の継続性が存在しなければブランドは立ちゆかない。

レースを透して、あるいはシルキーな布にくるまれる肢体という映像は、直接的なセクシーイメージよりも、むしろファッションの基点は布なのだというメッセージに思える。それは以前書いたディオール・オムのCMに通じる。ディオールの場合はもっとダイレクトにハサミとかファッションの現場の作業を映し出す手法であるが (→2012年02月15日ブログ)。
跳ね上げ窓のある古い煉瓦造りらしい高層ビルの部屋というロケーションも、すべてが少しアナクロで、UNTITLEDがやはりキャリア・ファッションでもあるのだという含みを残す。

音楽はバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ1番のサラバンド (BWV1002) のサックスによる演奏 (鈴木広志) である。このサックスのがさがさとした質感と和音の重なり加減が、プリミティヴな楽器のような音にも聞こえて、かえってしなやかな布の手触りを連想させる。

サラバンドといわれて思い出すのはイングマール・ベルィマンの同名の映画《Saraband》で、ベルィマン最後の作品であるが、そこで繰り返されるサラバンドは同じバッハでも無伴奏チェロ5番のサラバンド (BWV1011) である。それはストーリーを反映した、やりきれなさと鬱屈の表象でもある。原曲もスコルダトゥーラを指定された暗い音色をあらかじめ持っている。
サラバンドはバロックの頃に用いられていた古い舞曲の種類のひとつだが、BWV1002と1011のどちらのサラバンドも暗くて、けだるくて、重い。たとえばクラヴィーアのパルティータBWV825のサラバンドは例外的に明るいが、油断するとダレる曲でもある。

ファッションは機能性だけではなくて、ときどきの感情の機微を受け止めてくれるフレキシビリティを持っているはずであるが、その容量は、ときに過剰であったり不足であったりして起伏が伴う。機能性だけで考えればあらゆる芸術は無駄であり、ファッションはもっと無駄なジャンルに過ぎない。でも、そうした無駄なもの、そうした不定形の翳りのようなものの必要なときが、きっと人間にはあるのだろうと思う。


BWV1002sarabande.jpg
Sarabande BWV1002

UNTITLED CM (Veil編)
http://www.youtube.com/watch?v=ZceQXnRObgM

Arthur Grumiaux/Bach: Partita No.1 BWV 1002 no.5 Sarabande
http://www.youtube.com/watch?v=iFAkjS39wj4

Pierre Fournier/Bach: Cello Suite No.5 BWV1011 no.4 Sarabande
http://www.youtube.com/watch?v=UJKByFsa8Fc

Dior homme CM
http://creativeexchangeagency.com/film/directors/sarah-moon/film/dior-homme-work-in-progress/507344dc-1d0c-4963-aece-76650a0b0910
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コメント 2

miel-et-citron

以前に器作家さんのアトリエやアンティークのお店で
バロック音楽がかかっていたのですが
その曲がとても気になっていて、今思えば
もしかしたら、こちらでまとめて頂いている
バッハのサラバンドだったのかもしれません。
やっとスッキリしました!
ありがとうございました。
こういう曲も、好きなんです(=^_^=)
by miel-et-citron (2013-10-10 01:08) 

lequiche

>> miel-et-citron 様

そういう場所でバロック音楽がかかっていると落ち着きますね。
古い舞曲にはサラバンド以外にも
アルマンド、クーラント、ジーグなどがあって、
しかも組曲の場合、順番が大体決まっていて、
ワンパターンですけれどいかにもバロックになります。
古いですけれど決して色褪せない形式だと思います。(^^)b
by lequiche (2013-10-10 04:07) 

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