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ブエノスアイレスで私は死のう — アストル・ピアソラ《Live in Wien Vol.1》 [音楽]

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HMVのサイトのニュース欄をぼんやりと見ていたら、ピアソラの《Tristezas de un Doble A》がいつの間にか再発されているのを発見した。このアルバムについては、廃盤なのでプレミアが付いていると書いたことがある (→2012年02月25日ブログ)。
今回再発されたのは《Tristezas de un Doble A》と《Live in Wien Vol.1》の2枚で、高音質リマスタリングと紹介されている。
《ドブレ・アー》よりも《ライヴ・イン・ウィーン》は有名盤でピアソラ入門編みたいな内容だし、この2枚が再発されたのは喜ばしいことである。オリジナルのMessidor盤では Vienna Concert というタイトルの別ジャケットで再発されていたことがあって、そのため、HMVのオンラインでの表示が Vienna Concert と記載されているのだと思われる (amazonはウィーン・コンサート)。今回のビクター盤はオリジナルの白いジャケットで、タイトルもLive in Wienに戻っている。ちなみにVol.1と表示されているがVol.2は無い。

アルゼンチンの音楽といえばこの前、書店で棚をぼんやりと見ていたら『アルゼンチン音楽手帖』という本を見つけて、ガイドブックとして便利と思って買ってみたのだけれど、オシャレな装丁できれいなジャケットが並んでいる様はまるでECM盤のカタログ風で、でも幾つかYouTubeで聴いてみたら21世紀のリターン・トゥ・フォーエヴァーみたいで私の好みには合わなかった。じっくり探していけば良い音楽もあるのかもしれないが。
だから古くさくてオシャレでなくてもタンゴなのである。

ピアソラのDVDに《The Next Tango》というのがあるのだが、前半は 「我が人生を語る」 みたいなピアソラのモノローグと演奏が交互に編集されていて、後半はウィズ・オーケストラの演奏の動画が収録されている。
ピアソラの話していることは、少しピアソラに興味があれば既知の内容がほとんどなのだが、ヒナステラ (ピアソラはジナステーラと発音している) やナディア・ブーランジェといった教えを受けた教師のことなどを話しながらも、ブーランジェからは 「(クラシックなどやらず) あなたの音楽をやりなさい」 と諭された経緯があり、それがピアソラの音楽の基点となっている。タンゴは彼にとって故郷の音楽であるだけでなく、音楽以外の生活や身の回りのことやそうした諸々のものがブエノスアイレスから生じているものなのである。それでピアソラの言葉の中には、ボルヘスやエルネスト・サバトの名前とともにブエノスアイレスという言葉が繰り返し出てくる。
いったいどこまで愛国的なんだろうと思ってしまうのだが、自らの音楽が本国ではなかなか受け入れられず海外にいたときも、彼の心は常にブエノスアイレスにあったのだろう。

ピアソラのオペラ《ブエノスアイレスのマリア》でもピアソラ/オラシオ・フェレール盤を聴くとその冒頭にフェレールの語りがあり、そのフレーズの最後の決めゼリフ Maria de Buenos Aires という部分がすごくカッコイイ。
つまり日本人のとっての東京、アメリカ人にとってのニューヨークなどよりブエノスアイレスは、アルゼンチンの人たちにとって、もっと特殊で濃密な空気を湛えている都市なのかもしれないと感じる。

〈アディオス・ノニーノ〉は、父親が亡くなったときピアソラはその死に目に会えず、故郷から遠く離れた地にいたが帰る旅費がなくて、そのことを嘆いて作られた曲である。繰り返し演奏されることで、曲の本来の意味は抽象化し昇華してしまったのかもしれないが、その悲しみの深さだけは変わらずいつもそこにある。


Astor Piazzolla/Live in Wien Vol.1 (ビクターエンタテインメント)
Recorded 1983 by Österreichischer Rundfunk at the Konzerthaus, Vienna
ウィーン・コンサート




Astor Piazzolla/Tristezas de un Doble A (ビクターエンタテインメント)
AA印の悲しみ




Astor Piazzolla/The Next Tango
(国内盤は絶版のため高価である。HMVなどにDGの英語字幕の廉価盤があるが、リージョンコードに0と1がある。amazonで扱っている輸入盤はリージョン1なので注意)
ネクスト・タンゴ [DVD]




Astor Piazzolla/Adios Nonino
Utrecht, Netherlands, 1985
http://www.youtube.com/watch?v=wqSxwWgpE6A
このユトレヒトでの〈アディオス・ノニーノ〉のライヴは、ウィーン・コンサートより2年後であるが、ウィーンと同様の最盛期のキンテートによる演奏で、ピアノの長い序奏からピアソラのバンドネオンが入ってくるスリリングな部分とか、スアレス・パスの官能的なヴァイオリンなど、やや激情が強いが、この曲のベストな記録である。

Milva and Astor Piazzolla/Balada Para Mi Muerte
Paris, 1984 (動画途中に不具合あり)
http://www.youtube.com/watch?v=lgp7Bon7tA0
Balada Para Mi Muerte の日本語タイトルは 「ブエノスアイレスで私は死のう」 である。
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