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グラムロックの時代 [音楽]

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Marc Bolan

ここのところムックの話題ばかりで、ムック紹介ブログと化しているが、今日もまた。

シンコーミュージックから出された『グラム・ロック』というムックはすごく偏っているような閉鎖的な感触があって、それはおそらく監修者である大久達朗がほとんどひとりで作ってしまっているからなのではないかと思う。雑誌的なあれもこれもがなくて、こういうムックのかたちもありなんだ、と気づかされた。音楽の好みなんて偏向しているほうがかっこいい。

それで最初に結論を言ってしまうと、グラム・ロックというジャンルないしムーヴメントがあったと私たちは漠然と思わされているが、本当にグラム・ロックなるものが存在したのか、という疑問をふと思いついてしまった。

たしかにデヴィッド・ボウイやマーク・ボランをアイコンとするグラム・ロックというジャンルは歴史の中にあったのかもしれない。でもそれは、かつてのデザイナーズ・ブランド隆盛の頃のように刹那的で表層的であり、なによりも空虚なところがそれに似ている。グラムという定義は音楽の本質とは少し離れているのだろうか。

大久達朗の視点は、グラム・ロックとはまず T-REX ということであるが、それはマーク・ボランがほとんどグラムなスタイルのままで死んでしまったことにあり、スタイルの変遷を重ねていったボウイについては、やや皮肉な姿勢が垣間見られる。
それはロキシー・ミュージックに対してもいえて、私の感覚からすればそもそもロキシーってグラムなの? という驚きのほうが強いが、出自からすればグラムなのだろう。

それは大久がインタヴューをしている日本人の人選にもあらわれていて、マーク・ボラン・フリークである元マルコシアス・ヴァンプのアキマツネオと、異質な美少年アイドル (なのか?) であった本田恭章、という2人。かなりコアです。これがたとえば Rolly だったらフツー (ありきたりともいう) なんだけど。
そして本田恭章が最も影響を受けたのは JAPAN なのだと彼自身が語っている。

本田は JAPAN の初期アルバム《Adolescent Sex》と《Obscure Alternatives》の2枚が好きで、でもこれらは売れなかったし、3枚目の《Quiet Life》から音楽の傾向が変わり、ここから (特に日本で) 売れ始める。
本田が売れ始めた JAPAN のメンバーに会ってその話をしたところ、最初の2枚のアルバムは無かったことにしてくれ、と言われて盛り下がってしまったそうで、たしかにグラム的文脈からすれば最初の2枚にこそ、爛熟した頽廃があるのかもしれない。
JAPAN は、音楽的完成度からすればもちろん3枚目以降なのだが、グラムとはパンクの源泉でもあって、それはスタイルであり、完成度ではないということなのだ。

気に入らないものも含めて全てがその人の音楽作品として残されるものだとするのならば、そしてそれはなにも音楽に限らないが、処女作にこそ本質が現れるのだというのなら、シルヴィアンのネガティヴな発言に惑わされず《Adolescent Sex》をもう一度聴き直してみるべきなのかもしれない。

大久はグラム・ロックのジャンルとしての特異性をINTRODUCTIONで次のように述べている。

 音楽のジャンルを分ける単語のほとんどは一定の様式=フォーマットを
 ルールとしてテリトリーを設定し線引きが行われますが、グラム・ロッ
 クの場合にはそれがありません。1950年代の音楽も2010年代の音楽も
 なんら隔てなく対象となって然るべき、なのです。ただし、グラム・ロ
 ックと呼ばれるにはやはり最低限のエレメンツが求められます。それは
 「その音楽がグラマラスかどうか」 ということです。(p.12)

こうしたテリトリーのやや曖昧なグラム・ロックというジャンルの中で、大久が最も典型的なスタイルであるとするのがマーク・ボランであり、そのボラン・フリークとしてずっとやってきたアキマツネオの2つのインタヴューは興味深い。
グラム・ロックは今、過去を振り返れば一定のテリトリーを形成しているが、その当時は、先の大久の記述にもあるように線引きがなかったこと、そしてグラムに限らず、当時のトレンドのムーヴメントの期間は意外に短いことが多いとあらためて思う。

アキマツネオは語る。

 70年代の頭にイギリスで、T. レックスがグワっと盛り上がってきたとき
 に、その盛り上がりを表現する言葉として “グラム・ロック” って言葉が
 使われ始めたんですよね。だから俺なんかは、グラム・ロックと言えば
 T. レックスのことしか考えられないわけです。他のバンドやアーティス
 トを全部入れたとしても、共通項は何かといったら “化粧してる” ってこ
 とくらいしかないんですよね。グラム・ロックは音楽のジャンル分けの
 ためにできた言葉ではない、と。

 ロンドン・ポップとグラム・ロックはいつもゴッチャになってる。音楽
 的にはロンドン・ポップだけど、化粧すればグラム・ロックなのか? そ
 の辺はどこに行っても認識はみなゴッチャですよね。そんなのを含めて、
 俺の中で整理するとすれば、グラム・ロックとはT. レックスのこと。他
 は違うよ、っていうことになるんです。(p.27)

アキマのT-REX信奉の滅茶苦茶無理な定義付けだが、こうした大久とアキマのグラムへの視点が、このムックのアルバム・リストにも反映されていて、ロキシー・ミュージックは1972年の1st《Roxy Music》から1975年の《Siren》までしか選択されていない。

もうひとつ特徴的なのはルー・リードの扱いで、ルー・リード自身はグラム・ロッカーではなかったが、彼がいなければグラム・ロックは今と違った形態になったのではなかったのかと規定し、その影響力を指摘している。
またマーク・ボランのインタヴューは、1972年の『ミュージック・ライフ』の記事が転載されていて、その当時の音楽雑誌の雰囲気というのがよくわかる。大久は、今から見ればインテリジェンスが無いし残念というような感想を述べているが、それはある意味、仕方のないことで、むしろ当時のまだ未分化な音楽シーンの雑多な活力が伝わってくるようで、良い時代だなぁとノスタルジィを感じることができた。


グラム・ロック (シンコーミュージック)
CROSSBEAT Presents グラム・ロック (シンコー・ミュージックMOOK)

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コメント 4

DON

グラムは 独特っぽいですが
音楽の原点は みんな同じなんでしょうね
楽しむのが 音楽ですね
T-REXは聴くし ギターも弾きました(^^ゞ
by DON (2014-08-12 16:39) 

lequiche

>> DON 様

T-REXの演奏もされていたんですね。(^^)/

現代から見ると、当時の音楽シーンというのは
すごく混沌としているようにも感じますが、
実際には次々に流行が変わってゆく必然性があったんだと思います。

T-REX はなんとなくルーズでユルいイメージがありますが、
繰り返しの部分がほんの少し意図的に変えてあったり、
1コーラスが10小節だったり、意外にワザがあります。
ユルそうに見えるのも一種の戦略なのかもしれないです。
by lequiche (2014-08-16 00:45) 

シルフ

グラムロックとかシアトリカルロックとか呼ばれた時代がありましたが、マスコミ記事にあった言葉から創り上げたムーブメントで実際は有名無実ですよね。特にT-REXは私、大好きなんですが、日本じゃ完全にアイドルポップス扱い(まぁ英国でも似たような風潮があったけど)ずいぶんと誤解されてますよね。
詩をじっくり見ればわかるんですが…。『地下世界のダンディ』とか『スライダー』とかね。
ロキシーなんて当時イーノが化粧してただけでグラム扱い?
シルヴァーヘッドなんかもそうだったけれど、ヴォーカルのマイケル・デヴァレスは結構インテリで後にいい映画俳優にもなってたしね。スレイドなんかもグラムだったのかな。コックニー・レベルなんかも?アレは普通にロックです!
by シルフ (2014-08-20 07:53) 

lequiche

>> シルフ様

あ〜、やっぱり。(^-^)
ただ、再掲されているミュージック・ライフの記事を読むと、
T-REXもジャクソン・ファイブも同一線上なわけで、
音楽ビジネスとしてはまだ未分化だった時代なんだと思います。
ビートルズの当時の記事などでも、
ジョン・レノンは皮肉を言ったりふざけたりしてるんだけど、
インタヴューアーはそれが理解できてなかったりする……。

でも逆にジャパンなんかは最初ミーハー人気ばかり高くて、
後からだんだんと評価されていった経緯があるようです。
またチープトリックの場合は、わざとアイドルポップス路線にして、
日本のミーハー人気を利用したみたいな感じもします。

ただ、たとえばパンクとかメタルとかと違って、
グラムっていうのは音楽ジャンルじゃなくてファッションですね。
というように感じました。
by lequiche (2014-08-21 02:38) 

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