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時をかける運転手 — 素敵な選TAXI [雑記]

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TVドラマの《素敵な選TAXI》が面白い。火曜日の午後10時という中途半端な時間で、見るともなくたまたま第5話を見ていたらハマッてしまった。こういうドラマでハマッたのは《のだめカンタービレ》以来かも。

ドラマの設定を一応書いておくと、タクシー運転手・枝分 (えだわかれ:竹野内豊) の乗っている古いクラウンのタクシーが実はタイムマシンで、ああ失敗した、と狼狽えている乗客を乗せて希望の時間まで戻り、失敗をやり直しするというSF風コメディである。

ただ、ドラマの中にドラマがあったりとか、妙なこだわりがあちこちにあって、視聴率は時間が遅めなこともあってそんなでもないのにもかかわらず、マニアックにウケてるような気がする。
タクシーはタイムマシンなのだが全然それっぽいところがないので、というか特撮とかそういうのを使おうとは最初から考えていないので、その何も起こらないということをわざとギャグにしてゴーグルをかけてみたり (バック・トゥ・ザ・フューチャーのパロディ。だからタクシーはつまりデロリアン)、洗車機に入ってブラシの回転する様子がワープっぽくないか、などと枝分に言わせたり、なかなかオトナっぽいシャレが詰まっている。

マジメに見たのは第6話からなのだが、第6話は栗山千明がゲスト (主役=タクシーに乗る人) だった。彼女は芝山美空という名のマンガ雑誌の編集者で、人気マンガ家・虫海暗 (むしうみ・あん) の担当である。虫海先生は 「おひとよしトレジャー」 というマンガを描いているのだが、なかなか原稿が書けなくて3週間も落としていて、スキあらば逃げだそうとする。見事に逃げられてしまった美空は編集長に罵倒され、その失敗をやり直そうとして先生が逃げる時間の前まで選TAXIで戻ろうとする。ところが今度は別の邪魔が入って……というようなお話で以下略。

やたら落とすマンガ家といえば江口寿史が有名だったが、虫海暗という名前は、つまり鳥山明であって (虫→鳥、海→山、暗→明)、そういうお遊びが脚本を書いているバカリズムのギャグなんだと思う。こうしたノリの中に《のだめカンタービレ》に似たものを感じてしまったわけです。
虫海暗のマンガが小道具としてすごく作り込んであって、そういうのものだめのドラマに似ている。

第1話からの配役と役名を見ていたら、虫海暗だけでなく他の名前にも遊びがあって、第1話の村上秀樹 (安田顕) と浦沢香 (小西真奈美) は、村上春樹と思わせておいて、2人合わせて浦沢直樹のような気がする。第2話の髙橋雄一郎 (斉木しげる) は髙橋源一郎、第3話の野々山武彦 (中村俊介) は、福永武彦かそれとも野口武彦みたいな、作家を連想させる名前ともとれる。
虫海暗というのも単純に鳥山明のウラガエシというだけでなくて、虫明亜呂無という作家の名前も連想させてくれる。野々山武彦の妻の名前、野々山明歩 (笛木優子) は江戸川乱歩の裏返しなので (江戸→野々、川→山)、こっちが正解なのかもしれない。

第7話はこれから玉の輿結婚しようとするIT企業の社員・大西真理 (貫地谷しほり) が元ヤンキーで、それを婚約者に隠そうとして何度もリトライする話。貫地谷しほりがレディースの総長だったという設定は、彼女のキャラからすると無理っぽいのにあえてそういう脚本を書いてしまうところが楽しい。貫地谷も楽しそうに演じてるように見える。

タイムマシンという装置はウェルズの昔から (オーソン・ウェルズではない)、SF的思考の便利なガジェットとして考えられてきた。時間の間を自由に移動するというのはその不可能性ゆえに魅力的であるが、そのタイム・トラベルのありかたについては色々な考え方が存在する。

過去の歴史を少しでも変えるとすべてが変わってしまうので、タイム・トラベラーが歴史に干渉することは厳しく禁止され、タイム・パトロールという監視者をおいて強い抑止力による改変防止をするというような設定。
あるいは、過去の歴史を変えることによって、前とは異なる世界にしか戻れなくなってしまうという、パラレル・ワールド的な設定。
あるいはまた、過去の歴史を変えても、他の要素が補完し合って、結果として歴史はそんなに変わらないという設定。これらのヴァリエーションだけでも無数に存在する。

第7話で貫地谷しほりが、ちょっとだけ前に戻ってごまかすんじゃなくて、10年前に戻ってヤンキーになる前からやり直したい、と言ったときの枝分の答えが秀逸である。
それはあまりオススメしない。幾つもの要素が作用して現在の自分があるのだから、その結果としての現在が今よりよくなるかどうかはわからない。それに10年前に戻るのだと17億円くらいかかります、とのこと。

これが枝分タイム・マシンの本質なのだ。選TAXIで何度もリトライしても、その結果がそんなに変わることはない。良いこともあればその結果としてあらたに生じてくる悪いこともある。
だから選TAXIは 「戻る」 ことをウリにしているが、実は戻っても戻らなくてもそんなに変わらないということはドラえもんの数々の道具と似ていて、便利なように見えて何も役にたたないのだということを示している。

時間とは、少なくとも現在の科学の段階においては、誰にとっても平等にリニアに流れていて、時間 (歴史) を改変することはできないということである。でもその時間の改変を、たとえば神への反逆というようなシビアな考え方で捉えるのではなくて、もっと軽く、遊び/夢として捉えているのがバカリズムのテーマなのだと思う。
時間を遡り、前の失敗を訂正することはずるいことで、でもそうしてずるいことをしても結果はやっぱりダメだったみたいな、だからといってそれが教訓みたいな堅苦しいことではなくて、もっとさらっとした一種の諦念みたいなふうにそれは感じられる。

たぶん歴史の奔流は大きな力を持っていて、歴史の細かい改変など簡単に押し流されてしまうのに違いない。時間を戻してもすべてをやり直せるわけではないのだ。そう、諦念というか、もっとシンプルに、歴史とはそういうものなんだと冷静にとらえること。そんなふうに私には思えてしまう。大河ドラマなんかよりずっと深い歴史認識だなぁと感心してしまって……少なくとも私にとっては。
と思わずマジメに考えてしまったりするのだけれど、バカリズムの脚本はそんな辛気くさいものではなくて、つい笑ってしまうくらいに明るくて楽しい。役者さんたちも皆楽しそう。とても元気の出るドラマだと思います。


素敵な選TAXI
http://www.ktv.jp/sentaxi/index.html
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ぼんぼちぼちぼち

面白そうな大人のドラマでやすね。
安田顕さんは最近気になる役者さんなので、安田さんの回 観てみたいでやす(◎o◎)b

by ぼんぼちぼちぼち (2014-12-02 22:18) 

lequiche

>> ぼんぼちぼちぼちさん

おー、安田顕さん!
私も第1回が観たいんですけどまだ探していません。
役者の選択にも、ちょっとひねった感じがして、
このドラマにかける心意気みたいなものが伝わってきますね〜。
今日のも、いかにもなタイムトラヴェラーものっぽい設定で
やるもんだなぁ、と思ってました。
by lequiche (2014-12-03 04:18) 

sig

こんばんは。そんな遊び心いっぱいのドラマがあるのですか。大人向けですね。TVは全く見ないのですが、たまには注意していなくてはいけませんね。こういった時空物?、結構好きです。「インターステラー」も面白かったです。
by sig (2014-12-04 19:16) 

lequiche

>> sig 様

時間が遅めですし、
それにこういうことやってるドラマだと
あまり視聴率はとれないのかもしれませんが、
限られた人だけで盛り上がってるほうが
楽しいような気がします。(^^)

私はSF系ならなんでも好きなので。
インターステラーはクリストファー・ノーラン作品ですね。
ダークナイトはすごくよかったと思います。
2012年06月26日のブログにちょっとだけ書きましたが、
ノーランの作品は全部観たいですね。
by lequiche (2014-12-05 18:40) 

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