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La passion et le but — 1968年のセシル・テイラー [音楽]

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この頃アナログ盤をよく見かけるようになって、いままではCDだけだったのに、アナログも一緒に発売というのもよくあるように思える。LPサイズのジャケットというのは、かさばるけれどいかにも音楽が入っているという感じがして、ときどき妙に欲しくなるときがある。ジェネシスの《Selling England by the Pound》をなぜか持っていて、どうせLPで聴くのは面倒だからとCDで済ませてしまうんだけど、でもLPは持ったときの重量感が心地よい。初期のLPが復刻されつつあるのでセシル・テイラーの《Unit Structures》も欲しかったりする。

セシル・テイラーは今もなお健在で、先年、京都賞を受賞して来日したが、さすがに最近の演奏ではそのスピード感は衰えつつある。セシル・テイラーのピアノは、つまりスピードで (と言ってしまうと即物的過ぎるかもしれないが)、でもそのスピードのあらわれ方は山下洋輔的な開放感ではなく、もっと内面に入り込んでいく緻密な音群という感じがする。

YouTubeで、ユニット・ストラクチャーズを探していたら、1968年パリという動画を見つけた。
古い映像でドキュメンタリー的な構成なのだが、あっという間に見てしまった。

これは2010年に発売された《Les grandes répétitions》というDVDからの映像らしい。メディアとしてはPALだしrégion 2だし、という制約があるので日本では馴染みにくいが、メシアンやシュトックハウゼンなど5人の作曲家のひとりとしてセシル・テイラーが選ばれていて、製作はジェラール・パトリス (Gérard Patris 1931−1990) となっているが、リュク・フェラーリ (Luc Ferrari 1929−2005) の名前もある。フェラーリはおそらく監修者ということで現代音楽の一環というアプローチなのだろう。
1968年の時点でセシル・テイラーは39歳。この時代の彼の演奏は自信に満ちていて、そのパッセージはものすごく速くて変化に満ちている。ジミー・ライオンズのサイトに A Sessiongraphy というのがあって、これを見ると1968年にはマイク・マントラーのJCOAの録音が挙げられているようにまさにフリーの全盛期であるが、このリストの中に上記のパリでの記録は無い。おそらく、あくまでドキュメンタリーで正規の演奏ではないという意識があったからではないかと思われるが、この演奏は当時のセシル・テイラー・ユニットを識る上で大変参考になる。彼の最もレヴェルの高い時期の演奏であると断言していい。

冒頭にジミー・ライオンズが練習をしている部分があるが、そのフレーズはフリージャズではなくパーカー・スタイルの発展系のように聞こえる。ライオンズもアンドリュー・シリルもそうだが、その身体の動きに無駄がない。パーカーも、そしてコルトレーンもドルフィもそうだったように、ライオンズもまたほとんど身体を動かさないで指だけが異常に速く回り続ける。
シリルのドラミングも印象的だ。上半身ががっしりと止まっていて、そこから無類のパルスが打ち出される。決して走らないシリルのドラム。メトロノームでリズムを保っている状態での映像もある。
そしてセシル・テイラーの、前のめりな姿勢のままで指だけが鍵盤を確実にヒットしていく光景はピアニズムの極地であり、しかも手クセが少なく、次々にヴァリエーションが積み重なってゆく。

1970年代の彼のアルバムは1973年のソロ《Indent》と1978年の《One too Many Salty Swift and Not goodbye》がその最高到達点であると私は思うが (というようなことはすでに過去のブログに書いたが)、それに先立つ1960年代最後の頃のセシル・テイラーの凄さをあらためて思い知らされるのがこの《Les grandes répétitions》における演奏である。弾き終わった後の彼の不敵な笑いを噛み殺したような顔にその時代を見る。

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www.amazon.fr/Les-grandes-répétitions/dp/B003TLXIX8/ref=sr_1_fkmr0_2?ie=UTF8&qid=1417546721&sr=8-2-fkmr0&keywords=Le+grande+répétitions+cecil+taylor
LesGrandesRepetitions_cover.jpg

Les grandes répétitions
https://www.youtube.com/watch?v=43LMFchkXfI
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シルフ

ジェネシスの《Selling England by the Pound》ってところにセンスの良さを感じます♪アレ一番いいアルバムだもん。
セシル・テイラーもまだ現役なんだ。ジャズ・ミュージシャンって本当にスゴイねっ。
by シルフ (2014-12-03 08:50) 

lequiche

>> シルフ様

ありがとうございます。
ジェネシスのCDは《Genesis 1970–1975》という
TrespassからThe Lamb Lies Down on Broadwayまでの
初期のボックスセットしか持っていないんですが、
アナログ盤も一時大量に売っていたときがあって、
とりあえず買っておいたものです。

セシル・テイラーくらいになると
クラシックのピアニストとほとんど同じで、
もはやテクニック云々じゃなくて、もう存在感だけですよね。
滋味溢れるっていうのか、今の弾き方はそういう感じです。
by lequiche (2014-12-03 11:59) 

mwainfo

youtube セシル・テイラーの情報有りがとうございます。
by mwainfo (2014-12-05 20:42) 

lequiche

>> mwainfo 様

いえいえ、偶然見つけたものですので。(^^)
映像としてはカメラワークもシロウトみたいですし、
英語でしゃべっているところにフランス語字幕なので
聞きにくいですが、演奏そのものは相当いいと思います。
演奏だけ完パケだと絶賛なんですが、それがちょっと残念です。
by lequiche (2014-12-06 01:28) 

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